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最強無敵のユーミルファナー  作者: 王国民
1章 英雄誕生
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生き物を殺すということ そして生きること

 しばしの間、自然の美しさに目を奪われていたものの、レオンハルトとフィーリアがもっといろいろな物を見たい気持ちを抑えられず、手を取り合って駆け出した。


「リア、行こっ! もっとおもしろいことがあるかもしれない」


「うん! キレイなお花がみたい!」


 慌てて2人に付いて行くピア。

 ダレンが前に出て、安全なほうにそれとなく誘導する。


 屋敷の庭では見掛けない珍しい鳥を見付けて立ち止まり、風に揺れて香りを振り撒く花に顔を寄せ、可愛い小動物を追い掛ける。

 ピアは2人のはしゃぎように大変な思いをしながらも、1つ1つ説明をして勉強させている。


「若、お嬢。お楽しみの中、お邪魔してすみませんけど、魔物が来ますよ。気を付けてください」


 美味しそうなエメラルド色の木の実を食べていたレオンハルトも顔を上げ、気配を探る。

 魔物の気配がするほうを睨み、フィーリアとピアの前に出た。


「さすが若、気配察知が早いですね」


「さすがに気づくよ。これだけ近づけば」


 むしろこの距離まで気付かなかったのを恥じているようだ。

 まだ見えていないので、子どもが気付かなかいのも当たり前なのだが、本人は納得できないのだ。


「ぐぎゃぎゃぎゃあぎえ!!」


 1分ほど経過して、草むらの向こうから112センチのレオンハルトより少し大きい、濃い緑色の体色をした人型の魔物が現れた。

 赤い目に殺気が走る。牙の覗く口元からヨダレを垂らしてナイフを構えた。

 数は3匹だけ。ゴブリンは群で行動するので、少ない数だ。


「それじゃ若、お嬢、ピアさん。下がっていてくださいよ」


 金属鎧を鳴らし、背中の大剣を静かに抜く。

 ダレンにしてみれば雑魚なのだが、子どもたちが居るので気は抜けないのだ。


「ダレン。殺しちゃうの?」


「ええ、若。しっかり見ていてくださいよ? これが戦いなんですから」


 言うなりゴブリンに向かって飛び込む。

 ダレンの放つ殺気に怯え、身動きせずに固まっていたゴブリンたちは、反応すらできずに2匹まとめて両断された。


「ぎゃぎゃぐぎゃぁぁぁ」


 嫌な断末魔の声を上げて倒れる。

 フィーリアが耳を塞いでレオンハルトの背中に顔を押し付けた。

 レオンハルトも少し顔を青くなっている。


「ぼっちゃま、大丈夫ですか?」


 ピアの声も聞こえていないのか、血の噴き出すゴブリンの死体を凝視している。

 ゴブリンの死体から光の玉が浮かび、ダレンの胸元に吸い込まれる。


「はあっ!!」


 気合い一閃、最後のゴブリンは縦に真っ二つにされた。

 血と内臓を撒き散らして倒れたゴブリンから、光の玉が出てダレンの胸元に吸い込まれた。


「若、お嬢。これが戦いです。どうですか? 冒険者の仕事は綺麗なものだけじゃない。こういった汚いものを見ることもあります」


 2人は先ほどまでの元気を失い、消沈してしまっていた。


 初めて見る人型の生き物の死体。鼻を刺激する血の匂い。血走っていた目から失われた光。虚ろな目が自分を責めているようで、2人は目を逸らした。


「目を逸らしても死体は消えません。世界中に死は蔓延していますよ。俺や若たちが普段食べているものも、元は生き物です」


 知りたくなかった現実を知り、2人とも泣き出しそうな表情で俯いた。


「若、お嬢。生き物が生きていくというのは、綺麗なことじゃありません。どんな小さな生き物も他の命を奪って生きます。目に見えない病気の元も、若たちが好きな草食動物だって命を繋ぐために必死で生きます」


 厳しいような、労るようなダレンの声に顔を上げるレオンハルト。

 フィーリアは涙を溜めて見上げる。

 2人のその手は、お互いの心を伝えるように、痛いほど固く繋がっている。


「生き物はそうやって命を受け継いでいくんです。仲良くできる命もあります。奪わなければ生きられない命もあります。自然と共に生きる動物や魔物はそれを知っています。こちらに対して容赦はしてくれません。……若、お嬢。他の命を悼むことは大事です。でも、自分の命も大事にしてください。戦いはその命のやり取りなんですから、遠慮なく相手を殺してください。戦場は遊び場ではなく、戦士が大事な者のために命を捧げる場所ですから」



 いつしか、レオンハルトの瞳に力が戻っていた。

 真っ直ぐに死体を見詰め、頷いた。


「わかったよダレン。……正直に言うとむずかしくて解らないところもあるけど、僕は守るために戦うことを決めたんだから戦いで迷ったりしない。リアが笑っていられるように、汚いところは僕が引き受ける!」


 ──強くなるんだ! 僕の大事な人たちを守るために。


「次の敵は僕が戦う! 大事な人たちといっしょに生きるために敵は倒すんだ!」


 泣き出していたフィーリアも、左手から伝わる大好きな少年の、力強くて温かい気持ちに応えて涙を拭いた。


「ならリアは、レオ君がくるしい時はそばにいる! どんなに汚れてもずっとそばにいる!」


 ──リアはぜったい! レオ君から目はそらさないの! ゴブリンさんからは目をそらしちゃったけど、レオ君をずっと見てる!


 2人はお互いの目を見て、想いを伝えた。

 世界の残酷さに、信じていた足場が崩れるような感覚に戸惑っていた2人は、お互いの手の温もりで支え合っていた。

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