貴族
レオンハルトたちがダレンの仕事に何度も付いて行った間に、父親たちは王都に滞在していた。
国境の街であるグランフォードから王都フォードラムまでは、馬車で半月近く掛かり、飛竜だと1日で着ける。
エルネストたちは飛竜を持っているので、結構気軽に王都まで呼び出される。
「じゃから、いい加減首を縦に振ってくれぬか?」
自室のソファーの対面に座っているエルネストとフランクに向かって頼んでいるのは、リンフォード王国の12代国王、ランドルフ・エル・リンフォード。今年、51歳になる立派な髭を蓄えた壮年の男性だ。
シブい知性的な目尻を下げて、困り果てた表情で頼んでいる。
頼みごとの内容は、正式にグランフォード領を拝領し、辺境伯となって欲しいということだ。
フランクにはもう1つの隣国との国境を任せたいと思っているらしい。
2人に、かつての敵国との国境を任せれば、2国に攻めにくいと思わせられ、国としても領主不在という不安定な状態を解消できる。
辺境伯と言えば、国境の守備を任される重要なポストなので、国王に準ずる権限がある。
例えば、戦争なども国王の勅許なしにできるし、ほぼ独立した国と言っても差し支えない。
一冒険者に過分な報酬ではあるが、4人で一軍を相手にできる戦力を手放したがる国はない。
「陛下の御厚情はありがたく思いますが、私の娘がエルネストの息子のレオンハルトと離れたがらないでしょう。私も家族を置いて行くつもりは御座いません」
特にグランフォードを離れなければならないフランクが渋っている。
「俺も貴族なんて性に合わないですよ」
エルネストの答えも昔から変わらない。
「2人の子どもたちも、王立養成学校に入学する前に貴族の立場があるほうが有利なはずであろう?」
搦め手を使っても2人に国境の守備を担当して欲しいようだ。
「成り上がりとかって目を付けられるだけじゃあないですか?」
冒険者の息子なら貴族関係の面倒ごとも関係ないだろう。
英雄の息子ということで目立つが。
「お主たちの子息に絡むようなバカは家臣に要らんわ! 蹴散らしてしまえ!」
過激な国王である。
しかし、冒険者が居なければ国の運営にも支障が出るので、大事にするのは当たり前だ。
国中の問題を騎士や兵士だけでは解決できないのは明白だし、魔力エネルギーがなければ、灯りや水道も止まって灯油や井戸が必要になる。
発熱板も動かなければ、風呂や食事の支度などに大量の薪が消費される。
国営の大浴場も運営できなくなり衛生面でも問題がおきる。病気に罹りやすくなり、薬代に人々の生活も圧迫されかねない。
最悪、伝染病などで人口が激減して国が立ち行かなくなる。
常日頃から魔物を退治する冒険者は必要な存在なのである。
古い慣習に凝り固まった貴族などは、野蛮な人間と蔑んだりしているが、国をキチンと統治している貴族は理解しているので、蹴散らしても問題ないかもしれない。
「では私は辺境伯ではなく、エルネストのサポート役にして頂けませんか? 片方だけでも守れば国も充分ラクになりましょう。エルネスト、レオ君の件もある」
フランクはどうしてもグランフォードの街を離れたくないらしい。
「おお! 俺もフランクがサポートに付いてくれるなら心強い。生まれた国にも愛着がありますし、子どもたちの平和を守れるし。実は息子の護衛のダレンから飛竜で連絡があって、息子が凄いことをやったらしく、国の立場があると多少は安全になる気がしてきたので」
エルネストも乗り気になる。
やはり頼りになる幼馴染みで親友と離れるのは寂しいのだ。
レオンハルトの合成魔法の技術の問題も、国がバックに付けば力ずくでなんとかなる。
「う~む……仕方ない。あまり無理難題を押し付けて断られると困るからの。ではエルネストが辺境伯としてグランフォード領を守ってくれ。フランクは余が直臣の子爵にするか、エルネストが伯爵の位を与えて陪臣にするか好きにするがよい」
直臣だと国王の臣下になり、陪臣だとエルネストの臣下となる。
「直臣にしとけよ。俺はフランクが部下なんてやだぞ?」
友達が部下というのは居心地が悪いらしい。
「ああ! 俺もエルネストとは友でいたい」
2人には爵位など関係ない。
「ふぅ。これで余の肩の荷も軽くなるというものじゃ!」
貴族たちから早く領主を決めて欲しいとせっつかれていたのだ。
早く決めて欲しいが、自分はいつ戦争になるか判らない領地は欲しくないのだ。
「では文書を用意するかの。お主らの性格じゃと堅苦しい式は嫌じゃろ? なしにするから気が変わらんうちに受けとってくれ」
その場で必要な書類を用意し、王印を捺して2人に渡す。
「助かりますよ陛下。俺も早く帰って息子の話を聴きたいですからね。国境の守りは任せてください」
「私も娘のことが心配なので、これにて失礼させて頂きます」
「うむ。お主らの子どもは余の孫も同然じゃ! 王都に来た時は城に自由に来るように伝えてくれ」
王族の剣術指南もしているので、家族ぐるみの付き合いだ。
王は冒険者に憧れ、国を救って貰った恩義も手伝い、2人のことは息子のように大事にしていた。
レオンハルトたちが学校に通うのが心配になるような贔屓する大人たちだった。