古代文明の遺産は便利に使われてます
──あ~、若に何て厳しいことを言っちまったんだ! 若はまだ6つだぞ!? …………でも若の力なら、いつかぶち当たる問題だしな~。ていうか若はやる気だしな。教えておかないと余計に傷付くことになるかもしれないし。
ダレンは悶えていた。
厳しいことを言ったくせに、弟のように大事にしているレオンハルトに対しては、ぶっちゃけヘタレだった。
「ぼっちゃま、リア様。お水を飲みますか?」
ゴブリンの牙を切り取りながら苦悩するダレンをよそに、ピアは2人の世話をしていた。
「ありがとう、ピア!」
「リアも飲む~。ピアさん、ありがとう!」
ピアの神聖魔法で浄化した水を、2人は嬉しそうに受け取った。
神聖魔法は回復などを得意としているので、毒などの浄化をアレンジした魔法を使い、人体に有害な水も浄化できる。
ピアはレオンハルトの冒険に付いて行って世話をするために、武術や魔法の訓練もしていた。
そんなピアを見て心配になったのか、エルネストがピアに結婚を勧めていた。
10代で結婚するのが当たり前の感覚なので、20歳のピアに結婚を勧めるのも無理はないのだが。
──旦那様もわかってないな~。私はぼっちゃまのお世話ができれば幸せなのに! しょ~もない男の世話をするより、ぼっちゃまのお世話がいいもんね! はう~ん、ゴクゴク水を飲むぼっちゃまも可愛いな~。毎日成長するぼっちゃまを見逃すわけにはいかないわ! ぜ~ったい付いて行くんだから!
雇い主の心配も気に留めず、レオンハルトを見るのに夢中だ。
「ねえダレン。ゴブリンから光の玉がダレンに吸い込まれたけど何なの?」
水を飲み終わったレオンハルトが、ピアにコップを渡しながらダレンに訊いた。
「え? ああ! 忘れてました。これに吸収されたんですよ。冒険者証です」
胸元から引っ張り出したカードを見せる。
「これは魔力を吸収して蓄える性質がある鉱石で作られてるんですよ。このライセンスを冒険者ギルドにある機械に通すと、吸収した魔力を読み取って何を何匹倒したかが判るんです。古代文明の技術ですが、何百年か前に遺跡から発掘されて使うようになったんです。魔力パターンは種族ごとに違うから、魔物の種類や数も判明します」
古代文明は1万年ほど前に、原因不明の崩壊を迎えた。
人類も激減し、充分な人口になるまで五千年以上掛かっている。邪神竜なども暴れていたので尚更である。
邪神竜が眠りに就いてから、文明がここまで回復するのに2千年は必要だった。
目覚めた邪神竜を、将来レオンハルトが倒すのだが、復興が送れた原因の1つが邪神竜にあることは明白だ。
「冒険者の仕事に、学者の護衛とかがあります。見付けた古代文明の遺産を持って帰るのも仕事の内です。こうやって恩恵も受けていますし」
冒険者の仕事は国にとってもなくてはならない仕事なので、王立養成学校でも教えている。
「ゴブリンのキバを切ったのは何で?」
ライセンスに記録されるなら、討伐証明は要らないので気になったのだろう。
「魔物の部位は何かに利用できるんです。ゴブリンの場合は牙を削って粉にすると魔法の薬品の材料になりますから。鍛冶仕事に使う薬品だそうです」
それらの知識も学校で習える。
そうでない場合は、冒険者ギルドで調べるか職員に毎回訊く必要がある。
「魔物の死体は放置して──そのままで大丈夫な魔物と燃やしたり埋めたりしないと駄目な魔物もいます。ゴブリンに関してはほっといて大丈夫です。ゴブリンの肉が好きな魔物が食べてくれますし、疫病や強い魔物を呼んだりもしません」
言葉がレオンハルトたちには難しいかな、と思ったダレンは言い直した。
「それより若、次は若も戦うそうですけど、ゴブリンは基本的に群で行動します。3匹だったのは近くに巣があるからでしょう。どうします? ゴブリンはほっとくと増えて、食料が足らなくなると村の畑なんかを狙うので、見掛けたら潰すか冒険者ギルドに報告しないといけません」
巣は危ないので、レオンハルトが戦うのは反対したいと顔に書いてある。
「もちろん行く! 村がおそわれたら大変だ」
ゴブリン程度なら、レオンハルトの魔法で殲滅できるだろう。
「……わかりました。若の意向には逆らえません」
ダレンはレオンハルトにとことん弱い。
「ぼっちゃまに勝てる人はお屋敷にいませんからね~。ダレンさんも仕方ないですね」
ピアも結局は従う。
もっとも、レオンハルトが弱ければ2人とも猛反対していただろうけど。
「レオ君、がんばってね! ケガしないようにリアがおまじないするね!」
フィーリアはレオンハルトのホッペにキスをしてから、ぎゅっと抱き付いた。
フィーリアのおまじないが終わり、レオンハルトたちはゴブリンの巣を探した。