私の兄弟を紹介します
まず最初に紹介するのは、首を切られて死んでいる長男のトーマスです。
トーマスは両親がいない私たち兄弟姉妹の取りまとめ役で、面倒見のいいお兄ちゃんでした。大家族ではよくあることかもしれませんが、家では毎日のように誰かが喧嘩していました。そんな時はいつも、トーマスが駆けつけてくれて、喧嘩を止めてくれました。トーマスはどうして喧嘩が起きたのかを二人から平等に聞いてくれて、話し合いと譲り合いで解決するようにうまく導いてくれました。
以前、私と後で紹介するジーナが新しく買ってもらったぬいぐるみを取り合って大喧嘩したことがありました。トーマスはいつものように駆けつけてくれて、喧嘩をとめ、強欲であること、譲り合いが大事であることを私たちに優しく教えてくれました。それからトーマスは、私たちからぬいぐるみを取り上げると、ハサミでぬいぐるみの側面に穴をあけました。トーマスはそこから中の綿を抜き出し、「おいしい、おいしい」と言いながら綿を食べ、最終的にぬいぐるみはぺちゃんこになってしまいました。
ぺちゃんこになったぬいぐるみを見たジーナがトーマスに抗議すると、トーマスはピロピロピロと言いながらその場で三回転し、「チェリーパイ!」と叫んでジーナの右腕にガブリと噛みつきました。腕を噛まれたジーナはぎゃーと叫び、その悲鳴はこの家中に響き渡りました。その時の噛み跡は今でもジーナの右腕に残っています。
次は長女のエマです。エマは頭をかち割られて死んでいます。
エマは私たち家族の中で一番料理が得意でした。クリスマスには手作りのローストチキン、クリーミーなマッシュポテト、そして自家製のアップルパイを作ってくれます。テーブルに並べられた料理はまるでレストランのように美しく、美味しい香りが部屋中に広がっていました。
エマはまた裁縫も好きでした。エマは家中に落ちている誰かの長い抜け毛を集めて、それでよく編み物をしていました。家を裸足で歩き回るエマの左手にはいつも抜け毛が握られています。左手の薬指には何年も前から髪の毛がきつく巻きついていて、指先は壊死してしまっているのか、黒くぶよぶよとしていました。エマはよく私に、その薬指を触るように言ってきました。私が恐る恐る指を握るとエマはびっくりして目を大きく見開き、きゃっきゃっと笑い声をあげながら、四足歩行で家を走り回ります。
次男のオリバーは首を絞められて死んでます。
オリバーはとても太っていて、その大きな身体と同じくらいにおおらかで、明るい性格です。兄弟喧嘩の絶えないこの家で、オリバーが怒ったり、機嫌を損ねたりしている姿を見たことがありません。どんなに家の雰囲気が暗い時も、オリバーは何かを食べながら朗らかに笑っています。その底抜けに明るい笑い声を聞くと、自分たちが怒ったりクヨクヨしていることが、どれだけ馬鹿らしいかを思い知ります。
オリバーはいつも何かを食べていました。ただ、私の家はオリバーの食欲を常に満足させてあげられるほど裕福ではありませんでした。なので食べるものがない時、オリバーはよく、自分のお腹の脂肪を指で引きちぎって食べていました。指先はいつも血と油で汚れていて、オリバーが歩いた床には血が滴っていました。
一度、いつも以上にお腹を空かせたオリバーが、私の腕やお腹をじっと見つめてきたことがありました。私はそれが嫌だったので、オリバーから離れようとしましたが、オリバーは何も言わずに私についてきます。私が自室に入って鍵を閉めると、オリバーは部屋の扉をカリカリと掻いた後で、チッと舌打ちをして去っていきました。あの時、オリバーが何を考えていたのか、私にはわかりません。
次は三男のエルジンです。身体が濡れているのは、溺死しているからです。
エルジンは家族の中で一番ヤンチャで、喧嘩っ早い性格でした。よく他の兄弟に対して、「お前ら全員狂ってる」と言って突っかかっていました。音楽を心から愛していて、たまにギターを弾いてくれたりしました。トラブルメーカーではありましたが、どこか憎めない性格で、私やジーナはよく、一緒に遊んでもらったことを覚えています。
エルジンは見かけによらず占いが得意でした。ただ、占いに使うためにといつもマーガリンを冷蔵庫からくすねていたので、長女のエマからよく怒られていました。エルジンはテニスボールに満遍なくマーガリンを塗り、それを床に転がした時にできる跡から未来を占います。よく私はエルジンに明日が何曜日かを占ってもらいましたが、エルジンの占いは八割くらい的中していました。
一ヶ月前。エルジンはいつになく真剣な表情でテニスボールが通った跡を見つめていました。それから偶然通りかかった私を呼び止め、渡さなければならないものがあると言いました。エルジンは自分の部屋で戻り、ビデオカメラを持って戻ってきました。エルジンは「いつか必要になる」と言って、それを私に手渡しました。私が今持っているビデオカメラはその時にエルジンからもらったものです。
そして、何が何だかわからないでいる私から視線を外しました。それから部屋の端っこでいつものようにお人形さん遊びをしていたジーナを指差し、「近い将来、あいつに俺たちは殺される」と呟きました。私はエルジンの言うことがよく理解できませんでしたし、そんなことあるはずがないと思っていました。だけど、エルジンのその占いは残念なことに的中してしまいました。
