表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の歌姫  作者: 千ノ葉
魔王の歌姫 ―始まりの唄―
5/75

魔女と呼ばれる者 ―後編―

馬車に乗り、知らない大きな街に着いた。

幸か不幸か、エレンの買い手はすぐに見つかった。


知らない黒い男から、知らない太った男にエレンは渡される。

そこでエレンは初めて奴隷となるのであった。



太った男は街の工場を経営していた。

そこですぐさまエレンは働かされたのだ。


しかし、小さい少女に工場の労働環境は過酷過ぎた。


冬にも関わらず布の薄い一枚服を纏うことしか許されず、

一日中立たされ、綿を紡がされるのだ。

エレンは仕事を覚えるまで幾度となく鞭で叩かれた。

もちろん鞭で叩かれるのは嫌なのですぐにでも仕事を覚えた。


半日以上仕事をさせられ、部屋に戻ることを許される。

そこは粗末なベットがあるだけの汚い、カビ臭い。部屋のみ。


そこに男女関係なくエレンと同じ年頃の子どもたちが押し込められたのだ。

会話を交わす気力もなく、粗末な食事をし、夜は泥のように眠った。


その生活の最中、耐えられずに仕事中に倒れてしまう子を見た。

工場長はそれを見つけると鞭で何度も叩いた。

だがその子は起き上がる気力もないほど衰弱していたのだ。


次の日からその子の姿は見えなくなった。

その時のエレンでも理解できた。

あの子にはもう会えないのだと…………


そう思うとなんとも言えない悲しい気分になった。

何度その子を思い出して、夜に息を殺しながら泣いたことか。




だが、そんな生活でも彼女は楽しみを知っていた。

夜に耳を澄ませていると不意に聞こえる、街角の音楽。

おそらく近くにあったパブから聞こえるものなのだろう。

それを聞き、その音楽に合わせ彼女は歌を口ずさむのだ。


その時から彼女は歌を歌うようになった。

時にはトイレに行っている時でさえも口ずさむ。


エレンの唄はとても綺麗だった。

外で歌う時には鳥さえもその歌に寄ってくる。



その噂を聞いてか、彼女を買いたいという男がやって来たのだ。

それは劇団の団長であった。工場長はそれに応じてエレンを売った。

工場長にとっては唄の上手いだけの子供など、金貨5枚の価値すらなかったのだから。





エレンは劇団に入ると、すぐにステージに立たされて、唄を歌った。

その名も無き唄はすぐに人々の心を捉え、一躍エレンは一座のスターとなるのだった。


考えれば、この時間ほどエレンが楽しかったことは無かったのかもしれない。


給料など、出ないが劇団での生活は奴隷生活と比べると何倍もマシであった。

寒さに凍えることもなく、食事も、もらえるのだから。



何と言っても、自分の好きな歌を歌えるのがとても楽しいのだった。



しかし、エレンの人気に嫉妬した劇団員の恨みは最悪な形となり、エレンを襲うのであった。



公演をしたとある大きな街で奇病が流行ったのだ。

それは偶然にも劇団が街へと来た頃と重なった。

その奇病に団長もかかり倒れたのだ。


その時人々は噂をした。

この街にあの輩が来てから病気が流行し出したのだと。

あの中には魔女がいると。


その魔女こそ、エレンのことだった。

彼女の歌は聞いたものを恍惚にするほど上手かったのだから。


ある時、エレンは部屋から呼び出され、冷たい牢獄へと連れられた。

なんでも団員の一人がエレンが魔女だと公表したらしい。


それを聞いた王はエレンに処刑を命じたのだ。

もちろんエレンが本物の魔女のはずはない。

しかし、疑いをかけられた劇団はエレンを簡単に見捨ててしまったのだ。



街の広場で、エレンは魔女裁判にかけられた。

もちろん彼女は魔女であるとは言わない。

しかし、司法官はあの手この手を使い、エレンの自白を強要したのだ。

ある時には熱い鉄の塊を彼女に押し付け、ある時には息が果てるほど水に沈めた――――


辛かった。苦しかった。悲しかった。


そしてエレンはついに自ら魔女を名乗ったのであった。

ただ”解放されたい”という一心の言葉は彼女に”魔女”という烙印を与えた。



その瞬間市民の目は恐ろしいものに変わった。

自分たちが苦しんでいるのはこの魔女のせいだと。

どんな些細な不幸でさえも、エレンのせいにされる。


広場に吊るされた彼女に何人もの人が唾を吐いたり、暴言を言った。

酷い時には四肢に石をぶつけられた。


少女の心は壊れる寸での所まで来ていた。

この状態が続かないならば…………この苦しみが続かないのならば…………

死さえも受け入れようとしていた。


「魔女め。死んじゃえ!」

自分よりも小さい子供が自分へと侮蔑の言葉を投げ掛けて行く。

それを見て、大人たちも同調するように汚い笑みを浮かべる。


どうでも良い――――

もうどうでも良いのだ――――


エレンは心の中で思った。

あと3日経てば、楽になれるのだと…………


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