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魔王の歌姫  作者: 千ノ葉
魔王の歌姫 ―荒野に捧ぐ前奏曲《プレリュード》―
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エピローグ ―荒野に捧ぐ前奏曲―


 噴火から早三日が過ぎようとしていた。街の広場は熱気に満ち溢れていた。待ちに待った英雄のお披露目ということで市民たちもお祭りムード一色だ。

 特設ステージ前には楽団が配置され、楽しげな音楽を奏でている。市長席にはいつも通りダフロの姿がある。本当はこの席は空席の予定だった。

ダフロは事の責任を取り、三日前に辞表を提出した。しかし、議会は彼の事態の収集能力を見込んで、続投を要請したのだ。辞表が受け付けられない。これはダルゴン史上初めての事であった。議会もこの事件の解決に尽力し、市民の人気者となったダフロを手放したくないと考えたのであろう。ともかく、彼はまた市長の席に座っているのだ。

「皆さん。今日は大変、素晴らしい日です」

 彼の演説は始まる。内容は都市の人間ならば知っている様な当然の話だ。そんな変哲の無い話しでも、聴衆は真剣な眼差しを向けて聴くのだ。

「こうして私がここで再び話す機会を与えられたのは、ある少女の活躍があったからです。そう皆さんも知っている、歌姫エレンです」

 歓声が上がる。彼女が公の場に姿を現すのは初めてのことなのだから。

街を救ってくれた少女がどんな容姿なのかを心待ちにし、市民はステージの上のカーテンを見つめた。

「それではエレンさんからひと言、頂こうと思います。どうぞ!」

 カーテンは遂にオープンする。しかし、そこの席には誰も居ない。

「えっ? エレンさん?」

 先ほどまでいた少女は姿形も見えない。

「おいっ! エレンさんはどこだ!」

「そ、それが先ほどトイレに行くと言ったまま…………」

 会場からはざわつく声が聞こえ始める。

「えー。皆さん。落ち着いてください。エレンさんは都合により、少し遅れるそうです」

 市長は慌てて彼女を探す指示をし、自分はステージの上で混乱を防ごうと演説を引き延ばしていた。



その頃、エレンはスラムの孤児院で立ち往生していた。少しだけと思って、来てみたのだが、これが大失敗。もう演説の始まりの予定時間は過ぎている。

「エレン…………本当に行っちゃうの?」

「うん。ごめんね」

「そっか…………」

 久しぶりに遊びに来てくれた友が言った言葉は別れ。それを受け入れたくないがために子供たちは泣いて引き留めようとする。しかし、エレンの心は既に決まっていた。

 一人ひとりの頭を撫で、笑顔でさよならを言う。次第に子供たちも現実を受け入れ、エレンを笑顔で送ろうとしてくれた。

 事件を乗り越えたことでスラムも今後生まれ変わる。エレンはそう確信していた。この子供たちも、いずれは大人になり、ダルゴンの原動力になるのだ。全員の幸せを願い、エレンは子供たちと握手をする。

「エレン…………今まで言えなかったけど、本当にありがとうな……」

 ルシュとジョシュは強がりの笑顔を見せ、エレンにそう言った。

「どういたしまして。二人とも、しっかりとね」

「お姉ちゃんも元気でね!」

 子供たちに見送られ、エレンは孤児院の門を出る。決して振り向かない背中を子供たちは脳裏に刻む。そして思う。彼女のように明るく強く生きていこうと。



「あーっ! 見つけた!」

「およ?」

 スラムを歩いていると馬車からスーツを着た男が降りてきてエレンの手首を捕まえる。

「エレンさん! 探しましたよ! あなたが居なくちゃ今日の式は題無しです。お願いですから黙ってついて来てください!」

 強引に馬車に連れ込まれ、エレンは広場へと到着する。

「ごほん……ただ今、エレンさんが到着したようなので、もう一度、紹介をします。彼女が街を救った英雄。歌姫エレンです」

 カーテンが開き、今度はちゃんと少女が居たことで市長や重役は安堵する。そして住民は待ち焦がれたように歓声を上げる。

「では、エレンさん。ひと言、お願いします」

「えっ? ひと言? うーん…………」

 質問事項は以前に渡してあるというのに、彼女は考えて無かったらしい。マイクを持った反対の手を顎の下に当て、悩みこんでしまう。

「…………今のお気持ちは?」

「気持ち? お腹すいた……かな」

 ドッと民衆からは笑い声が飛び交う。その反応に圧し殺されないように市長は次の質問をする。

「私たちはエレンさんの希望の物を用意しようと考えたのですが、どのような事をお望みでしょうか? 出来る限り叶えたいと思っております」

「あっ、この質問か。これなら考えてきたよ。えっとね…………」

 どんなドでかい望みが来るのかと、民衆は息を飲む。市長は食べ物関係の望みが来ると踏んでいた。しかし、彼女の願いはそのようなものではなかった。

「この街は今から、私の支配下に置きます!」

「………………はっ?」

 市長は情けない声を上げ、ステージ中央にいる少女を見た。

「これはこれは……面白い冗談だ」

 シラけた民衆を盛り上げようと、市長は必至のフォローを入れる。

「もうっ! 冗談なんかじゃないよ! この国は私、魔王エレンの所有物です」

「はぁ?」

 またまた市長からは困惑の疑問詞が出る。

「え、エレンさん、その、魔王というのは……?」

「だから、私が魔王だってば。証拠を見せるとね」

 エレンは掌を空中へとかざす。そしてあっという間に魔剣を出してみる。それを見た聴衆はギョッとした目で、ステージ上の少女を眺めるのだ。

 エレンは剣をステージ上に突き刺し、こう言った。

「私が支配者になったんだから他の魔族に媚びないこと。スラム住民の生活環境を改善することに尽力すること――これを守らなかったら…………滅ぼしちゃうから」

 最後のフレーズに市民たちは目を見開いて驚く。

「以上です。みんな、お元気でね」

 エレンは何を思ったのか、ステージの端を目掛けて疾走する。そして一気に跳躍をする。その大ジャンプにより、民衆を飛び越え、彼女は広場の入口へと着地した。

「エレンさんっ!」

ステージ上からは市長の声が掛かる。しかし、彼女は振り向かず、そのまま街路を疾走する。あっという間に街の門が見えてきた。エレンはそのまま止まらずに門をくぐり、荒野へと足を踏み出す。

