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 酒場の開店時間が近づき仕事に行ってしまった兄さんと姉さんを見送った後私はお気に入りのポシェットを持って店を出て街に繰り出すことにした。今の時間はお昼過ぎ、あの酒場には昼間から管を巻くダメ大人たちがたくさんいるんだろう。そんな大人たちの相手をする姉さんは大変だなと思う。

 町を歩いているといろんな声が聞こえる。たくさんの人たちが街を闊歩している。ところどころ兵士なのか、傭兵なのか、目つきの鋭い人が町ゆく人々に紛れている。その人たちの目は油断なく周囲を見渡している。

 ふと、声が聞こえた。子供の泣き声だ。見ると子どもが親に縋り付いて泣いている。歩いていてこけたのか手が擦り剥けている。親はそんな子どもをあやそうと近くの店から買ったのだろう、クレープらしくものを手に持っていた。そんな光景を見て私は目を細める。

 私―ノーラ―は姉さんたちとは血が繋がっていない。というか、私たち全員は血のつながりで言うと赤の他人になる。私がもう少し小さかった時に姉さんたちと出会って旅についていかせてもらうことが出来た。何故、年端もいかない娘が同じく若い二人と旅をしているのかといわれることはある。20歳程度ならそこそこの年齢という国もあるが、そう言った国でも私たちみたいな集団は目立つみたいだ。それもそうだろう。私たちは傭兵だからだ。傭兵とは言っても戦争に参加するだけじゃなくて護衛とか、店の売り込みたいな事もやったりしているから何でも屋みたいな扱いをされることもある。……ただ単にお金になれば何でもいいというだけなのだけれど。傭兵団に年齢の若い子がいるのは別段に珍しいことじゃないのだけれど、三人だけの傭兵の中に私みたいなダントツに若い娘がいるのはやはり目立つらしい。そもそも私たちの平均年齢が若すぎるのも問題化も知れないけれど。

 そんなこともあって私たちは結構有名だ。腕はともかく若い三人組の傭兵として。まぁ、ほかにも理由があるみたいだけど。

 姉さんと兄さんはもっと前から少年兵としていろいろな国を旅していたらしいけど、その時の話は私にもあまり話してくれない。私がそんな仕事をすることもあまりよく思っていないのだろう、機会があれば店でも開こうかと冗談交じりに言っているのを何度聞いたかもう思い出せない。私自身は戦場でそういったことをするのに特に感情はない。私の母は病で亡くなったし、父は兵士に殺された。

 父は優れた技術者であったと兄さんは言っていた。私の仕事道具「ノーラの絵本」は私の名前が付けられた私専用の魔道具だ。父は自分の持つ技術が戦争に必要とされることを予感していたのだろう。だから、「絵本」を私にくれたのだ。その魔道具は兄さん曰く、僕にも再現するのは難しい、と。私は人が死ぬことを良しとはしないけど自分の知っている人が死ぬのはもっといやだ。傭兵なんてやっていて何様のつもりといわれるかもしれない。けれど私はあの二人を守りたいのだ。二人、姉さんと兄さんはその時、私を守ってくれた。父が死んだときの二人の声はとても悔しそうだった。ごめんね、ごめんね、と私に泣いて謝っていたのを私ははっきりと覚えている。

 考え事をしていたら何かと減るものはある。それが自分にまつわる事なら尚更だ。

 私はちょっと小腹がすいたので何か食べようと思い辺りを見回すと露店があったのでちょっと近づいてみる。

 その露店はクレープを売っているお店のようだ。さっきの子供が食べていたクレープもこのお店の商品だろう。値段をみると……一つで銅貨5枚か。……少しぐらいならいいよね?

 私は露店のおばさんからクレープを受け取り口に頬張った。

 じわっとした甘さが口の中に広がる。仕事柄、甘いものを食べる機会が少なかったりするのもあって私は甘いものに目がなかったする。

 近くの広場にベンチがあったので遠慮なく座らせてもらう。ふぅ、と一息つきながら食べる甘いものは最高だと私は思う。

 ちびちび食べていると今朝のやり取りを思い出した。

 戦争が始まる……。可能性の段階でしかないようだけれど、私たちにとっては絶好の稼ぎ時が来るのかもしれない。不謹慎かもしれないけれど傭兵というものは稼げるときと稼げないときの波の差が大きいので稼げるときに稼いでおかないと自分達の命が危なくなるのだ。そんなに危険ならやめたらいいとも思うかもしれないけれど、姉さんも兄さんも長く戦場にいすぎたせいなのか一か所に留まって生活することが難しいみたいだ。いつか、三人でお店でも開こうねと言っているけれどあれは自分たちに言い聞かせているんだと思う。

 そんな二人が戦争が起こったら逃げようと言っていた。二人とも今回のことで結構戸惑っているのかもしれない。

 私はそう感じた。

 

 ちまちまとクレープを食べているとようやく半分ほどになった。私は食べるのが遅いのだ。兄さんはとても早いけど、ああいうのはダメだ。早死にする食べ方なので真似してはいけないと姉さんに教わった。だから、私は何か食べるにしても味わって食べるようにしている。ゆっくりと、噛み締めるように。

 ああ、甘い。甘味が体に染みわたっていくよぉ…。あ、食べ終わっちゃった……。

 

 私は食べ終えてしまったクレープを持っていた手の指を舌でチロリとなめながら、ベンチから立ち上がり、う~ん、と腕を伸ばしながら伸びをする。ポカポカとした陽気がとても気持ちいい。

 日中暇になりがちな私は何かを食べながら日向ぼっこするのがこの町に来てからの日課になりつつある。治安もそこそこ良いので私のような少女が一人でいても安心していられるのだ。

