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生きる意味  作者: 餓狼
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再び軍人へ

紛争は和解という形で終結した。職場に復帰はしたが棟梁もナガルも来ていなかった。

しかし、棟梁の知り合いの建築屋の下請けを回してもらったので仕事は多かった。爆撃機で壊れた家屋の修繕が始まったたのだ。


色がしい日々が続いたが苦にはならなかった。それよりも美麗な建築物の修繕に夢中になっていた。将来施工よりも設計をしたいという気持ちが強くなっていた。


ユウコも職場に復帰し、休業前より忙しいと嬉しい悲鳴を上げていた。 

「紛争が終わったら街を移ると言ったけど、しばらくは居ようか」

そういうとうんうんとユウコは頷き喜んでいた。


新住民モニカは無口だがただぼけっとしているだけだった。しかし家事は得意なので俺とユウコがいない間の留守を頼んだ。

いずれ両親がわかったら引き取りに来てもらうつもりだった。


今更だが地下での事件の時に無理やり連れ出したが、ユウコの両親の許可を得ていなかった。これにはあまり触れたくなかった。連れ戻されたくないからだ。


そもそも戻りたければユウコが両親と連絡を取ればいいだけで、俺だけの問題でもなかった。いずれちゃんと聞いてみるが今は俺のエゴで聞かないことにした。


シャワーを浴びて出ようとしたら着替え中のユウコに出くわした。一緒に住んでるからこういう機会は当然あったが、毎回動揺してしまっていた。あまりじろじろ見ないよう急いで出て行ったが不自然だろうか。そもそも男女が一緒に住んでいてまだ何もないのはおかしいとも思う。


だがへたれなのでユウコとの仲の進展についてはひとまず放って置き、二人でナガルのお見舞いに軍の病院に行くことにした。


ユウコはナガルの部屋の窓際に買ってきた花を置いた。

「ケンジさんお見舞いありがとうっす。というか俺の命の恩人すね」

あのまま助けに行かなければ確かにナガルは死んでいた。俺の方に敵の目を向けさせたことがナガルが助かった要因だった。


「わかったら退院したら軍を抜けろ。あんなに間抜けじゃすぐ死ぬしな」

「そんなことよりケンジさんプロ軍人だったんすね。仲間から聞いたけど人間業じゃない動きで敵を倒していたとか聞きました」


ただのテロリスト崩れでプロというほどじゃないと俺は答えた。

「そんなことより今忙しいんだ。早く職場に帰ってこいよ」

その後棟梁のところにも訪れ、職場が忙しいこと告げ帰宅した。


安全運転でユウコを後ろに乗せ、カブで街を走った。貧乏な国だがその歴史の長さは簡単に想像できた。俺を生かしてくれているこの国に何か恩返ししたかった。


「ユウコ、早く終わったしなんか食べて行くけどいいか」

ユウコが了承したので入りやすそうな喫茶店に入った。ハンバーガーらしきものとドリンクを二人で頼んだのだが、それの中身が豚の丸焼きなのは黙っておいた。


最近俺は夢を追うことについてずっと考えていた。だから建築業で施工をするのではなく、設計をしてみたいと思う様になったのだ。だが調べてみたら設計者には立派な資格が必要だという。難民の俺が出来ることじゃなさそうだった。


「ユウコには夢とかあるか。将来何をやりたいとか」

そういうと彼女は少し考えた後、お店を持ちたいと答えた。


「俺には夢がないから、その店で働いてもいいか」

そういうと彼女は目を輝かせて一緒にやろうと言ってくれた。俺の夢が不可能なものなら、ユウコの夢を叶えることを夢にしていいんじゃないかと思った。


共働きで家賃がただなので多少は貯金ができた。だが捨てられた家を不法に占有してるだけだったので、本当の所有者が現れ立ち退きを要求されるかもしれない。


そうなったら他に家を探し、家賃を払わなければならないので生活は苦しくなるだろう。できるだけ今のうちに貯金をしたいと思った。


こんなに現実的に人生のことを考えたのは初めてだった。祖国にいた頃は、いつ死んでもいいからと未来への担保を完全に放棄していた。


帰るついでにユウコの店に寄ると、店長が近づいてきて、小声でユウコへの誕生日プレゼントの用意ができてるか聞いてきた。明後日ユウコの誕生日と聞かされて俺は焦った、本人からは一言も聞かされてなかったからだ。


