6.形見のペンダント
ロビンはレオの後を追いかけていた。
(コンパスの道案内・・・でも俺に何を探せっていうんだ??)
しばらく街の中を走るとミラを発見した。だが知らない男に抱かれている。
「ミラ?」
「わ、わぁぁっ!! ロビン!?」
「お前何してるんだよ。そいつは誰だ?」
ルシウスはロビンに気づいた。
「君がミラちゃんの言っていた連れかな?」
「連れ? あぁ、そうだ。一緒に旅をしてる。」
「ふぅん。」
ルシウスはロビンの頭のてっぺんからつま先まで眺めてから鼻で笑った。
「僕の方が美しいね。ミラちゃんが君とは気が合わないって言っていたよ。ひょっとして、レディーの扱い方を知らないんじゃないかい?」
「そんなの知らねぇし興味もない。っていうか、お前誰だよ。」
「僕はルシウス。ミラちゃんは、これから僕と一緒に居るってさ。」
「あぁ!?」
ロビンは驚いてミラを見た。ミラは下を向いたまま顔を上げなかった。
「ミラ、話が違うぞ! 俺と一緒に行くって決めたんだろ。」
「だって・・・」
ミラは顔を上げると、目に涙を浮かべていた。
「だってロビンとは想像以上に気が合わないし、デリカシーがないし、優しくないし、手癖が悪くてお金の事しか考えてない顔がちょっといいだけの中身サイテー男だったから一緒に居るのに疲れちゃって・・・」
「おま・・・それ面と向かって言っちゃいけないだろ。」
「ロビン君かい? 君ってひどい奴だな。ミラちゃんが可哀想だ。」
ルシウスは勝ち誇った顔をすると、ミラの手を引いてその場を離れた。
レオがロビンの周りをぐるりと歩くと、隣に座って頭を擦り寄せた。
「はぁ・・・追いかけろって言うんだろ。分かってるよ。けど、俺だってあんな事言われたら傷つくんだ。」
ミラとルシウスが向かったのとは反対の方向にロビンは歩いていった。
ミラはルシウスと街のお店を見てまわっていたが、外は暗くなり始めていた。
「楽しんでるかい?」
「はい・・・でも、あの」
ミラの顔から笑顔が消えていた。ルシウスが心配してミラを引き寄せた。
「どうしたのかな?」
「さっき、ロビンと会った時・・・私、ルシウスさんと一緒に居るなんて返事、してないなって思って・・・」
「そうだね。」
ルシウスは店に並んだ宝石を眺めながら、ミラのペンダントを盗み見た。それからミラの顔を見ると、にっこりと微笑んだ。
「僕が君と一緒に居たかったんだ。ごめんね。嫌だったかな?」
「いいえ! 嫌って訳じゃなくて・・・・・・」
「じゃあ、その話はもうお終いだ。そろそろ宿に行こうか。」
「や、宿・・・?」
「そう。僕の泊まってる宿。」
「・・・・・・」
ミラは嫌な予感がしてルシウスから離れようとした。だが、なぜか足が勝手にルシウスについて行ってしまう。
「!? どうなってるの? ルシウスさん!?」
「ふふふっ。君って本当に可愛いなぁ。」
ルシウスは笑いながらミラの手を引いて店を出た。
そのまま大通りに出ると大きな宿まで歩いて行き、部屋の中まで来てしまった。
「ひえぇぇ! 足が勝手に・・・! これってどういう事!?」
「君の足に魔法を掛けたんだよ。僕の思い通りに動くようにね。」
ミラの足が勝手にベッドに向かい、そのままストンと腰を下ろした。ルシウスが意地悪な笑みを浮かべ、パチンと指を鳴らすと、ミラは唐突に眠気に襲われ意識を失った。
「さぁて、頂こうかな。」
ルシウスは眠っているミラの首から形見のペンダントを外すと、部屋のライトを点けた。貝殻の形をした透明な宝石部分を明かりに照らすと、虹のように七色に煌めいた。ルシウスはその輝きに息を呑んだ。
「これは魔女の宝だ。間違いない。噂に聞くよりも遥かに美しい。」
ルシウスがペンダントを握りしめて部屋の外に出ようとすると、ドアの外にロビンが立っていた。
「1人でどこに行くんだよ?」
「よくここが分かったね。そんなにミラちゃんを気に入ってるなら部屋の中にどうぞ。彼女は眠ってるよ。」
横をすり抜けようとしたルシウスの胸をロビンが押した。
「その手に握ってるものは何だ?」
「・・・目がいいね。君も宝石が好きなのかな? でもこれはあげないよ。もう僕のものだ。」
「それが目的か。」
ロビンがペンダントをひったくろうとすると、ルシウスはひょいっと避けて指を鳴らした。すると空中から10匹ほどの蝙蝠が現れ、ロビンに纏わりついた。
「げぇっ! なんで蝙蝠が!?」
蝙蝠はロビンの顔の周りをバサバサと飛び回った。必死で腕を振り全て追い払った時にはルシウスは居なくなっていた。
部屋の中に入ると、ベッドに横たわっているミラを見つけた。
「おい、起きろ!」
ミラをゆすると目を覚ました。
「ロビン? ・・・あれ!? ルシウスさんは!?」
「お前のペンダントを持って消えた。」
「えええ!? ひどい!! やっぱり私を騙したんだわ!」
ミラはひどく驚き、それから泣きそうな顔でうなだれた。
「まだ近くにいるだろ。捕まえて一発殴ってやればいい。レオを外に待たせてるから早く行くぞ。」
「うん・・・」
2人は宿の入り口で座って待っているレオを見つけた。ミラを見るとレオは飛び跳ねて喜んだ。
「レオ、私のペンダントが何処にあるか分かる?」
ミラの問いかけにレオは頷くと、西の方角を向いた。
「俺1人で探すから、ミラはレオと一緒に休んでろよ。宿を取ってあるから、レオは案内してやれ。」
「でも・・・」
ロビンは勝手に行ってしまった。レオも歩き始めた。仕方がなくミラはレオについて行き、別の宿に向かった。部屋に入ると両際の壁にベッドがあり、奥のベッドに腰掛けた。
(ロビンに気をつけろって言われてたのに、すぐにお母さんのペンダントをなくしちゃった。どうしてこうなっちゃったのかしら・・・。ううん、全部私がいけないんだわ。イケメンに目がくらんで・・・)
ミラは軽率な自分を反省した。すると次第に涙が出てきてレオを抱きしめてベッドに入った。レオがミラの頬をなめて心配そうに見つめると、ミラは余計に涙が出てきた。
「ありがとう、レオ。」
言葉とは裏腹に後悔の気持ちで胸が張り裂けそうだった。ミラはたくさん泣いた。そうして、そのまま泣き疲れていつの間にか寝てしまった。
「ミラ、起きろ。」
「・・・ロビン?」
ミラが目をこすりながら起き上がると、ロビンは悔しそうに言った。
「街の中を探したけど、あいつは居なかった。」
「・・・そう。探してくれてありがとう。あと、迷惑かけて、ごめんね。」
ロビンは反対側のベッドまで歩くと、どさっと座った。
「お前のペンダントは物凄く価値があるってじぃが言ってたんだ。必ず取り返すぞ。」
「・・・そうなの? 前にもそんな事言ってたわよね。」
「お前、なんにも知らないんだな。あれは」
午前0時になり2人は猫に変身した。話の途中だった2匹は目を見合わせると、そのまま黙ってベッドで眠り始めた。