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8.霧の森


「ここがルシウスの隠れている森か?」

「多分ね。だってこんなに気味が悪い森、見た事ないわ。」

「俺もいろいろ旅してきたけど、たしかにこう、じめっとしてるっていうか・・・嫌な感じがするな。コンパス、本当にこの先にルシウスが居るのか?」


 レオは頷くと、森の一点を見つめていた。

 ロビンは方角を確認しようと空を見上げたが、鬱蒼とした木々の葉が重なり合い陽の光さえ届かない森の中では太陽の位置を確認する事ができなかった。霧が掛かっており、森の中には目印になるものも殆どない。そのためレオの存在は心強かった。


 悪魔の住む森に来る前日、ミラとロビンは村人に聞いてまわり、森の場所を突き止めた。

 村人達の話によると、村から半日ほど歩いた場所に大きな森が広がっており、そこに悪魔が住むと噂されていた。ただし森の中は薄暗く気味が悪いので村人もほとんど近づかない場所だという。悪魔の隠れ家には都合の良い場所なのだろう。


 2人はレオだけを頼りに森の奥に進んで行った。奥に進めば進む程、だんだん霧が濃くなっていく。前が見えにくく、レオとロビンがどんどん先に行くのでミラは困っていた。振り返ったロビンが手を差し出した。


「はぐれないように、繋ぐか?」

「嫌よ。あんたと手なんか繋ぐもんですか。」


 ロビンはミラをひと睨みすると、ゆっくりと前に進んだ。途中蜘蛛の巣に引っかかったり飛んで来た虫に驚いてミラが悲鳴をあげると、ロビンとレオが驚いた。

 まるで霧のお化け屋敷のような森の奥を更に進むと、何かが光ったのが見えた。


「あそこに何かあるわ。」

「ん? どこだ??」


 ロビンがミラの指差す方向を見ると、遠くで何かが光っていた。近づいて見てみると、そこには大きな鏡があった。その隣には美しい装飾の施された大きな宝箱や立派なソファもある。


「森には不釣り合いな物があるわね。もしかしたらルシウスの隠れ家かも。あの宝箱を開けてみましょう。私のペンダントとエリーの指輪が入ってるかも!」

「待て。もしかしたら何か罠を張ってるかもしれない。迂闊に触らない方がいい。」

「・・・それもそうね。」


 2人は少し離れた藪の近くに隠れた。

 どれくらい時間が経ったのだろうか。遠くから誰かの歩いてくる音が聞こえた。盗賊風の男が歩いて来て、宝箱を見て喜んでいる。


 ピカッ!!


 蓋に触れた瞬間、宝箱から稲妻が飛び出し感電した男は黒い塵に変わって風に吹かれて消えてしまった。


(ひぇぇぇぇぇ・・・!!! ロビンが止めてくれなかったら、私もああなってたってこと!?)


 ミラが青ざめてレオを抱きしめると、ロビンも隣で真っ青な顔をしていた。こんな風になるとは夢にも思っていなかったのだ。


 暫く時間が経つと、また足音が聞こえた。ルシウスだった。宝箱の前で立ち止まると、呪文を唱えた。


「世界で一番美しいのは・・・ルシウス!」


 宝箱がひとりでに開いた。満足そうに中身を確認すると、蓋を閉じて鏡の前に移動した。すると長い時間を掛けて変なポーズを取ったり自分を見つめて笑顔の練習をしていた。


(ルシウスったら自分が大好きなんだわ。でもこれを覗いてるって分かったら、すごく恥ずかしがるんじゃないかしら・・・)


 途端にミラは笑いが込み上げてきた。


(いっ・・・いけない!! ここで笑ったら計画が・・・。でもまた鏡の自分に笑いかけてカッコよく見える角度を探してる・・・)


 ロビンが何気なくミラの方を見ると、両頬を膨らまして口をぎゅっとすぼませ肩を震わせていた。


(・・・ん? なんで変な顔してるんだ? 肩も震えてる気が・・・)


「ぷふっ!!!」


 ミラがいきなり吹き出したので、ロビンは急いでミラの口を塞いだ!


「お前・・・! 猫になる前にバレるつもりかっっ!? 笑うな!」


 小声で注意するロビンに気付き、ミラは何度も頷いた。それからじっとロビンの目を見つめて落ち着きを取り戻した。笑ってしまうので、なるべくルシウスを見ないように俯いた。


「ワン、ツー ワン、ツー、スリー、フォー トュルルルルルル、トュットュットュルルルル♪」


 突然ルシウスが鏡の前でボックスステップを踏みながら指を鳴らして歌い始めた。


((!!!))


 ロビンとミラは目を見開いてその様子を見ていたが、やがてミラが肩を震わせている事にロビンが再び気づき小声で注意した。


「ミラ、耐えろ! めちゃくちゃ笑えるけど我慢し」


「あははははははははははっ!!!!」


「ぎゃあっ!! そこに居るのは誰だ!?」


 ルシウスは飛び上がるとミラ達の隠れている方を振り返った!

