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幼なじみが変わった

作者: 宮野ひの

 久しぶりに会った幼なじみが、変わってしまった。いい意味で大人になってしまった。


 前はゲームの話題を出せば、何時間でも楽しく話せたはずなのに、今はわかりやすい拒絶を感じるようになった。まだ、そんなものに夢中になっているんだとでも言いたげな目をした後、急に仕事や将来についての話題を振ってくる。


 会話している最中も、あんまり目が合わない。あぁ、自分のことにしか興味がないんだ。私という存在を踏み台にして、自分の人生の素晴らしさに浸っている。


 時折、スマホを見て軽く微笑んでいる。待ち受け画面はかわいい彼女。直接聞いたわけではないけど、絶対彼女だ。わざとスマホを傾けて、私に画面を見えるようにしている。「それって彼女?」と話を振って欲しいようだけど、絶対に聞いてやらない。


 30分も話していれば、上辺だけの話題は尽きる。痺れを切らした太一は、一瞬の沈黙を狙って「詩織は彼氏とかいないの?」なんて聞いてきた。


 昔は恋愛の話なんて一つもしなかったのに。本当に変わったね。性的な話はしないように、二人の中で暗黙のルールがあったはずなのに。大人になったら簡単に破ってしまうんだ。


 よくフィクションの中で、幼なじみと付き合う展開がある。特別珍しい訳ではなく、むしろベタと言われるストーリーだ。あれを目にする度、余計なことをしないでほしいという気持ちでいっぱいになった。幼なじみという安心した領域に、性的な関係は持ち出さないでほしい。気恥ずかしいというものではなく、頼むからやめてほしいという懇願に近いものだった。今となれば、そんなことを思っていた私は幼稚でかわいい。


「いないよ」

「そっか」


 太一は、自分から振った恋愛の話をきっかけに、今、彼女がいることを教えてくれた。そして、恋人がいる素晴らしさについて語った。私は、あぁ、彼女と上手くいっていないのかなとぼんやりと思った。彼女との関係に満たされていたら、他人にわかりやすく自分が幸せであることを熱弁しないだろう。もしくは仕事で嫌なことがあって、ストレス発散から、マウントを取ってきているのかもしれない。


 あぁ。太一って「詩織って彼氏、一度でもできたことある?」なんて質問をするようになったんだ。本当にあなたは変わってしまったね。


 私は自分のことを話すつもりはなかったけど、太一の悪意にプライドが傷つけられて「ないよ。今、彼女がいる」と言ってしまった。


 太一は目を大きく見開いて、私をじっと見つめてきた。


「それって詩織が女の人と付き合っているってこと?」

「うん」


 遠くの方で鳥がのどかに鳴いていた。今年の夏は暑い。先ほどまでの勢いが消えて、二人の間に沈黙が走る。


「えっ、詩織の彼女ってどんな人? 写真みたい」


 太一は目を見開いていて鼻息が荒かった。あぁ、言わなければ良かった。私のちっぽけなプライドを守るために、聖域を他人に差し出さなければ良かった。


 私は精一杯の苦笑いをした。昔の私を知っている人から悪意を向けられたら、なんとか刃向かいたい嫌な癖が出た。


 きっと太一と今日別れたら、連絡先をブロックして二度と会わないだろう。どうか私も大人になれますように。

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