試験開始
冬の寒さも厳しくなった頃、レオンハルトたちは試験の会場である王立養成学校に来ていた。
同行者は2人の母親と、護衛のダレンにお世話メイドのピアの4人だ。
父親2人は政務で忙しくて来られなかった。部下たちと一悶着あったものの、概ね納得して仕事に出掛けて行った。
駄々を捏ねるような父親の姿が、2人の子どもたちにはカッコ悪く映ったのだ。
子どもたちのビミョ~な目を見た瞬間に、自分の城まで飛んで行った。
「おっきい学校だね~!? オレの家よりスゴく大きいよ」
王都の大きさにも驚いていたが、学校も王立だけあってかなり大きい。
リンフォード王国の未来を担う人材を育成する学校なので、金を掛けたらしい。
「デカイですよ。王都の20分の1ほどの面積を使っているそうなので」
ダレンの説明に、レオンハルトとフィーリアは目を丸くしている。
「試験がんばろうね、レオ君!」
この日のためにフィーリアも努力したので、前の日から随分と張り切っていた。
「オレたちなら大丈夫だ! 2人で一緒に学校に行くんだから!」
レオンハルトの力強さが、繋いだ手からフィーリアに伝わり元気付けた。
「レオ! 本気を見せなさい! みんながビックリするからね」
「イヤイヤ、姉御。魔法剣だけは隠さないと。若が強くなるまでバレたら困りますよ」
息子以上にやる気を見せるセレスティーナを嗜めるダレン。
2人の家族と使用人たちで話し合って決めたことだ。
レオンハルトが強くなり、自分の力だけで他者の干渉をはね除けられるようになるまでは、人前で使わないようにする。
もしバレた場合は魔剣の能力ということにして誤魔化すつもりだ。
そのため、レオンハルトは魔剣ストレイヴを父から貰っていた。
冒険者時代にさまざまな宝を手に入れたエルネストの、自慢のコレクションの1つである。
魔剣はブロードソードタイプで、まだレオンハルトには大きい。
背中に背負っているが、しゃがむと地面に当たってしまう。
貰ってからは、大喜びで肌身離さず持ち歩いていたので、食事時などに老執事のロベルトに叱られている。
「そう言えばそうね! 私の息子の天才ぶりを隠さないといけないのは嫌だけど」
冒険者の頃に魔法姫セレスと謳われていただけあって、ツンとした表情は未だに魅力的だ。
「はしゃぎ過ぎよ、セレス?」
ニコニコしながらも妙な迫力で迫るフィーリアの母、エステルの雰囲気に周囲がザワついた。
「ぼっちゃま。このピアが応援していますから頑張って誤魔化してくださいね」
普段から2人の奥様方と接しているだけあり、ピアは呑気にレオンハルトの応援をする。
レオンハルトなら誤魔化しながらも合格すると思っているのか、誤魔化すほうを頑張るらしい。
「心配ないよ! ピアはオレを信じて待ってて」
「はい! ピアはぼっちゃまのことを誰より信じていますよ~」
メイドとは思えない馴れ馴れしさだが、レオンハルトたちの家ではこれが普通だ。
周囲から浮いていたが、滞りなく試験会場まで到着した。今日の参加人数は200人ほどだ。
試験自体は受付可能な年齢ならいつでも受けられるが、大抵は入学式がある、春の1月より前の、冬の1月から3月に受けに来る。
保護者と別れた6歳から8歳の子どもたちが、巨大な教室の机に座り、試験開始を待っていた。
やはり8歳が最も多く、年齢が下がるにつれて少なくなっていく。
レオンハルトたちも案内に従い、席に着く。隣同士だが席の間隔は2メートルは離れている。
「レオ君、ドキドキするね? どうしよう」
「オレとリアなら大丈夫って言ったろ? あんなに勉強したんだから2人で入学できるさ!」
励ますレオンハルトも、フィーリアと少し離れているせいか不安げだ。
2人は試験開始まで、他愛ない話で緊張を誤魔化しながら、卒業してからの冒険を話し合った。
試験内容は筆記試験から始まる。
文字が書けるのが大前提の条件なのだ。
一般常識や計算などが問題に出る。
この試験だけでは決まらず、受ける科によって違う実地試験の成績が良ければ、筆記試験の成績が低くても入学可能な場合もある。
実地試験は騎士科なら武術や礼儀作法を見られ、文官科なら更に難しい筆記試験を受けなければならない。
魔法科は古代魔法文字の習熟度と魔力操作を試験される。
商業科なら物価の相場などの筆記試験、練金科ならポーションを実際に作る。
レオンハルトとフィーリアが受ける冒険科では、薬草の知識や魔物の知識を試される。
そのあとに、実際に試験官と戦って戦いの実力を見る。
戦う力のない者は、それぞれパーティーを組んだ時の役割に沿った試験を受ける。
フィーリアの場合は神聖魔法の知識と魔力操作を試験される。
現状で魔法を使える者は、まず居ないのでフィーリアが高い評価を受けるのは確実だ。
「さて、諸君! 試験開始の時間だ! 遅刻した者は今回は失格となる! 難しい試験だが成績だけでは決まらないので頑張ってくれたまえ!」
試験官の文官のような格好をした年嵩の男が試験内容を説明する。
他の子どもたちも、特に8歳で後がない子どもたちの緊張がひどい。
レオンハルトたちは、お互いの目を見詰めて1つ頷くと、配られたテスト用紙に視線を移した。
「全員受け取ったな? 試験開始だ!」
一斉に用紙を捲る音が響き、インク壷を開けた。
レオンハルトたちの初めての試験が始まった。