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今人間界に忍び寄る影があった。
人を憎み、復讐のために生きてきた男。魔王。
魔王が人間界を滅ぼそうとして最近活動を始めたらしい。
地上で起こる天変地異の数々は、まさしく人間を滅亡へ誘う行進曲のようだ。
我ら神の世界でも対岸の火事とはいかないようで、人間界の次はきっとこちらの世界を攻撃してくるに違いないと踏んだ中央朝は、七賢者と大神皇に助言を求める。
大神皇及び七賢者は全会一致で人間界守護を決定。
魔王の本拠地魔界と人間界に間者を送り込み、情報収集を開始。
そして、魔王が人間界へ総攻撃を仕掛ける情報を掴む。
大神皇の命により先遣隊を送り込むことが決まる。
先遣隊の使命。本隊到着までの情報収集及び魔王総攻撃に付随する勢力の一掃。または、魔王への陽動、情報操作等々。
かつ、人間界においての協力者の捜索と接触。
実は、この協力者ってのは俺が知っている人物だった。
協力者の名は『橘つぐみ』という。
彼女と最後会ったのはいつだったか。俺が人間界に紛れ込んでしまい偶然出会ったのが彼女だったのだ。
普通、人間には俺らみたいな神々を直接視ることはできない。彼らは神を具像化し崇拝することしかできないのだが、その中の一握りの人間に限って俺らを視ることができる人種が存在する。
それは、神官だったり、聖女といった特別の修行を積んだ者や特殊の血筋を持つ者たち。
そして、彼女は代々の神家であり、彼女自身生まれながらの巫女だった。だから、彼女には俺の姿を認識できたのだ。
どういう偶然か分からないが、あの時出会った娘に会うことができる。それだけでも気分が高揚してしょうがない。
俺が初めて会ったときはまだ、小さな幼女だった。あれから幾分か年月が経ったから、今頃は成人間近くらいだろうか。
早く会ってみたい。向こうも俺のことを憶えていてくれたらよいのだが。
さて、準備も済んだ。
人間界へ旅立つのは明日明朝。早く寝ないと寝坊してしまう。
暫く留守にする部屋に名残惜しむようにして、俺は床に伏せた。