 それに私も二人と同じく傭兵をしている。荒事には慣れているのだ。

 それもあって、私はのんびりと日向ぼっこを継続しようとしていた。


 「っは。はぁはぁ」

 目の前に蒼ざめた顔をした子どもが飛び出してきた。なにかとても急いでいるのが窺える。今にもこけそうな危なっかしい走り方だ。……こけた。

 私は急いでその子に駆け寄り、抱き起す。触れたその手は骨ばっていて、その子が浮浪児である可能性を示唆していた。

 この大通りにいきなり現れたということは路地から出てきたのだろう。もしかしたら路地で生活している子なのかもしれない。

 そういった子どもはこの規模の都市ならば別段珍しいこともない。ある程度発展した都市にはスラムのような闇が存在していることはどこの都市でも同じなのだ。

 その子もそういった子供たちの例にもれなく顔は薄汚れていて男の子なのか女の子なのか区別がつかない。

 「っへ、へいたいさん。へいたいさんを呼ばないと……おねえちゃんが」

 私がその子を抱き起すとその子はそんなことを呟きながら切羽詰まった様子で私の腕を振りほどき、大通りを駆けて行ってしまう。

 何か、良くない事が起こっているのだろう。あの子は私の事など目もくれずに一心不乱に警邏の兵士を探している。しかし、警邏の兵士たちはいつもここにいるわけではなくこの広場は巡回の経路の一部でしかなく、この時間は兵士たちはここに来ない。かといって、この時間兵士たちがどこにいるのかを私は知っているわけではない。その子も兵士がどこにいるのか知らないのだろう。あたりをきょろきょろと見渡しながら泣きそうな顔をしている。

 周囲にいる人たちは一心不乱に走り回る浮浪児のことなど気にも留めない。

 私はその子に話しかけた。

 「ねぇ、君。何かあったの?」

 「っ!!おねえちゃんが!!おねえちゃんが!!」

 子どもは興奮しているのか説明が要領を得ない。仕方がないので私はその子の頬を両手で挟み込み、顔を固定しながら目を覗き込んだ。

 「落ち着いて。何があったのか私に話して。手伝ってあげるから」

 「っ……!おねえちゃんが襲われてるの!!早くへいたいさん呼ばないとおねえちゃんが大変なの!!」


 その子の言葉を聞いた瞬間、私はそこへ連れて行くように言いました。


 私たちのような傭兵家業の人々は基本的にはお金にならないことはやりません。私たちのように一か所に留まらない性質を持つ傭兵は仕事が無いと食べることが出来ません。

 話の文脈と子どもの慌てっぷりから察するとガラの悪い連中にでも絡まれたのだろうと思います。しかし、それは町の醜悪な面を一手に引き受けるスラムでは良くあることであり、いくら頼まれたからってそんな面倒事に首を突っ込むのは私でも御免こうむります。でも、普段ならば絶対に関わらなかったであろうお願いに「手伝ってあげる。」などと言ってしまったのはさっきまでセンチメンタルな考え事をしていたからなのだろう。

 我ながら気が良いなとも思ってしまうが、今はそんな事よりもこの子のお姉さんとやらを助けるのが先である。

 私はそんな自嘲めいた思考をすぐに打ち消した。

 大通りを少し内に入るとそこはもう裏路地と言われる一種の異空間だ。

 大通りのような人通りの多い往来を表とするならば、人通りの少なく道が細かく枝分かれしているこの道は間違いなく裏の道である。そこではあらゆる暴力や揉め事は容認される。それはここだけが特別なのではない。どこの町にも同じような場所があり、ここもその例外ではなかったというわけだ。

 私は今、大通りの裏を息を切らさない程度の速度で走っている。

 幸いにもその子の言う「お姉ちゃん」の居場所は大通りから近かった。まだ、手遅れと呼ばれる事態には発展しないだろう。

 私はその子に道を先導させつつ「絵本」をポシェットから取り出した。

 この「絵本」は私の持っている唯一の武器であり、専用の魔道具でもある。

 かわいらしい錠前のついたその装丁は深緑色に纏められており、一見錠前がついているだけのちょっと変わった絵本だが、これはれっきとした魔道具である。

 魔道具とは何か。それは私ではなく兄さんのほうが詳しいのだけれど、簡単に言ってしまうならば、陣を刻まれた道具だろうか。一つの陣が起こすことが出来るのは原則として一つの現象であるとされている。魔力を陣に流しいれることで魔力が魔力経路を通り、現象を引き起こすのだ。こういった道具のことを魔道具と言い、これらの魔道具を設計したり作ったりできる人たちを魔道技師と言っている。

 私の「絵本」は正確にいうと武器ではない。「絵本」自体に備わっている機能は一つだけ。「空間収納」だけだ。これは言ってしまうと沢山の物がこの絵本で持ち運べるようになっている。詳しい原理は……兄さんのほうが詳しいので説明はパスだ。この「絵本」に収納されているものが私の武器となる。それらは私専用に父が制作したもので「絵本」とセットで使われることが前提なのだ。

 ともかく私は「絵本」についている錠前を開くため、今着ている服の胸元に手を突っ込んだ。錠前の鍵はいつもチェーンで首につけている。

 私は鍵を引っ張り出すとそのまま「絵本」の錠前を開けた。

 走っているせいなのか、鍵を外した「絵本」のページがふわりと浮いた。私はそれを手で抑え込んだ。

 2,3ほど路地を曲がり、次第に裏へと近づきつつある。その時、私の耳に騒がしい声が響いた。

 「何するのよ!?近寄んないでったら!!」

 どうやら件の女性がいるであろう場所が近くに着いたらしい。罵声の響く方向へと足を進め目の前の曲がり角を曲がるとそこには一人の女性とそれを囲む複数の男がいた。

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