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生きる意味  作者: 餓狼
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甘い生活?

戦争は二年前から突然始まった。我が国が気に入らない隣国が、テロの報復という名目で大規模爆撃を仕掛けて来たのだ。

貧乏で弱い我が国には対抗する術がなかった。荒廃し切った地上を捨て、俺は地下に部屋を作りそこに住んでいた。ここだって全然安全ではなかった。

生きていくためにテロ兵となり、そこから少ない収入を得ていた。武器の横流しでそこそこの金を得ていたが、バレたら間違いなく処刑される危険な行為だった。


部屋に電気はなんとかきていたので、電気ケトルでお湯を沸かし珈琲を飲んだ。ごく小さな冷蔵庫の中には牛乳、チーズとハムくらいしかなかった。

汚いベッドで横になり、眠くなるのを待ったが目が冴えたままだったのでシャワーを浴びることにした。劣悪な環境だったが部屋の中ではなく、少し離れた場所にシャワー室があり週二回くらいの頻度で身体を洗っていた。

シャワーを浴びた後すぐに部屋には戻らず地上に出てみた。深夜だというのにミサイルを撃つ音が鳴り響いていた。危険なので俺はすぐに部屋に戻った。


「ケンジ、近々敵の地上部隊と一戦交えるようだぞ」

仲間からそう聞いて頭が痛くなった。

戦車と重火器を持っている相手に、ライフルと手榴弾だけで戦うとかキチガイじみている。夜逃げの準備をしつつ俺は寝付けない夜を幾晩も過ごしていた。

「命なんてここに入った時点で捨ててたつもりだったが、いざとなると怖気づいてしまうな。国境を越えてどこかで難民として暮らそうか」

そう心の中で呟いた。


色々と考えてはいたが決心は付かず、結局敵国の地上部隊との戦いに参加していた。

「生き延びることだけを考えよう。後は仲間に任せた」

そう独り言を呟いてなるべく前に出ないように戦闘に出た。

明らかに相手が優勢でどんどん後退させられてゆく。仲間も随分死んだようで、戦闘当初聞こえていた対戦車砲の音が聞こえなくなった。ライフルの腕には自信があったので、不用意に装甲車から降りて来た敵兵を三人撃ち殺した。

だがそれでは戦局はまるで変わらないので、我が軍の撤退指示を待ったがその気配がない。仕方がないので生き残っていた対戦車砲担当から武器を奪い、瓦礫に埋もれ敵を待った。気が緩んだ敵が接近してきたので思い切りよく飛び出し、戦車を大破させた。

「撤退だ、撤退。これ以上は死ぬだけだ」

そう部隊員に伝え出来る限りの速さで地下に潜った。


「何故部隊を撤退させた。こちらからの指令はなかったはずだ」

「あれだけの死者を出して撤退しない方がおかしいんだよ。だからこの国は蛮族と思われて、敵が虫けらのように我々を殺していくんだ」

まだ17才だった俺だが、その腕は見込まれていたので隊を率いる准士官に無理やり納得させた。そして装備の充実を要望した。


「形成を一気に逆転させる超兵器とかねえかな。このままじゃただ死を待つだけの愚か者だ。軍にまだ居る俺が一番愚かなんだが」

独り言と愚痴が多くなっていた。戦士には向いてないんだよ俺は。

外で女の悲鳴が聞こえたが、ここでは当たり前のことなので無視しようとした。しかし何故かドアを開けて見に行くと、半裸の少女が悲鳴を上げながら逃げていた。首を突っ込んだら軍に居場所が無くなる。それでも何故か付いて行った。

男三人が女を捕まえ馬乗りになったところで三人とも撃ち殺した。少女にシーツを用意していたので羽織ってもらい地下から二人で脱出した。


「追われる身になっちまったが、こんな場所どうでもいいんだ」

ドアを開けた時に自分の中で覚悟を決めていて、全財産を持ってきていた。

二人で夜通しできる限り遠くまで移動し、建物の残骸で身を隠す場所を見つけた。約十時間走り、歩いたので休養が必要だった。二人ともすぐに寝てしまった。

起きるとやってもらわないといけないことに気が付いた。

「そのシーツを破って胸を隠せ。また襲われかねない」

言ったことは合っていたが、実際は俺の理性崩壊を防ぐためだった。


半月の逃亡の末、国境に近い村に近い街に着いた。

先ずは少女の服を買ってあげなきゃいけないのだが、二人とも匂うので店主にかなり嫌がられた。なんとか買えたが風呂に入る必要があった。

宿をなんとか借りることができ、二人は半月ぶりの風呂に入った。一時間は洗い続けないと取れないくらい汚れが酷かった。しかし着替えた少女は別人のように可憐で美しく、俺は見惚れてしまった。

