揺れる心
モニカは休みになるとナガルとデートすることが多くなった。間抜けな男だが底抜けに人はいいので信用はできる。だが胸の奥でなにかが突っかえた気分だった。
「今日は食事に行ったから夕食はいいわ」
そういうモニカにもっと聞きたいことがたくさんあったが、自分にその資格がないことはわかっていた。ユウコはモニカとあまり喋らなくなっていた。
「ユウコ後で部屋にきてくれないか。話がある」そうは言ったが、モニカのことを除くと特に話題は用意していなかった。
風呂上がりにパジャマに着替えたユウコは色っぽかった。
「綺麗だよユウコ。いや可愛いかな」話題はなかったが、率直な感想を言った。
「もっと違うこと話したかったんじゃないの?」ユウコが核心を突いてきたが、モニカが離れていくのが寂しいとは言えなかった。
「私はケンジ以外の男にモニカが盗られるのは嫌」すぐにお互い嫉妬するくせに、それを言うのは卑怯だと思った。だがユウコは本気で寂しいようだった。
モニカに直接ナガルとの仲を聞くのは嫌だった。だからモニカが今何を考えているかはわからなかった。ナガルに聞いたことあるが順調に交際していると言っていた。
三人の夕食がもう家族のそれではなくなっていた。新居を喜んでいたモニカを思い出すと胸が苦しくなった。やはり強引にナガルから引き離すべきか、だがユウコがいる俺にはその資格がなかった。勉強にも集中できないので、モニカを誘ってドライブすることにした。
「寒くなったが、以前と違って家の中は暖かいな」
独り言みたいに俺は言ったが、モニカは頷いただけだった。
「もうケンジは振られたの。いつまでもくよくよしてちゃダメよ、ユウコが悲しむわ」俺の気持ちを察するようにモニカが言った。俺は黙って頷いた。
それでも諦めの悪い俺は車から降りると、モニカの手を引いて大聖堂の前に行った。雪景色に荘厳な佇まい、夜の街でいっそう瀟洒に見えた。その後も街を行く宛てもなく歩いた。流石に一時間も経てば二人とも冷え切ってしまったので、車に戻り暖を取った。唇に暖かいものを感じモニカを見た。
「お別れのキスよ。来週からはナガルさんの家に住むわ」
泣かない様に注意しながら、モニカにお別れの言葉を言った。
言葉通り翌週モニカは家を出て行った。
俺は何を考えたかすら思い出せなかった。先日のドライブが最初で最後のデートになってしまったことに不思議なものを感じた。ユウコは何故か私を慰めていた。
「この国は豚の料理が多いから日本の牛肉を買ってきたから食べよう」そう言ってステーキをユウコに焼いてあげた。贅沢を楽しんだがたまにはいいだろう。
「ユウコ、2Fの俺の部屋の横に住むか」そう聞くと彼女は少し考えてから、まだいいと答えた。たぶんモニカが戻ってくることを期待してるんだと思った。
モニカとユウコは職場が一緒なので、彼女の様子を尋ねたら変わらないと言う。
私はそのことで安心した。ユウコのために無理矢理身を引いたわけではなく、ナガルとの生活が楽しいならそれは嬉しいことだ。俺は振られたことを完全に受け入れた。
二人の女の子を同時に愛することはきっと罪だ。だからもうモニカのことは想い出にして、自分のやるべきことに集中した。勉強はもう必要ないくらいまで習得していた。
ただモニカの居ない家は空虚だった。まだ幼い三人の面影を、知ってるはずはないのに俺は見ていた。その日俺はモニカの部屋だった場所で泣いた。
「ケンジ、困ったことにモニカが軍に復帰したいと言っている」アルトマイヤーの言葉に驚いた。モニカにはもう危険なことから身を引いて欲しいという願いがあった。
アルトマイヤーの知らせに居ても立っても居られず、すぐに軍に向かった。
