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政府もようやく預言を信じるようになった。そして預言の成就を恐れたのか、鉛筆廃止令を出した。たちまち全国各地の鉛筆の回収命令が出された。
さて九塁派と呼ばれる集団がいた。彼等はかの九塁教授の預言を成就すべきだ、と言う信念を抱えていた。恐ろしい事に九塁派が鉛筆工場を乗っとった。
鉛筆工場で彼らは集会を開き、何やら拍手しながら預言の一節を唱和していた。
「鉛筆転がしこーろころ、鉛筆転がしこーろころ、鉛筆転がしこーろころ。」
追い詰められた人間は何をしだすか分からないとはまさにこの事である。辺りには集団の狂気に満ち満ちていた。やがて九塁派の代表が鉛筆の箱を持って叫んだ。
「時は来た!預言を成就させるのだ!政府は預言を阻止しているが、そうはいかない。今から我々は鉛筆を転がすのだ!今から転がすのだああああ!」
「おーー!」
そして人々は再び「鉛筆転がしこーろころ!」と唱和した。代表のその人は鉛筆の箱をゆっくりと傾けた。「鉛筆転がしこーろころ!鉛筆転がしこーろころ、鉛筆転がしこーろ」
どんどん傾き、やがて箱から幾多もの鉛筆が飛び出した。鉛筆はざらざらと落ちてかんかんと地面を跳ねてころころと転がった。そして盛大な拍手と歓声が上がった。
「え…鉛筆が転がったぞ!」
「もっとやれ、もっとやれ!」
連中は怒号を上げて暴徒の如く突進し、次々と鉛筆の箱を取り出して次々と地面にばらまいた。たちまち床は鉛筆に溢れ、鉛筆の代わりにつまづき転ぶ者もいた。彼らの顔は鉛筆を転がした事への歓喜に満ちていた。
しばらくして九塁派の人々は去った。縛られていた工場の人々はなんとか抜け出し、電話に向かった。そして警察に通報した。
<九塁派遂に鉛筆転がす>
本日未明、九塁派一団は鉛筆工場に侵入し、全ての鉛筆を転がした。警察は現在行方を追っている。これに対し目瘤総理は「今現在の状況において、このような軽率な行動に走った事に誠に憤りを感じる。」とコメント。
このニュースをみて相田は驚いた。相田だけではない。多くの人々が恐怖に怯えた。「後はコサックダンスだけだ!」「そんな!」「いやぁぁ!」「ひえぇぇ、あわぁぁ、むぎぃぃ!」
そして預言がかなう事を人々は恐れた。預言を細かく見れば「人々が皆コサックダンス」なので、いつ自分が踊り出すか、それを怯えていた。コサックダンス禁止令なるものも出た。
だが、いつまで経ってもそれは来なかった。あれだけ預言が成就したのに人々のコサックダンスだけは訪れなかった。人々は焦った。なぜ成就しない。はやく来い。「はやく来い!」「もう預言に怯える生活はいやだ!」「いい加減終末来てくれ!」「終わりたい!終わりたいよぉぉ!」
「いや待てよ?」と人々は気付いた。「我々がこう待ってるのは無意味なのでは?」「そうだ、九塁派を見習うべきだ!」「皆でこの世を終わらそう!」「おー!」
人々は次々とコサックダンスを始め、それは一気に広まった。皆、預言から解放され、次の滅びへの期待に目を輝かせていた。
コサックダンスをしなかったのは世界中で数える程しかなく、その中に相田がいた。
「ちょっと待て!それが作者の罠じゃないか?登場人物が言いなりになってはいけない!」
だがその言葉も虚しく、ひたすら人々はコサックダンスを続けていた。力尽きるまでそれは続いた。