「これあげな、サイズは測ってあるから大丈夫だよ」

そう店長から渡されたドレスには、かなり高い値札が付いていた。流石に断ると、そんな甲斐性なしではユウコが出て行ってしまうぞと脅され受け取ることにした。


夕飯を作りながらユウコは俺が挙動不審なのを感じていた、「なにか悩み事があるなら聞くよ。ケンジは秘密主義者だからね」

秘密が多いのはお前の方だろうと思いながら、特に何もないと答えた。


誕生日当日、仕事から帰ると俺は、不味い夕飯を作ってあげてユウコにプレゼントを渡す機会を狙っていた。食事を終えユウコが食器を洗っている最中に、プレゼントを用意し振り向いたらそれを見せた、「誕生日おめでとうユウコ」


最初喜んだユウコだったが、それが自分の店の高級服であることにすぐに気が付いた。こんな高価なもの受け取れないというので、無理して買ったが俺の気持ちの大きさだと伝え受け取らせた。そうすると改めて嬉しそうにして着てくれた。


ユウコは今日15才になったばかりだから、すぐに着れなくなってしまうかも知れない。でも今の彼女の姿を永遠に焼き付けて置きたかった。

モニカは知っていたらしくハンカチを彼女に渡した。


「ところでケンジの誕生日はいつなの?」

そうユウコに聞かれ不明だと即座に答えた。17才というのもただのでまかせだった。


物心付いた頃には両親は死んでいて、施設に入って育ったことを初めてユウコに話した。隠してた訳じゃなく昔を思い出したくなかったからだった。


「そういうユウコはどうなんだよ。昔のことは全然話してくれないじゃないか」

そういうとケンジと同じだよと答えた。


「14才になってそろそろ施設を出なきゃいけなかったら、あの地下で部屋を探そうと思った。そこで運よくケンジに出逢えた」


ユウコが過去を話したがらなかったのは俺と同じ理由だった。

過去がどうあれ今俺たちは幸せに暮らしている。きっと育ちの悪さで明るい未来はないと二人とも思い込んでいた。だが今は夢がある、少なくともユウコには。だからそれを叶えるために全力で働こうと俺は誓った。


「ナガル、怪我はもういいんだな。復帰おめでとう」

ナガルは軍を辞め棟梁の会社に復帰した。


「撃たれた脚はたぶん一生上手く動かない。だけど生きてたことを喜べ」

「ケンジさんが命懸けで助けてくれた命なんだからこのくらいなんともないす」

なんとも前向きな男だった。


「ところで知ってますかケンジさん。今回の侵攻に激怒してるうちの国の金持ちが、敵国の大統領の首に懸賞金掛けたらしいっすよ」


ナガルの言葉に馬鹿馬鹿しいと思った。あの国に侵入して大将の首を取るなんて、西側先進国の特殊部隊でも至難の業だ。ましてやこの国の正規軍人じゃ不可能だ。


ナガルはケンジさんならやれると思ったんじゃないかと思ったと言い、心底がっかりした顔をしたが死ぬ思いをしても馬鹿が直ってないと思った。


しかしつまらない考えが俺を捉えてしまった。あの国で暗殺するのは不可能でも、外遊先でなら殺れるんじゃないかと。あの国の特殊部隊は強いと聞いてるが、腕比べしてみたいという危険なことを少し考えた。