「お前いくつだ。俺の名前はケンジ、17才で元軍人だ」

そう聞くと14才だと彼女は言った。そう言えば名前を聞いていなかった。

「ユウコ・トロイツキ」

一言だけ少女は答えた。度が過ぎる無口なのでもう慣れていた。


「これから俺は国境を越えて行くんだが、お前はどうする?」

「ケンジと一緒がいい」

簡潔だがその答えに照れてしまった。別に好きと言われたわけじゃないのに。

「正直、仕事の宛てがある訳じゃない。どうなるかわからないからな」

宿のベッドは一つしかないので俺が床で寝ようとしたら、私が下で寝ると言う。

そうはさせられないので二人で寝ることにした。ユウコの寝息を聞くだけで俺の心臓はどきどきした。童貞の俺が、初めて女と同衾してるのだから当然ではあった。


国境の川を越え、二人は隣国に逃げることができた。

しかし、銃は打てても他に何もできないガキの俺には仕事がみつからなかった。ユウコはその容姿でウェイトレスの仕事ならあったが俺がいないと嫌だと言う。一週間探し回った結果、治安の悪いホテルが用心棒として俺を雇ってくれ、ユウコは従業員として雇われた。ユウコの希望で俺たちは同じ部屋で暮すことになった。

「お前ほんとに無口だけど地下で男たちに襲われたからか?」

そういうとユウコは頷いた。

男性不審なのに俺とは一緒がいいというのは少々引っ掛かったが、助けたのが俺だからそういうことなんだろうと結論づけた。


一カ月が経ち待望の給料を二人とももらったのだが、その金額の多さに驚いた。俺が軍からもらっていた半年分だったからだ。出身国の貧乏さを知らなかった。

「ユウコは服もっと買った方がいいぞ。綺麗だからな」

そういうと彼女は照れながら頷いた。滅多に見れないユウコの笑顔を見て俺はほっとした。あのレイプ未遂事件のことは早く過去にして欲しかったからだ。

街はわりと活気があり、家具から衣類、食料品すべて売っていた。しかし何もない部屋で生活していた俺は珈琲カップしか買わなかった。ユウコから何故かネックレスを買ってもらったが、付ける意味がわからなかったので仕舞って置いた。


俺が休憩中にホテルに強盗が入り、受付の人間二人ともう一人の用心棒が殺された。三人の冥福を祈りながら銃を乱射モードにして、俺は強盗五人をあっという間に始末した。

本能でホテルを出て遠くに逃げたが、ユウコのことが心配で戻って行った。この国ではあの程度は正当防衛だから逃げることはなかったとオーナーに言われ、国境を越えても狂った世界だと思った。ユウコは俺がいなくなり泣いていた。

「ユウコごめんな。俺はお前の前からいなくならない」

そう言うと彼女の泣き顔が笑顔に変わった。一生守ってやりたいと思ったのは、たぶんこの時が初めてだった。


ユウコはその美貌から他の従業員からかなり人気があったが、一緒にいるのが凶悪な殺人鬼ということで誰も誘惑しようとはしなかった。

「ケンジは殺人鬼じゃないよ。正義の味方なんだ」

ユウコは少し歪んだ認識を持っていたようで、それはそれで助かった。

だが俺が正義であれ悪であれ、凶悪犯が出没する職場は嫌だった。オーナーに道の灯りや防犯カメラを増やすよう行政に働きかけるべきだと伝えた。


三か月後ユウコと俺はホテルを出て大きな街に向かった。オーナーには腕を買われて慰留されたが、ユウコを守るにはもっと平和なところで暮したかった。

その国でも三指に入る街に着くと、その歴史的建造物に圧倒された。教会や美術館はもはや芸術的に美しかった。しかし当然仕事はなく、街の外れの捨てられた家で暮した。雨漏りが酷く寝る場所の確保が大変だった。

「こんな場所に連れて来てごめんな。必ず仕事を探すから」

ユウコは嬉しそうに頷いた。もう彼女は暗い顔はしなくなっていた。


他国からの不法難民だから二人には福祉は適用されない。それどころか身元が知れたら送り返される危険があったのでなるべく身を潜めた。

労働は得意だから雨漏り箇所はぜんぶ直し、暮らしやすくはなっていた。ユウコはそんなに気にしてなかったようだが、男としての面子が多少はあったのだ。

「ケンジは大工さん向いてるんじゃないかな」

ユウコの一言で建築屋に雇ってもらうべく毎日探した。

一か月後やっと建築の仕事にありつけた。木やボードを運ぶ日々だったが、肉体は鍛えられていたのでどうということはなかった。

ユウコには家で待ってるようにしてもらった。あの穴倉で襲われてた現場を見ていたので、なるべく外に出て欲しくなかったのだ。


「ケンジ筋肉いっぱいついたね、格好いいよ」

ユウコの言葉が嬉しくて、家でも筋トレしてしまうようになった。

仕事が見つかって生活には困らなくなった。しかし、国境を越えてただ木材を運ぶことには不満があった。やりたいこと探しという無駄な考えを持つようになった。

命懸けだった軍人生活は終わった。ユウコという一生守ってあげたい女もできた。いや、そもそもユウコにその気があるのかはまったくわからないが。

そろそろユウコが俺に向ける笑顔の意味を知りたくなっていた。俺の方はといえばもう完全に落ちている。嫁にしたいと切に願っていた。


「ユウコ、将来俺の嫁にならないか。今じゃなくて」

そういうとユウコは満面の笑みでいいよと言ってくれた。

実はただの良い人と思われてるんじゃないかという不安があって、ここまで言い出せなかったことだった。未来のことはわからないが、今は喜んでいいんじゃないかと俺は思った。ついでにユウコの唇にキスをした。















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