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小さな光



 地下牢に入れてから、何日が経ったのか。

 私にはもう、数える気力すら残っていなかった。


 冷たい石の床。湿った空気。

 薄い粥の匂い。誰も来ない暗闇。


 その日だけは違った。


 鉄格子の向こうに、二つの影が立った。

 父と母だった。


 「 ……レイヤ 」


 母の声は震えていたが、

 そこに温かさはなかった。


 父は無言のまま、袋を年の中へ投げ入れた。


 「 お前の私物だ、もう必要ないだろう 」


 袋の口が開き、床に散らばったのは

 私が幼い頃に使っていたものばかりだった。


 髪飾り。古い本。小さな靴。

 そして───


 「 ……ぬいぐるみ……… 」


 お姉様が私の誕生日にくれた、

 茶色のクマのぬいぐるみ。


 片耳が破れ、綿が少し飛び出している。

 私は震える手でそれを抱き上げた。


 「 レイナお姉様が…くれたのに…… 」


 母は顔を背け、父は冷たく言い放った。

 

 「 レイナを殺したお前にそれを持つ資格はない 」


 その言葉だけを残し、二人は去っていった。

 私は、何も言えなかった。



 その夜、レイヤはぬいぐるみを抱きしめた。

 この世界でひとつだけ、唯一のものだった。


 「 ……さみしいよ… 」


 声に出すと、胸の奥がひどく痛んだ。


 私は無意識に霊気を使っていた。

 糸を生み、布を生み、綿を生み──

 壊れたぬいぐるみを修復し新しいものを作った。


 それは、私にとって唯一の "遊び" だった。


 だが、数週間もすると私は気づいてしまう。

 

 ( ……この子たち、喋らない…… )


 ( 返事をしてくれない… )


 ( 抱きしめても、あったかくない…… )


 胸の奥の空洞が、日に日に広がっていく。

 私の心が壊れ始めたのは、その頃だった。


 そして私の中には4つの願いが生まれていった。


 "褒めて欲しい" "見て欲しい"


 "守って欲しい" "愛して欲しい"


 そんな、叶うはずがない願いを心の中に

 留めておいた。


 ある日、私は新しいぬいぐるみを作ろうとした。

 牢の中には、大量に作ったぬいぐるみたちが

 座っていたり、寝転んだりしていた。

 私はお構いなしに、霊気を指先に集め

 糸を生み出す。


 ──その瞬間だった。


 糸が、勝手に動いた。

 

 「 ……え?」


 糸は床に落ちる前に空中で絡まり、

 まるで "骨格" のような形を作り始めた。


 布がふわりと舞い、糸の骨に

 吸い寄せられるように貼りつき、

 肌になり、服になり、髪になっていく。


 綿が空中で脈打った。

 心臓のように、どくん、と。


 私は後ずさった。


 「 なに、これ…… 」


 霊気は暴走していない。

 むしろ、意思を持っているかのように

 滑らかだった。


 そして──少女の形が完成した。


 白い髪。

 柔らかな布の肌。

 胸の奥で鼓動する綿の心臓。


 私は息を呑んだ。


 「 …ひと……!? 」


 少女はゆっくりと目を開けた。

 布でできたはずの瞳が、淡い光を宿している。


 その子は私を見つめ、その唇がかすかに動いた。


 「 レ、イヤ……様……… 」


 私の世界の歯車が、静かに回り始めた。



 _( _ーωー)_

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