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文化祭の神様

作者: YAMAGUCHI
掲載日:2026/05/01

 俺たちが通う学校の文化祭には神様がいる。曰く、それは文化祭を破壊する...とかなんとか。しかしながら、幸か不幸かそんなものにも出会うことなく本日、高校3年の文化祭を迎えた。

 うちの文化祭は誰でも出入り自由で非常にオープンなつくりである。

 だから神様の一人や二人来てもよさそうな感じだが、過去に来たのは、ただ飯を食らいに来たホームレス(文化祭の金券を拾い集めていたのが見つかって出禁)、売れない大道芸人(一輪車でジャグリングしていたところバランスを崩し肘を骨折した)それと"ワシはキリストの生まれ変わりだあっ"と叫んでいた目のイッてしまったじじいぐらいであった。彼らは笑いをもたらしてはくれたが、文化祭を壊してくれるまではしなかった。


 そう、はっきり言ってしまおう、俺は文化祭が嫌いだ。




 それは文化祭最終日の午後2時ちょうど、クラスの出し物のシフトを終えて暇になった頃だった。

 俺は、文化祭最後にやる軽音部のライブへ向けて歩く人々に背を向け、図書室へ向かった。

俺は文化祭が嫌いだ。だから、そんなものを楽しんでいる奴らと、一緒に居たくはないのだ。もっとも軽音部のライブは少し興味があったが...

 そんな複雑な気持ちを抱え図書室の前まで来た。が、その扉の前に一つの塊が見えた。

 よく見てみると、それは扉を背にして地面へぺたんと足を投げ出し座っている太ったおっさんであった。

 熊のような大きな体に、禿げてバーコードになっている頭、顔は酔っぱらったのかほんのり赤く、右手に空の一升瓶を持ち、カーキ色のスーツを着ていた。そして何より特徴的なのはその目だ。黒目が目のすべてを覆い、白い部分はなかった。 まるで底なしの沼が現れてしまったかのような虚ろな目だ。

 俺はため息をついた。文化祭を避けるために来たのに、こんな酔っぱらったおっさんに邪魔されちゃ敵わない。

 まずこのおっさんをどかそうとした。

 しかし、おっさんは予想以上に重い。引っ張りどかそうとしたがびくとも動かない。

 その目がばっちり開いていて、意識もはっきりしているはずだ。それなのに、ぴくりとも抵抗する気配を見せなかった。

 俺はそれにだんだん腹が立ってきた。

 まるでこの俺の文化祭からの逃避を、ほんの少しの責任転嫁を、みみっちい自尊心を、こいつがすべて見透かして、馬鹿にしているみたいじゃないか。

 俺は深呼吸をしておもいっきり、足を後ろに上げた。

 そしておっさんを蹴り上げようとした、そのときおっさんはふとその体を上げて、走り出した。

 おっさんへの足蹴りは不発に終わり扉に思い切り足をぶつける結果となった。

 があん、と扉が悲鳴を上げた。

 いてえっ

 その喜劇にも目もくれず、今まででは考えられないような俊敏さで、廊下を駆け出し階段を上り始めた。

 おっさんは今まででとは別人となっていた。まるで、何かの使命を帯びて、動き出したかのようだった。

 俺は、おっさんに対して放った足蹴りを避けられた怒りが収まらなかった。

 畜生。ふざけやがって

 俺はおっさんを追い始めた。

 俺とおっさんは走る。

 途中、文化祭に浮かれやがった連中はこっちを見たり、時には指さしたりした。

 でも俺たちは走った。おっさんはきっと何かを追って。

 そして俺は、俺は? 

 走っている内に段々怒りから、何がおっさんを駆り立てているのかという関心に変わっていった。

 いつの間にかおっさんと俺は、屋上前の階段を駆け上っていた。

 おっさんは、屋上に繋がる扉まで来ると、右足を後ろに曲げて構えた。

 その右脚は目にも止まらぬ速さで、屋上の扉へと蹴りあげた。

 がしゃああああん、という派手な音を鳴らしてその扉はひしゃげて吹っ飛んだ。

 おっさんはそのまま屋上へと向かった。あわてて俺はおっさんについていく。

 そうすると、おっさんは屋上の隅へと向かい、そこから黒い箱のようなものを拾い上げた。

 急いで駆けつけて俺はそれを見た。

 それは...開閉式の箱らしい。すでに開けられていて、赤い光を放つタイマーとひっちゃかめっちゃかになったコード、その後ろには赤い筒があった。

 そのタイマーは、00:10を指していた。

 俺はすぐに何か分かった。ベタすぎるほどの、冗談みたいな代物...時限爆弾だ! 

 しかも残り十秒! 

 あたふたした俺を横目におっさんはその箱を右手に持つと、砲丸投げのときのような構えをとった。

 そして空へと、その爆弾を投擲した。

 信じられない速度で、ぐん、と空へ向かった黒箱に驚く暇もなく、数秒後それは空中で大きく破裂して、赤い、大きな炎を空に描いた。

 ごお、という音があたりの空気をつんざいた。

 それは、文化祭の空気を一瞬破壊した花火だった。

 俺はそれに目を奪われ見とれていた。

 たぶんここにいた奴らは全員そうだっただろう。


 爆発の後、俺はおっさんがいたほうへ目を向けた。

 そこにはもう、おっさんはいなかった。


 あれからあの奇妙なおっさんには会うことは無かった。

 ただ屋上の、あの瞬間だけ、おっさんは文化祭の神様だったんだ。



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