冷静になって考えたら、ナガルの情報にはなんのメリットもなかった。愛するユウコのために俺は死んではいけないからだ。


だが現実には愚か者が居るもので、20名で敵国に入り全滅した隊が出たらしいということを軍関係筋から聞いた。彼らは命を投げ捨てている。


この話をユウコにしたら猛反発を喰らった、「悪い人を退治しようとしたんだから、その人たちは正義の味方だよ」

なら俺がそこで死んでもいいのかと言ったら複雑な表情をした。

ユウコが行けというなら俺は行くよ、100%死ぬけどな」

そういうとユウコは抱きついてごめんなさいと涙を流して謝罪した。

モニカはあまり興味なさそうに俺たちのやり取りを聞いていた。


くだらない情報をナガルに聞いたせいで、ユウコとの仲が複雑になってしまった。腹いせにナガルをいじめようとしたが不在だった。棟梁の退院日らしかった。

退院日だというのに棟梁は現場に来た。


「この馬鹿の言うことを一切信用するなよケンジ。お前が凄腕のスナイパーだという話は聞いた。だが無茶過ぎる作戦に参加することなんて許さん」


「落ち着いてください棟梁、命懸けでこの国に亡命した俺がこれ以上の無茶はしないです。それよりその足じゃ現場は危ないので家に帰ってください」


退院祝いの言葉を告げたあとで棟梁は帰って行った。


仕事をしながら複雑な心境に俺はなっていた。ナガルもユウコも俺に軍人に戻って欲しいんだろうか。あれはただの人殺しで正義の味方なんかじゃないのに。


戦いのことは忘れ、一心不乱に仕事に打ち込んでいたある日一件の依頼が舞い込んだ。俺にテロの訓練をして欲しいというものだった。冗談じゃないと思って開けずにゴミ箱に捨てたのだが、ユウコがそれを開けて見てしまった。


だが前の喧嘩もあってユウコは何も言ってこなかった。


「その依頼なら受けられるよ、俺に死ぬ危険がないから。だけど自分の生徒を死なすために育てることには多少抵抗がある」

それを聞いてユウコはこれ捨てて置くねと言った。


「ユウコの両親はあの国の攻撃で死んだんだな、聞かなくてもわかる。だから復讐したい気持ちもわかるから、俺にできることならしてもいいよ」

そういうとユウコは涙を流しながら抱きついてきた。


仕事に復帰していた棟梁に、そのことを全部話した。悪魔の国に一矢報いてやりたいという彼女の願いを少しでも叶えてやりたいと。

「お前が前線に出ないという条件で許可してやる」


理不尽な爆撃で命を落とし掛けた棟梁も、あの国への憎しみが芽生えたのだろう。だが先ずは俺の命を案じた彼は本当に優しい男だった。


それから俺は軍人としての自分を取り戻すべく、毎日射撃場に通った。こんな近距離でバレッタを撃つ訓練をしても意味がないことはわかっていた。狙いは数百m先のターゲットだ。そして首尾上手く暗殺に成功したとしても、必ず生きて帰って来なくてはならない。本格的な軍の協力が不可欠だった。


世界が思い通りにでき、海を割り嵐を起こし大地を割る力が欲しかった。俺が神だったらあの国はとっくに滅ぼしている。だけどそうじゃない。俺はただの孤児院出身のテロリストだったに過ぎない。だから大きな望みは持たない様に気を付けた。


ユウコがどこかに行く準備をしていた。いよいよ俺から逃げるのかと焦り、それだけはなんでもするからやめてくれと懇願した。

「何言ってんのケンジ?一緒に付いていくだけだよ」

店から休暇をもらったらしく、彼女は俺に付いて来る気満々だった。


「わたしもいくよ。一人はあぶないんでしょう」

モニカは家事を止めそう言った。だが二人のお荷物は不可能だ。

軍人なんてただのレイプ犯予備軍だ。止まられるわけがないからだ。


じゃあ、私がユウコを守るよと言ってモニカはMP-5を構えた。

話しを聞くと、襲ってくる敵軍兵士をこの銃で片っ端から撃ち殺していたという。家に入った時の落ち着きはそういうことだったらしい。怪しすぎる彼女も連れて、軍事教練の教官をする山奥に我々は向かった。








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