次女のジーナです。ジーナは兄と姉たちを殺した後、首を吊って自殺しました。
ジーナと私は二歳差で、私たちはいつも一緒に遊んでいました。ジーナは動物が大好きで、心優しい性格の持ち主です。私が落ち込んだり悲しんでいる時はいつだって、ジーナは何も言わずに私のそばに来てくれて、すべてを包み込んでくれるような穏やかな笑顔で私を抱きしめてくれました。
この家の裏には林があり、そこではウサギや小鹿など野生の動物たちが元気に駆け回っています。ジーナが動物たちを愛しているように、動物たちもまたジーナを愛していました。最初は警戒心が強い動物たちもジーナが優しく声をかけると、少しずつ警戒心を解いていき、最後には自分からジーナの方へと近づいてきます。ジーナは近づいてきた動物たちを優しく抱きしめながら、「殺したくない、殺したくない」と涙を流しながら呟きます。
殺される前に殺さないといけない。それがジーナの口癖でした。ジーナは動物の首を掴み、その小さな手で締め上げます。首を絞めている間、ジーナはずっと「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながら言い続けます。そして、動物が動かなくなるとジーナは死体をそっと地面に横たえます。その死体を上からじっと見下ろして、ジーナはいつも同じ言葉を投げかけます。
「だけど、私を殺そうとしたあなたが悪いのよ」
ジーナは首を吊って死ぬ前、私の部屋にやってきて、兄と姉たちを殺してきたと教えてくれました。理由を尋ねると、ジーナは兄と姉たちが私を殺そうとしているからだと答えました。私たち兄弟はお互いを愛し合い、大事に思っている。みんながジーナを殺そうとするはずがない。私がジーナにそう伝えると、ジーナはハラハラと涙を流し、ごめんなさいと言いながら部屋を出ていってしまいました。私はすぐにジーナを追いかけました。家中を探し回り、物置にいるジーナを見つけた時にはもう、ジーナは首を吊って死んでしまっていました。
そうそう。忘れるところでした。ジーナの右腕をよく見てみてください。トーマスに噛まれた時の跡がうっすらと見えると思います。
以上が私の愛する兄弟たちです。私は兄弟たちのことが大好きです。両親がいないこの家では、私たちはお互いがかけがえのない存在であり、強い絆で結ばれていたんだと信じています。
私たち兄弟は毎年春になると、隣町にある自然公園でピクニックをしていました。エマが作った美味しいサンドイッチやフルーツサラダをピクニックバスケットに詰め、トーマスの運転で公園まで向かいます。公園に着くと、みんなで大きな毛布や折りたたみ式の椅子を並べ、春の陽気なそよ風を感じながら他愛もない話で盛り上がります。
トーマスはフリスビーをして遊び、オリバーはエマが並べてくれた食べ物をこっそりつまみ食いして、よく怒られていました。エルジンは持ってきたギターで陽気な音楽を奏で、ジーナはエルジンの歌に誘われ寄ってきた小鳥たちと戯れていました。
私は毛布の上に腰掛け、他の兄弟たちの姿を眺めるのが大好きでした。春のそよ風が、木々の間を抜けて頬に触れ、風は花の香りや新緑の匂いを運んでくれました。空を見上げると青空が広がり、風に揺れる木の葉のざわめきの音は、私たちの笑い声と共鳴して心地よい音楽となっていました。
そうやって私がみんなを見ながら微笑んでいると、いつも誰かが私に話しかけてくれて、一緒に遊ぼうと誘ってくれます。私は差し出された手を握って、立ち上がります。エルジンはこの家の人間は全員狂ってるとよく言っていましたが、私にとってみんなは愛する兄弟で、大事な存在なのです。
今はもうピクニックに行くことも、誰かと話すこともできなくなってしまって、とても悲しいです。だけど、私が兄弟と一緒に過ごした日々がなくなるわけではありませんし、兄弟たちは私の中で生き続けると信じています。そして、私の気持ちも、私の兄弟がどういう人たちだったのか、それをずっと忘れずにいるために、こうしてビデオでみんなの姿を撮影しています。
これで撮影を終わろうと思ったのですが、簡単に私の自己紹介もやっておこうと思います。私は三女のクリスティアです。兄弟からはクリスと呼ばれていました。実は私だけ、他の兄弟とは血が繋がっていません。
生まれた時に私の両親が亡くなってしまい、その後は色んな家を転々として生きていました。ちょうど五年前、一つ前の家族が全員死んでしまったので、たまたま縁があったこの家に養子として迎え入れてもらいました。この家の両親は私が養子になってから交通事故で死んでしまったので、どういう縁があったのかは私は知りません。
この家の家族は死んでしまいましたが、一つ前、さらにはその前の家族も同じだったので、私はそこまで驚いていません。多分今回もたった一人残された私は一度孤児院に預けられ、また別の家に養子として迎えてもらうのだと思います。
次に私がお世話になる新しい家でも、新しい両親や兄弟と仲良く慣れたらいいなと、心から思っています。