「ケンジ、久しぶりだな。モニカは他の職員が引き留めている。一緒に暮らしているのになんで気が付かなかったんだ?」そう聞かれ、モニカは出て行ってしまったと話した。
「こんなに早く何があったんだ。モニカがケンジを見ていたのをずっと見ていたから納得がいかない」
そうだ、モニカはずっと俺を見ていた(らしい)なんで簡単に俺は手放してしまったんだ。自分の頬を叩くと急いでモニカの元に向かった。痴話喧嘩でもなんでもやってやる、連れ戻すんだ。
「モニカ帰るぞ。異議は認めない」そう言ってモニカの手を取り車に連れて行った。モニカの手も強く俺の手を握り返した。
特に何事もなかったようにモニカは帰宅し、ユウコと風呂に入っていった。
ナガルにはどんなことをしても謝罪しなければならない。モニカを好きになった男だから恋敵だが、今回のことは一方的に俺が悪かった。
「俺じゃダメだった。だからケンジさんは来なくていいす」
簡単なメッセージをナガルは寄越した。彼の無念さが伝わってきた。
モニカの部屋を訪ね、甘すぎるカフェオレを持って行った。それを小さな手で持つ姿は愛おしく、小動物的ななにかを連想させた。
「モニカ、写真を撮っていいか?思い出になるものがたくさん欲しい」
そういうと彼女は白いセーターとベージュのスカート姿になった。何枚か写真を撮りスマホを仕舞おうとしたところ、セーターと長袖Tシャツを脱いでしまった。白いEサイズブラが眩しすぎたのでまた撮影を始めた。
スカートも脱いでしまいブラのホックに手を掛けたところで流石に待ったを掛けた。見たいけど色仕掛けしなくても俺の気持ちは変わらないと伝えた。
「捨てられるのが怖かった。だから浮気してごめんなさい」
モニカの本心なのだろうが、ナガルから取り戻しに行かなかった俺が全面的に悪かった。だからそのことを告げてもう離したくないと本心で言った。
下着姿のモニカを抱きしめ、それから寝間着を着せてやり俺は部屋を去った。
モニカの部屋を去ると隣のユウコの部屋に行った。俺の部屋に行きたいと言うので、手を繋いで階段を降り向かった。キッチンでジュースを淹れてくるまでソファで待っててもらった。
モニカの下着姿を見た後でユウコに接するのは俺の中ではセーフだった。二人とも大好きだったから浮気認識をもうやめた。
「モニカと部屋で彼女の写真を撮っていた。想い出作りのために」
そういうと私も脱ごうかとユウコが言って来たが、それは必要ないと言ってベッドに二人で腰を掛けた。胸はやや小さいが黒髪ミディアムの彼女は美しかった。また違う日に写真を撮ろう、今度は全部服を脱いでもらって。
セータの中に俺の手を入れるようユウコが言ったのでそれに従った、「私のブラの中に手をいれてちゃんと触ってね」
そう言われて夢中でユウコの乳房を触った。ユウコがブラのホック外したので、その形がよくわかった。小さいが形のよい胸を触るのはとても気持ちが良かった。
「押し倒してもいいんだからね」
そういうとユウコは上半身裸になってしまった。ユウコを押し倒して腕を下に下ろさせたのでくっきりとお椀型の乳房が見えた。
乳房に触れながら、祖国から逃げてきた日を思い出した。ユウコが穢されなくて本当に良かったと、心の底から思った。両手を繋ぎながら俺に舌はユウコの胸を吸った。
「ユウコ手を上げてて。俺はスカートとパンツをを脱がす」
彼女が黙って従ったたので、そのまま全裸にした。キスをしたり胸を触ったり下半身に触れたりしたが、これでいいのか迷った。
「ユウコ、初めてなのでどうしていいかわからない」
