6
次の日の朝。
俺は半分眠い状態で此処に立っていた。
此処とは、ゲートの手前。この扉の先がこれから行く人間界に繋がっている。
扉と言っても簡単には行き来できないよう強硬な術が施されている。その術を解除するには大神皇様か七賢者の力が必要。
ということで、隣には我が師匠にお出でなさってもらっている。まぁ寝てるが。
しかし器用に立ったまま寝てるのだから驚きだ。
「師匠殿よ、そろそろ起きてはくれないか?」
しかし反応は皆無。仕方ないので、召喚魔術で適当になにか召喚してみた。ターゲットは師匠の頭上。なにが出るかな?
暫くして、空間に歪みが出てきた。歪みから生まれたものは……ドラム缶だな。
ふよふよ浮いていたドラム缶だが、やがて万有引力によりそのまま落下。落下地点は師匠。そして両者がかち合う。
「へぶっ――――!!」
と奇妙な声を上げてドラム缶の餌食になる我が師匠。
下敷きになる様を確認して、ドラム缶を撤去。見事にプレスされた師匠が完成だ。
「痛ぅ~……」
頭を抑えて師匠が起き上がる。
「おはようございます師匠。目覚めの気分はいかがですか?」
「最悪だよ! まったくさぁ、あれほど召喚魔術は使うなと言ったのに全然言うこと聴かないよね!」
「師匠を起こすのにはピッタリかと」
「まだ使いこなせてないくせに。大体人を起こすのにはあんなの要る普通!?」転がるドラム缶を指差す師匠。
俺はしれーっとした顔で言い返してやった。
「一応中身は抜いておきましたよ?」
「そーいう問題じゃないからっ!」
それから、師匠と談笑しながら女を待つ。師匠は自分に降ってきたドラム缶に腰をかけている。
やがて、昨日出会った女がやって来て合流する。
女の傍らには1人の男の子。前を見ないでずっと俯いている。
「おはようございます。お待たせしてしまい申し訳ありません」
女が師匠に向かって一礼する。
「あ、いや、別に気にしないでよ」たじたじな師匠。
「そうですか? フフっ、ありがとうございます」
ニコニコと満面の笑みを師匠に向ける。それを見て師匠が赤面する。なんとも初なものだろうか。
女が向ける笑顔は所詮目上のものに対する作られたものだろうに。
考えてみれば、七賢者である師匠の周りはジジイばかり。かつ王宮は堅苦しい人間ばかりだろうから、女に対する免疫も付かなそうだ。
まぁ、相手がかなりの美人と来れば効果は倍だろう。
この女、確かに他とは比べられないほど。一言で云えば容姿端麗。
彼女に熱く見つめられれば男などイチコロだろう。
取り敢えず、俺がこの場を仕切らせていただく。
まずはお互いの挨拶からいこう。いつまでも『女』ではあまりに失礼だろうから。
俺は女に向かい、口上する。
「俺の名は、ベルモーネ。ベルと呼んでくれ。あとこちらは、まぁ分かるだろうが、七賢者のムール氏だ。色々あって俺の師匠を務めておられる。失礼だが、貴女の名前を伺いたい」
対して女が柔らかい笑みを浮かべてくる。
「これはご丁寧に。わたくしはシンシア=ヴィルフェルラと申します」
「ヴィルフェルラ? もしや、あの麗紅一家と名高いヴィルフェルラ家かい!?」師匠が驚いて彼女に問いかける。
「そう呼ぶものもおりますが、それは古神時代に付いたものでして。今のヴィルフェルラ家は大神皇様にお仕えする一神族に過ぎません」
「ふぇ~。しっかし驚きだなぁ……」
天を仰ぐ師匠。
ちょっと待ってくれ、全く話についていけない。
麗紅一家? 彼女の家系がなにか特殊なのだろうか?
俺の顔を見た師匠がそことなく察してくれた。
そして、語ってくれた。彼女の家系を。