【ぼうけん4:手水に落ちた 零の指】
零が社殿の扉を開けると、木々の間から日の光が差し込んでくる。
来た時は少し暗かったのもあり改めて見渡すと、いくつもの鳥居がキラキラと輝いており、地面にはちょっとした水たまりが出来ていた。
知らない間に雨が降っていたのだろう。晴れて本当に良かった。
「零おはよー……」
悠真が大きな欠伸をしながら起きた。
「おはようございます悠真、よく眠れましたか?」
「うーん……身体がちょっと痛いかも?」
「普段は用意された所で休んでいますからね。床で寝ると身体に多少ダメージが残りますからね。どれ……少しだけマッサージでもしましょうか」
悠真の肩を触ってみると、少しだけ硬さを感じる。
トントン と肩を叩いて肩たたきしてみる。
「気持ちいい〜!」
強さは丁度良さそうだ。
少しの間、肩たたきをしながらたわいのない会話をした。温もりを感じる。
指の関節が少しだけギシギシと鳴っている。
「すごく気持ち良かった〜!ありがとう!」
「良かったです、少しでも癒しになれば幸いです」
軽くストレッチを行ってから悠真が話す。
「天気が良いんだよね?朝ごはん外で食べようよ!」
悠真からの提案で、悠真を前に2人が社殿から出てきた。悠真がくるっと後ろを振り返る。
「かみさま!ぼくたちを守ってくれてありがとうございました!」
元気よく話してお辞儀をする。
神様の存在は信じていないが、この姿を見ていたらどんな反応をするのだろうか。
すぐ近くの階段に2人で座り水と食料を分けあった。
缶詰と水入りの入れ物を2つ出して、1個ずつ分ける。
缶詰は子供の力でも開けられるようになっている。
開けると中には肉がぎゅうぎゅうに詰められていた。
「わぁ〜!お肉だ!」
「おぉ……」
2人はいただきますと言って肉を食べ始めた。
肉は1口サイズに切ってあるため、よく噛めば食べられるようになっている。
どんな味がするのだろうか。
「美味しいね!すごく美味しい!」
「ええ、量はそこまで多くありませんが、食べられるだけ感謝しましょう」
2人は感謝しながら食事をした。
ここでしか味わえないひと時を満喫しながら、ゆっくり堪能した。
吹く風が少し強くなったがそれが逆に心地良い。日も少し強くなって、ピクニックをするにはちょうど良い気温になった。
ごちそうさまでした。と2人で言ってリュックの中に入れて片付けた後
「あれ何だろう?」
悠真が何かを発見したようでそちらに向かって走り出す。零も続く。
水音が聞こえる。
初めて見た悠真が興味を示した。
「変なのがあって、水が流れてる!」
「こちらは手水舎と言います。神社にある手洗い場の様なものです。変な物の名前は柄杓と言って、これを使って手を洗っていたのですよ」
柄杓は4本あり、どれも手に持つ部分が汚れている。
「道具を使って手を洗うなんて、何か変なの!」
「ところがこれは重要な役割があり、神様にお会いする前に柄杓を使用して、口や手を洗う事で心身の穢れを清める意味があります。簡単に言えば、汚れを落とすんです」
柄杓を眺めながら聞いていた悠真は、ゆっくり後ずさりしてぺこりと頭を下げた。
「とても大事な物だったんだね、そうとは知らずにごめんなさい」
「知らない事は恥ずかしい事ではありませんからね、また1つ賢くなりましたね」
零の言葉を聞いて安心したのかニコニコとしている。
「この水、飲めるかな〜?」
悠真が手水舎の水に向かって手を入れようとする。
すかさず止めて、少し離す。
「待ってください、毒味をしますから」
零は柄杓を使い、片手に少しだけ水をかける。
自動的に体内のコンピューターが分析を行う。
異常がない事を確認してから口にする。
至って普通の水だ。
「……特に異常はなさそうです。この水は飲めそうですね」
やった!と喜ぶ悠真は柄杓を持って上手に手を洗い始めた。両手を洗った後は、水を口にしている。
「冷たくて気持ちいいね!飲むと美味しい!」
喜ぶ悠真を見ながら、自身も手を清めようと柄杓で水を掬い、片手にかけた。
バチバチバチ!
水をかけた手から急に少し大きな音が出てショートしたのだ。手首や指の方から少し煙が上がっている。
痛みは無いがビックリして固まっていると
「零!大丈夫!?」
悠真が心配そうに見つめている。
「大丈夫ですよ、ビックリはしましたがこれくらいなんてことありません」
「でも!でも……!」
「大丈夫です、この先にある海に行ったら修理しますから」
「大丈夫……?けがしちゃってる……」
零の片手からは、配線が所々見えており、水をかけた時にショートした箇所からバチバチ…と小さく音がする。今にも泣きそうな悠真を見た焦りから言葉が出る。
「大丈夫です、この先に海があります。せっかく修理するなら、綺麗な海を見ながらしたいものです。ここも涼しくて良いのですが、悠真との思い出を作りたいと思っていますから……」
そう話すと悠真はホッとして、でもどこか心配そうにしている。
「良かった……!少しでも早くけがを直すためにも行かなきゃ……!」
そう言って、もう片方の零の手首を掴んで引っ張りながら森の中に出来ている道を走って進んでいく。
ガサガサと草を掻き分けて、悠真が息切れしながら2人が走る音が聞こえる。
一刻も早く直そうと思って先を急いでいるのが痛いほど伝わる。それだけでも嬉しかった。
でも零は言えなかった。
水をかけてしまった方の手の指は、水をかけてしまった事により動かなくなった事。
手首に水がかかった為、手首から残りの指にかけて関節が半分以上も動かしずらくなっている事。
もうこれ以上治る見込みはなく、自身の稼働に終わりが近づいている事を。




