豆大福 ― 私という鼠の話
チュー、私は鼠。けれどただの鼠じゃないんだ。
名前は豆大福。神話に出てくる「火から大己貴を救った鼠」の末裔の白い毛並みの式神。特異事案対策室の末席……いや、式神に席なんてないけどさ。
本当の名は別にあるけれど、隠しておくにはちょうどいい呼び名だったんだ。特異事案対策室の社畜女子高生、美優くんが「豆大福」なんて勝手に呼び始めて、そのまま定着しちゃった。まあ悪くない。呼ばれ慣れると、不思議と自分でも気に入ってくるんだよね。
昔はただのハタネズミだったんだ。土色の毛並みで、畑の下に穴を掘り駆け回り、蛇やイタチをひらりとかわす毎日。特にイタチの「鋭い爪の五郎」とは何度も相対した。野良の世界じゃ、それだけで一目置かれたりもする。スリルとロマンスの日々。
でも、そんな私にもフィナーレは訪れたよ。鼠の命は短いからね。
段々と脚が重くなり、ひげに風を感じることも薄れていく。最後に身を横たえた野原は、乾いた草の匂いが胸いっぱいに広がって、遠くで虫がチリチリ鳴いていた。夜空には星がひとつずつ瞬き、光が滲んでゆく。耳の奥で自分の鼓動が、ゆっくり遠ざかっていく。
──静かで、悪くない終わり方だったよ。
──と思ったら、そこからが妙な始まりだったんだ。
魂になって漂っていたら急に何かに引っ張られてさ。気がついたら、ボス──あの特異事案対策室の室長──の式神になってた。
どうやら、神話とのわずかな縁、それで目を付けられたらしい。偶然漂っていた私をベースに「神使の白鼠」のイメージを重ねて形にしたんだって。おかげで毛並みは白、姿はハツカネズミ風。心はハタネズミのままなんだけどね。
それ以来、私はボスの式神として、特異事案対策室の仕事に付き合うことになった。主な役割は偵察に撹乱。仕事は特異事案対策室の監視、単独任務、時々おやつ探し──ついでに美優くんたちの現場にも顔を出す。人間たちが四苦八苦する横で、ちょこんと座って見ているのも悪くない。退屈しない毎日だよ。
だから、こうして私は今日もここにいる。
白い鼠、豆大福として。
ここでは私が遭遇したちょっとした不思議を綴っていく。鼠目線の不思議譚を覗いてみてほしい。そしてもし、君の後ろでチューと鳴き声が聞こえたら。天井裏をトタトタ走る音が聞こえたら。それは私かもしれないよ。
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豆大福もところどころで大活躍、本編はこちら
東京怪異捜査録 − 警視庁特対室CASE:XXX -
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