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4.旅のはじまり2


 外に出ると、空一面に星が瞬いていた。宝石箱をひっくり返したような夜空だった。小さな星のひとつひとつの瞬きまでもがはっきりと分かる。


(わぁぁ! 街の灯りがないと、こんなに綺麗に見えるのね!)


 赤毛の猫になっているミラは小さなため息を漏らした。夜の空気は冷たく、息を吸うと鼻がツンとした。


 それから茶トラ猫のロビンを探そうと辺りを見回すと、テントの入り口から少し離れた所に座っているのを見つけた。尻尾の先を左右に動かしている。

 近づいて隣に座ると、目が合った。暫く見つめ合うと茶トラは立ち上がって再び歩き始めたが、少し歩くとミラを振り返った。


 ついて来いと言っているようだ。


 ミラが後を追うと、茶トラも進み始めた。そのまま歩き続けると、せせらぎの音が聞こえてきた。そして遠くには小さな淡い光がチカチカしながら舞っているのが見えた。


(何かしら、あの光は。)


 近づいてみると、川の上をたくさんの光が舞っている。この光の正体は、夜行虫だった。チカチカと発光器を光らせている。

 茶トラは淡い光が飛び交う中で、川の水をペロペロと飲んでいた。ミラも茶トラを真似て水を飲んだ。冷たくて美味しい。いくつもの光が目の前を飛び交う光景は幻想的だった。しばらく2匹で眺めた後、茶トラとミラはテントに戻った。


 ミラは自分の寝袋に入ろうとして、レオがコンパスに戻っている事に気がついた。


「ゥミャアオォー!!?」

「ナァーー?」


 ミラの声に反応して、もう一方の寝袋に入ろうとしていた茶トラも声を出した。やがて茶トラもレオの異変に気付き傍に寄って来ると、コンパスを転がし始めた。ミラも猫の手で転がしてみるが、コンパスはコツンと音を立てて動くだけで、煙が出たり豹に変身することは無かった。


「ォワァァ〜ン・・・」


 ミラががっかりした声をあげると、茶トラが隣に来て座った。茶トラなりに心配してくれているのだろうか。

 ミラが大丈夫と頷くと、茶トラはゆっくりと瞬きをしていた。そのまま黙って見ていると、目を閉じて寝てしまった。


(レオがコンパスに戻って寂しいから、隣に居てくれるのは嬉しいかも。うーん、それにしても、毛がふわふわであったかいなぁ。猫ってあったかくていいなぁ。そういえば、私、茶トラを飼おうと思ってたんだっけ・・・・・・)


 ミラも、うとうとし始めた。薬屋の看板猫になった茶トラが、お客さんに「お宅の猫はかわいいねぇ」なんて言われて、「そうなんです〜」と自慢する夢を見た。


 そして早朝。ミラはふわふわの温かい猫の毛を手探りで探して、ツルツルの温かい人間の腕に触れた。

 


「ぎゃあああぁぁぁーーー!!!」



 ミラの横では背を向けた裸のロビンが寝ていた。慌てて飛び退くと、余っている方の寝袋のボタンを全て外した。中からロビンの服が出て来てミラはぞわっと鳥肌が立ったが、急いで服を摘んでロビンに投げつけると寝袋を被って頭を抱えた。


(しまったぁぁぁぁぁ!! 油断してあのまま寝ちゃったんだぁぁ! こうなるのを忘れてたぁぁぁ!!)


 ロビンが寝返りを打った拍子にコンパスが弾き飛びミラの手に当たった。その瞬間コンパスからもくもくと煙が出て、眠ったままのレオが姿を現した。


「うえぇぇぇ!? なんでっ!!?」


 ミラが大声をあげたせいか、ロビンが動いた。困った事にミラの方を向いて目を擦って上半身を起こし始めていた。ロビンが目を開けようとした瞬間、ミラはロビンの顔に自分が羽織っていた寝袋を投げつけた。


「!?」

「見るなぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ミラは顔があるであろう部分に目掛けて渾身の右ストレートパンチを放った!


 クリーンヒット!!!


 そのままロビンは後ろにひっくり返り気を失った。


「わぁぁ、ごめんね、ロビン! でもそのまま寝ててね。」


 急いで服を着ると、ロビンの顔に掛かっていた寝袋を摘んで取った。

 ロビンは気を失ったまま寝息を立てていた。

 ミラは先ほどの事は全て無かった事にし、外に出て朝食の準備をする事にした。



 チュンチュン。



 鳥のさえずりの声で目が覚めたロビンは、なぜか顔に痛みを覚えた。服を着て外に出るとミラが朝食を作り終えていた。


「うまそうだな。」

「へへっ、ありがとう。」


 ミラは食事中ずっとロビンの様子を観察していたが、殴った事がバレていなさそうだったのでホッと胸を撫で下ろした。


 朝食を済ますと、昨晩立ち寄った川を再び訪れ、ロビンは袋に水を汲んだ。その隣で水を汲みながら、ミラは頬を染めて照れていた。


「ねぇ、昨日の夜は、素敵なものを見せてくれてありがとう。」

「素敵?」

「うん。この川に夜光虫が居たでしょ。すごく綺麗だったわ。」


 ロビンはにやりと笑った。


「そうだろ! 売ると高いんだぜ。」

「へっ!? 売る・・・?」


 ミラの目が点になった。


「前にこの辺りに来た時にあの虫を見つけたんだけど、この地域でしか採れないんだ。だから一緒に捕まえて売り飛ばそうと思って、お前に見せた訳だ。昨日はうじゃうじゃ飛んでたからな。捕まえて売り飛ばしたら、いくらになるか楽しみだ・・・おい、ぼさっと立ってないで早く手伝えよ。」


(き、綺麗な虫を、売り飛ばす。そっか・・・素敵な景色を見せるために連れ出してくれた訳じゃなかったんだ。)


 ロマンの欠片もない答えに、ミラはショックを受けるのと同時に腹が立ってきた。


「・・・・・・あんたって、そういう奴なのね。期待した私がバカだったわ。」

「なんか言ったか?」

「別に・・・。それと私は手伝わないからね。あんな綺麗な虫達を捕まえて売るなんて、ひどいわ。」

「あぁ!? 本気で言ってるのか!? つまんねぇな、お前。稼いだ金はやらないからな。」

「あんたの頭の中はお金しかない訳!? いらないわよ、そんなお金!!」


 ロビンは宣言通りにひとりで夜行虫を捕まえた。


 そして2人と1匹は川を後にし、平原を進んだ。

 


 一週間後。ようやく街が見えてきた。


「あれが中央の国?」

「あぁ。その中の東の端の街だ。お前の居た街と比べて人も多いしスリも多いから気をつけろよ。」

「そうね、気をつけるわ。とある男に形見のペンダントを盗まれたし、用心しなきゃね。」

「だから悪かったって言ってるだろ。」


 旅に出てから初めて寄る街。その街がどんどん近づくにつれ、ミラの胸は高鳴っていった。


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