ダレンと勝負
カンッカンッと木剣を打ち合う音が屋敷の訓練場に響く。
学校に通うことが決まってからレオンハルトはますます頑張り、暇を見付けては屋敷の警備係と試合をした。
現在は自分の護衛で、現役冒険者のダレンと勝負中だ。
ダレンは中堅の冒険者で、剛剣のダレンの二つ名を持っている。子どもが戦える相手ではない。
数メートルの距離を瞬時に詰めて、掬い上げるような一撃をダレンの顔を目掛けて繰り出す。
その速い打ち込みをギリギリで受ける。
レオンハルトの背が小さく、かなり近い場所から顔を目掛けて繰り出すので受けにくいのだ。
近付き過ぎると剣が振れないので、絶妙な間合いで攻めてくると言える。
そのまま2時間は試合が続き、お互いの疲労が限界に達したのか、隙を窺っている。
荒い呼吸を整えると、最後の一撃を放つために構えた。
ダレンは剛剣の名に相応しく、大上段に木剣を掲げ、レオンハルトは居合い抜きのように腰溜めに構えた。
勢いを付けるために、左手で木剣を力いっぱい握っている。
「若、いきますよ? 俺の渾身の一撃です」
3歳の頃から剣を合わせてきたレオンハルトの成長を喜び、最近は全力で相手をしていた。
「いいよ。僕だって全力だ!」
「「はあァァァァァァァ」」
気合いの声と同時に、2人とも自分の間合いに踏み出す。
レオンハルトに上段からの打ち下ろしが迫る。その速度は端で見ていたフィーリアの目には追えなかった。
その剣に合わせて、レオンハルトが斜めに斬り上げた。
2人の木剣が当たる瞬間、レオンハルトが身体を斜め前にずらした。
ダレンの顔が驚愕の色に染まる。
木剣が躱され、自分の身体に衝撃が走ったところで、ダレンの意識は途切れた。
「ぐっ、いててて………………あちゃ~若に負けた」
目を覚ましたダレンが見たのは、屋敷にある自分の部屋の天井だった。
負けたわりには嬉しそうに笑みがこぼれている。
「6歳の子どものパワーじゃないな。巨人系の魔物に殴られたみたいだ」
しかも、付与魔法も使っていない状態なのだから末恐ろしい。
ついでに言えば、エルネストの得意技の戦気功と防気功という、生命エネルギーを力に変える技を練習中なので更に恐ろしい。
「約束は守らないとな」
「「やった~!」」
ボソッと呟いたダレンの言葉に歓声が上がった。
ベッドの下からレオンハルトとフィーリアが這い出してくる。
「若、お嬢!? 気配はしなかったのに!」
驚くダレンをよそに、2人は手を取り合って跳ねている。
2人が喜んでいる約束とは、現役冒険者のダレンの仕事の見学をさせてくれるということだ。
自分と戦えるならいいですよ、と言ってしまったのだ。
「若はともかく、お嬢の気配はなんでです?」
気配を消すための訓練をしているレオンハルトなら、気配を掴み損ねるのは仕方ない。
しかし、寝起きとは言え、現役冒険者のダレンがフィーリアの気配に気付かないのもおかしい。
ダレンも屋敷に来る前は、13歳の頃から野宿を繰り返し、魔物が蔓延る世界で冒険者を生業にしていたのだ。
現在も護衛が休みの間は冒険者をしている。
「僕は気配を消してたけど、フィーリアは魔法でかくれてたんだ」
「ママにならったの~! まほーでけっかいをはったんだよ」
神聖魔法は浄化、回復、防御系の魔法が得意なので、防御魔法で結界を張ったのだ。
音や匂いなども遮断してしまうので、ダレンも気付かなかったのだ。
フィーリアもレオンハルトと学校に通うことに決まり、今まで以上に頑張って勉強をした。
好きな人と一緒に居るための健気な乙女の努力は無敵だ。
「はあ~、若もお嬢も頑張りましたね」
感心するような溜め息を吐き、2人の頭を優しく撫でる。
小さな主人たちの、恥ずかしいような誇らしげな表情を見て笑顔を深める。
「わかりました! 俺も男です。負けを認めて、約束通りに冒険者の仕事を見せましょう。旦那と姉御には俺から伝えておきますから準備だけしてください」
「リアッ! おやつのじゅんびだ!」
「レオ君、おようふくもいるよ?」
「ぶきとぼうぐも持ってこう」
「テントもいるかなぁ?」
手を繋いで駆けていく2人を生暖かい笑顔で見送るダレン。
──そんな難しい依頼は受けないんだけどな~。
ガッカリしやしないかと心配するダレンは、2人を日帰りの依頼に連れて行く許可を取りに、街の練兵場に向かった。
明日から投稿時間がズレます。
書き直して予約投稿してから見直しますので。
なかなか納得のいく文章って書けませんね。
毎日更新は変わりません。