そう言うと彼女は自分の性器に俺の手を案内した。できるだけ優しく、そのことを注意しながら俺は指を動かした。自分の股間は準備ができていた。
いやダメだ。モニカもいるし二股状態なんだ。欲情に身を任せてはいけない。そして逃げるようにユウコの部屋を出た。
「昨夜は楽しくなかったの?」モニカの部屋は隣なので聞こえたのかと思ったが、あの重厚な壁で聞こえるはずはなく勘だと言う。
その日は初めて煙草を吸った。前にナガルにもらったものだ。
モニカが横に来たので煙草は身体に悪いので離れろと言ったが、「馬鹿ね、戦場でタバコ吸わない男なんてケンジだけでしょ。慣れてるわ」
そう言って普通に横に座った。
向かいの部屋でユウコとモニカが一緒に風呂に入っていた。私はふらふらと脱衣場に向かった。スタイルの違いでどちらの下着かすぐに判別が付いたのだが、どっちも等しく握り締め頬ずりしていた。
「最っ低」風呂から出て来たユウコにそう言われてお湯を掛けられた。
ビンタをされお湯を掛けられ、自分が最低な男であることを悟った。軍人の頃のようにストイックになりたいと願い何も無い4Fで筋トレを始めた。
「お湯掛けてごめんね。ケンジだって男の子だもんね」ユウコには謝られたが、あれは心の緩みだと言って片手腕立て伏せを続けた。
ユウコが体育座りで筋トレを見ていたので、見えそうだった。なので背を向けてダンベルを持ち上げ、煩悩を絶とうとした。
翌日話がしたいというアルトマイヤーに会いに軍に出向いた。
「国境付近が最近ざわついてるのは知っている、だが俺はもう出撃しない。地上戦の軍人なんて意味がない。ドローンや無人機に殺されたら目も当てられないからな」
「それでも国境での争いは常にある。市民の犠牲は避けねばならない」
彼の言い分はわかるが、家族を持つ自分はもう軍人に戻らないとはっきり伝えた。
「死者の数を減らすことはできる。だからまた兵を訓練してくれる気はないか」
「国力がない国は何をやっても無駄だ。爆撃機をたくさん用意できる国にしか勝ち目はない。テロで相手のトップを殺してもそれは勝利じゃない」
話しは平行線を辿り、アルトマイヤーと別れ帰途に就いた。
スパイでもなんでもいい。他国を欺いて原潜を奪いSLBMを数発叩き込めば勝てるはずだ。だがそれをやれば国は消滅する。小国にはなにもできないんだよ。
「おかえりなさいケンジ、なんか顔が怖いわ」
隠すつもりはないので軍に戻るよう勧誘を受けたことをモニカに伝えた。
「何か心配してるみたいだけど私も戻らない」
「そうして貰えると助かる。また勧誘は来るだろうが自分たちのために生きよう。わざわざ死ぬために軍人になっても仕方がない」
それでもTVが国境の戦闘を伝えるとみんな複雑な気持ちになった。何かしてあげられるならしてあげたい。だが行けば常に死が待っているだけだ。
「私は行こうかな。孤児院で育つ可哀そうな子供たちはもう要らない」
軍人でもないユウコがそう言ったので俺とモニカは慌てて止めた。
ユウコに軍事教練まがいのことをさせたのは失敗だった。彼女は俺を正義の味方だと思っており、自分もそうなりたいと願っているのかも知れない。
「モニカどうする?彼女は意志が強く止めるのは至難だ」
彼女の部屋でベッドに腰掛けながら問いかけてみた。
「ユウコがもし行ったらどうするの?私は行くわよ」
「当然俺も行く。二人を守るのは俺の仕事だからな。ただ...」
言い淀んだのは今の生活、三人にまた戻れたのにそれを壊すことだ。誰かが欠けてもそれは負けだから生き延びなくてはならない。
たまらなく強い不安を感じているとモニカが唇を重ねてきた。
そして数日後三人揃って軍隊に入隊した。




