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魔王の歌姫  作者: 千ノ葉
魔王の歌姫 ―始まりの唄―
19/75

藍鏡―アイキョウ―

「ふう…………」


夕食を終えたエレンは部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

今日の夕食はとても豪勢でどの料理も美味しかった。

けれど、エレンは満たされていない。お腹も心も。

ほとんど料理に手を付けないエレンを見て、皿を下げるダルクはいつも不思議そうな表情をするのだ。

そんな彼女の表情を見るのも辛くなってきた。


「私…………いいのかな?」

「良きゃねぇだろぅ。くっくっくっ…………」


独り言を言ったと思ったのだが、誰かに聞かれていたらしい。

恐る恐る振り返る。

そこには青い髪をしたみすぼらしい老人がいた。


「な、なんですか…………あなた…………」


警戒心を顕わにしながらもエレンは老人に言葉を掛ける。


「なぁに、あっしはアイキョウというモノさぁ。そんなに怯えなくてもいい。魔王の旦那のトモダチだからなぁ」

「と、友達?」


その言葉の真偽は明らかではないが、エレンの警戒心は和らぐ。

それでも二人の距離は以前ベッド1つ分離れている。


「ああ、そうさぁ。エレン。悩んでいるそうだなぁ」

「えっ…………はい……」


男は褐色の目でエレンを見つめる。


「逢いたいよなぁ。両親に。分かるよぉ。ここの暮らしは贅沢だが…………寂しいんだろぉ? 分かるよぉ」


「あっ…………その…………」


心を見透かされたことでエレンは口ごもってしまう。


「隠さなくてもいいさぁ。あっしはエレンの味方なんだからなぁ」

「み、味方…………」

「エレンはどうしたい? ここで一生過ごすのかい?」

「そ、それは…………」


「帰りたいんだろう? 帰ればいいさぁ。なあに簡単さ。この城から西に少し行けば村がある。そこまでたどり着ければ、帰れるさぁ」


「ほ、本当ですか!」

「ああ、あっしは嘘はつかないよぉ。なんせエレンの味方なんだからなぁ」

「で、でも、ここを出て行ったら魔王さんが…………」

「魔王の旦那が一度でも帰ってダメなんて言ったかい? 言ってないだろぉ」

「言ってません…………」


「まぁ、どうするかは自分で決めるんだなぁ。だがエレンが帰ってきたら両親は喜ぶんだろうなぁ。なんせ魔王を虜にした歌声の持ち主だ。すぐに良い仕事が見つかり、簡単に3人で良い生活ができるようになるのだからなぁ」


「3人で……暮らせる…………」


エレンは言葉を復唱し、その場面を想像する。

笑顔で笑う両親。その真中にエレンが居る――――


「わ、私…………帰りたい……」


「ひひひ……エレンの好きにすりゃいいさぁ。お前の人生なんだからなぁ。じゃあな。あっしは、ちょっくら出かけてくるぜぇ」


「あっ、あの……」


部屋を出ていこうとするアイキョウをエレンは呼び止める。


「ありがとうございました。なんかスッキリしました」

「いいってことよぉ。エレンはあっしの友達なんだからなぁ」


彼は笑う。最初は不気味だったその笑顔も最期には嫌な感じがしなかった。


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