 笑いの止まらないミラとロビンが姿を現すと、ルシウスは顔を真っ赤にして慌てていた。


「い、今までの、全部見てたっ!!?」

「「見た。」」

「ひとのプライベートを覗き見するなんて最低だな!!」


 怒ったルシウスの言葉を聞いてミラは突然逆ギレした。


「最低!? 今最低って言った!!? 最低なのはあんたでしょ!! 私を騙してペンダントを勝手に盗むし、エリーの婚約指輪も盗んだでしょ!! 乙女心を弄んだ上に泥棒するなんて最低よ! 今すぐ全部返して私に土下座しなさい! 許してやらないけどね!!」

「あぁ、君はあの時のミラちゃんか。よくここまで来たね。この場所を知っているって事は、僕が悪魔なのも知っているのかな?」


 ルシウスは指をパチンと鳴らすと、ピンク色の薄いモヤがミラの周りにかかり始めた。

 するとミラはとろんと虚ろな目をした。


「な、なにかしら・・・なんだかふわふわした気持ちに・・・」

「ミラちゃん、僕と一緒にここで暮らそうか。僕、君を気に入ってるんだ。美しい僕と美しい宝石に囲まれて生活できるなら、君も嬉しいだろ?」

「・・・ルシウスと、一緒に?」


 話を聞いていたロビンがルシウスの言葉を遮った。


「勝手な事言うな! ミラは俺と旅をしてるんだ! お前なんかと一緒に暮らさねぇよ!」

「君は・・・ロビン君だったかな? ミラちゃんは君と一緒に居るのが嫌なんだって知ってるだろう? 嫌いな男と一緒に居るより、美しい僕と暮らす方がいいに決まってる。」

「うるせぇ、ナルシスト! ミラは俺と一緒に行くんだよ!」


「・・・・・・して。」


 ロビンとルシウスが言い合っていると、いつの間にかミラが2人の近くまで来ていた。ミラの周りにあったピンクのモヤは、殆どなくなっていた。


「・・・・・・2人とも、いい加減にして。」

「ミラ?」


 ロビンが振り向くと、ミラの周りのモヤは完全に消えていた。ルシウスがそれを見て顔色を変えた。



「あれ? 僕の誘惑の魔法が効かない!?」


「・・・私は・・・私は、あんた達2人とも、2人とも、大っっっっっ嫌いなのよ!!!!!!」



 ミラは怒りに身を任せてロビンを睨みつけた!


「まずロビン! 最初はかっこいいと思ったけど、あんたに何度裏切られて傷ついた事か・・・ロマンもクソも無いあんたと気が合わないのは分かってるし大っっ嫌いだけど、呪いを解きたいから仕方なく一緒に旅してるの!! なのにルシウスと私の取り合いみたいな事し合ってんじゃないわよ!!!!!気持ちが悪いわっっっ!!!!!」


 ミラは駆け出すとロビンに右ストレートパンチをお見舞いした! 渾身の一撃がきまり、ロビンはひっくり返って動かなくなった。

 ミラの背後には真っ赤な炎がごうごうと燃え上がっていた。


「・・・そして、あんた。ルシウス!」

「ひぃっ!!!!」


 怒りの炎を背負ったミラに名指しされ、ルシウスは震え上がった。


「私を甘い言葉で誘惑して魔法で操った挙句に形見のペンダントを盗んで消えたわね。そんな事をしでかして、『僕と一緒にここで暮らそうか?』ですって!!!? よくぬけぬけと言えたわねぇ。その神経に吐き気がするわ!! 私はねぇ、あんたみたいな男が、一番、一番、一番大っっっ嫌いなのよぉぉぉぉ!!!!!」


 ルシウスが尻餅をついて後退りした瞬間、ミラの右腕が動いた!


「くたばれ!!!ごみクズ男っ!!!!!」


 ミラは渾身の右フックをルシウスの美しい顔に打ち込んだ! ミラの拳でルシウスの顔は歪み、崩れるように気絶した。


「やったぁぁ! 2人もクズ男を倒しちゃった♡」


 ミラが拳をあげて喜んで飛び跳ねていると、ロビンが起き上がった。終始茂みに隠れ、怯えて事のなりゆきを見ていたレオはロビンの傍に走り寄った。


「ミラ、俺まで殴るなよ。」

「あ、ごめんね、ロビン。ついうっかりやっちゃった。さぁ、ルシウスが倒れているうちに宝箱を開けちゃいましょ!」

「そうだった!! 宝があるんだ!! 何が入ってるかワクワクするな!!」


 宝箱の前で胸くその悪い呪文を唱えると、ひとりでに蓋が開いた。中には、煌びやかな宝石や金貨が溢れていた。


「やったぜ!! これ全部俺のものだ!」

「ちょっと! 半分は私ので、もう半分はロビンのでしょ!」

「ちっ。分かってるよ。」


 ロビンは大喜びで宝箱の中身を漁っていた。ミラはエリーのであろうダイヤモンドの指輪を見つけたが、形見のペンダントは無かった。


「私のペンダントが無い・・・どこに行ったのかしら?」


 ミラが落ち込んでいるのに気づき、ロビンは考え込んだ。


「ルシウスが身につけてるんじゃないか? 調べてみよう。」


 ロビンがルシウスに近づきしゃがみ込んだ。よく見てみると、首元で鎖が光っていた。引っ張り出すと、ミラのペンダントを身につけていた。服の下に入っていたから、パッと見た時には気が付かなかった。


「お前には勿体無いぜ。」


 ロビンがニヤリと笑ってペンダントを外そうとすると、ルシウスの目が開いた。


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