「お待たせ。ダルクちゃん」

「ええ」

 言いつけどおり、ダルクは馬車を東門の外へと移動していた。後ろからの追手の姿もない。計画通りできそうだ。エレンはそう思った。

「じゃあ、行こう――」

「エレンさんっ!」

 彼女が馬車の荷台へと足を踏み入れた所で、後ろから声が掛かる。

「あちゃ…………見つかっちゃったみたい……」

 荷台の窓から外を見ると、そこにはニコルとメリアの姿があった。

「良くわかったね。ここに来るって」

「メリアさんが教えてくれました」

「そっか」

 ニコルの表情は曇りきっている。こんなに空は明るいというのに。

「急に出ていくなんて卑怯ですよ…………」

「ごめんね。私、湿っぽいの嫌いだからさ」

 エレンは笑う。その笑顔にはどこか力が無い。

「何で何も言わずに行っちゃうんですか? あなたが魔王だからですか?」

 ニコルが魔王という言葉を使うということはここまで市街放送が聞こえたのだろう。

「まー。そういう所かな……同じ場所には長く居られないんだよ」

魔王であることを隠していても、いずれはバレる。魔王を住ませている都を国のお偉いさんは許してはくれないだろう。これから発展する街に魔王は不要なのだ。

「僕はエレンさんが魔王でも関係ありません…………僕は――」

「ニコル。それはダメ。気持ちは嬉しいけど、私と一緒に居ても幸せになれないよ。それにニコルはダルゴンに必要なんだから。ね?」

 俯いた頭を伸ばした手が撫でる。その体温は人間と変わらず温かく、優しい。

「また逢えますか?」

「うん。会えるよ」

「そうですか…………そうですよね」

 ニコルは目を手の甲で擦り、少女のことを見上げた。強がりの笑顔だが、その笑顔を見て、エレンも笑い返してくれる。

「エレンちゃん」

 ニコルに変わって、メリアが前へと出る。

「まさかとは思ってたけど、魔王なんて驚きだわ」

「えへへ……まあ、大したことはないんだけどね」

「いずれ、また会いましょう」

「――?」

 彼女の快い笑顔と断定的な言葉にエレンは首を傾げる。

「ほら、行かなくていいの? 追っかけさんたちが来たけど」

 メリアの言うように、街からは兵士たちがこちらへと向かってくる。魔王としてエレンを捕まえに来ているわけではなさそうだが、ここで捕まれば、次にいつ街を出られるか分からなくなる。

「あちゃ、こりゃすごい人気だわ……」

「ふふ。大変ね」

「えっと、メリアさんもニコルもありがとね。私、行くよ! ダルクちゃんっ!」

「御意」

 ケンブスは急加速を始める。この笑顔もあと数秒で見えなくなってしまうだろう。だから、精一杯の声でニコルは叫んだ。

「ありがとう――」

 その言葉が彼女に届いたかは分からない。それを確かめる手段もない。しかし、彼は心の中で確信していた。届いていると――





 エレンは荒野の凹凸により激しく揺れる荷台の上に乗り、既に小さくなったダルゴンを見つめていた。

「あーあ。またしばらくは野宿暮らしかぁ……もう少し、寝溜めしとけばよかったかなぁ…………」

「ならば、もう少し滞在しても良かったのでは?」

「ううん。ダメだよ、それは。そうなったら私はダルゴンをもっと好きになっちゃうから」

「そうですか」

 ダルクは魔王という運命を背負った少女に少し同情する。この力がなければ彼女も日常という幸せな日々を送れたのだから。

「何、辛気臭い顔してるの? もしかして、ダルクちゃんも、もっと居たかった?」

「ええ。実を言えば。食事は携帯食の処理で消えたので。もう少し特産物を食べておけば良かったです」

「大丈夫! そんなダルクちゃんの為に、じゃーんっ!」

 エレンは袋の中から大量のお土産を登場させる。いつの間にやら、荷台へと運んでいたらしい。

 呆れ、ため息を付くが、風にかき消され、不満は彼女へとは届かないらしい。エレンは上機嫌で荒野の先を見つめている。

「そうだ。歌を唄おう。タイトルは荒野で」

「ええ。良いと思いますよ」

 馬車は美しい歌を振りまきながら、荒れた野を走る。

 目的地など無い。だが縛られることもない。自由に大空を飛ぶ鳥のように彼女たちは目指すのであった。新たなる旅路を――――



――とりあえず書いてみての感想――


というわけで、一気に最期までアップしてみました。

前作同様、いや前作以上に粗い作品になってしまって読者の方には

大変読み辛い文章を作ってしまったなぁ…………と深く反省しています。


そんな稚拙な物語でも読み手がついてくれて、書いた身としてはとても嬉しかったです。

毎日ニヤニヤしながらアクセス数とか、確認してみたりとか………

気持ち悪いですね(笑)


ともかく皆さんのおかげで全編を書き終えることができたので

この場を持って感謝を述べさせてもらいます。


ありがとうございます。


以上、簡単な感想でした。


2011年 4月12日 千ノ葉

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