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「面をあげよ」
壮年男性の声と共に顔をあげる。
大神皇様は荘厳漂う玉座に座っていた。
周りには七賢者と呼ばれる大神皇様直轄の家臣が付き人のように張り付いている。
その中に1人見知った顔がいる。
周りはみなシジイなのに、そいつだけ明らかに若い顔立ち。ニコニコしながら俺を見ている。
俺がチラ見すると視線に気付いたのか、ヒラヒラと手を降っている。恥ずかしいから勿論無視だ。同じ方面を見ている隣の女も首を傾げている。
俺は目力で、『大人しくしろ』と訴えると、何を勘違いしたのか両手で左右にブンブン振っている。
明らかにオカシイ人だ。もう他人のフリしてよう。
ちなみにあの人は俺の師匠だ。名をムールという。
頭はおかしいが、実力は最強クラスだ。伊達に七賢者に数えられるだけのことはある。
師匠は時空魔術を最も得意としている。かくいう俺も師匠から指導を受けて時空魔術は得意中の得意だ。
時空魔術でなにするかって?
時間を操るのさ。あと、召喚もできるようになる。かなりの高度魔術だけど。
前、イタズラ半分で召喚魔術を使ったら隕石が降ってきた。あれにはビビった。あちこちクレーターが出来て、街は阿鼻叫喚と化したけど。師匠にかなり怒られたのを今も覚えている。
俺が思いに耽っていると、なんたら大臣の“演説”を聞き逃した。なんて言ってたのか分からんが、まぁ大したことではないだろう。
「…では、宜しく頼むぞ」
大神皇様が俺ら2人にそう告げる。
「お任せください!」
意気揚々の隣の女。一体何を頼まれたのだろう?
うむ。と満足げにその場からいなくなる大神皇様御一行。
…なんだろ、どんどん不安になってきたんだが。隣の女はやる気マックスだし。
まさか、俺とんでもないこと聞き逃したのではなかろうか。
取り敢えず、隣の女に何があったのか聞いてみることにした。
「…なぁ。大神皇様は何を――」
「さぁ!急いで支度しないと!
ん?貴方もぼさっとしてないで準備したら?」
「準備? いや…すまないが、さっきのことは聞いてなくてな。まったく事情が掴めない…」
「はぁ!?」
俺の言葉に仰天する女。そして盛大にため息をひとつ。
「…はぁ。まったく信じられないわね。こんな男と共にして果たしてどうなるやら…。先が思いやられるわ」
たらたらと文句を垂れる女。正直ここまで言われると頭に来るのだが、今回は自分に非があるため言い返せない。
そして、女が俺に向けて言い放つ。
「わたくしと貴方は、これから人間界を救いに行くのですっ!」