35.無理です
笑顔を崩さないルピアナに対し、ミラは顔の前で両手をぶんぶんと振っていた。レオはその手にじゃれつこうと、ミラの足元をぴょんぴょん飛んでいる。
「いやいやいやいや! 無理ですって!! 私魔女の才能があるって言われてるだけで、魔女じゃないですから!!!!」
「問題ありませんよ。今魔力を目覚めさせればいいだけですから。」
口をあんぐり開けていると、レオに手を噛まれて悲鳴をあげた。急いでレオの口を開けながら、半泣きでルピアナに尋ねた。
「どうやったら目覚めるんですか?」
「水晶玉を直したいと強く心から願うか、心を大きく揺さぶるきっかけがあれば魔力が目覚めると思います。」
「えぇ? 本当に? それならもう目覚めててもいいと思うんですけど。」
ミラは今までの旅の中で、泣いたり喜んだり、いろいろな経験をしてきたのを思い出していた。するとロビンの顔が浮かび、小さい頃から変わらない手癖の悪さのせいで南の国が滅んだ事を思い出した。心の底から、げんなりした気持ちになった。ロビンのせいでミラは母親の顔も知らずに今まで育って来たのだ。父親だって寂しい想いをしてきたに違いない。
ミラは大きなため息をついた。その様子を見たルピアナは目を光らせた。
(あともうひと押しだと思うんだけどな〜。)
ルピアナの予想では、ロビンが母親の仇だと分かったら、怒り狂ったミラの気持ちが爆発し魔力が目覚めると思った。しかし失敗したようだった。
残る作戦は心から水晶玉を修復したいと強く願ってもらうだけだ。そのためにミラに城の中を歩かせたのだ。恐怖や同情、そんな感情でも想いが強く且つタイミングが合えば魔力が目覚めるきっかけになると考えたのだ。
「ミラ、早速やってみましょう。水晶玉に手をかざしてください。」
「は、はい。」
言われた通りに手を差し出した。そして水晶玉に気持ちを集中させた。
(直れ直れ直れ直れ〜・・・・直れ!!!)
ミラが目を見開いた!
しかし何も起こらない。
(くっつけ、くっつけ〜・・・・くっつけ!!!)
しかし何も起こらない。
「ルピアナ様、出来ませーん。」
「んんん〜。困りましたねぇ。」
人差し指を顎に当てて、ルピアナが考え込んだ。
「じゃあ、何か良い事を思い出してみましょうか。例えば・・・夢中になった恋とか。」
「こ、恋ですか!?」
「愛の力ってすごいんですよ。悪質な呪いも解いてしまうくらい強いんです。」
そんな事をいつか会った魔女も言っていたな〜とミラは思った。幸いにもミラはときめくのが得意だった。色々思い返してみる。
(黒髪の王子・・・は、ダメ。ときめいたけど裏切られた。エミリーとイワン・・・うんうん、いいカップルだわ。それからエメラルダさんとジュードさん。うん、ロマンチックな2人だわ! 2人とも、お互いを愛してるもの! 私もジュードさんみたいな心の優しい男性に会ってステキな恋をして・・・)
ミラがよだれを垂らし笑いながら気持ちを集中していると、ルピアナは微かに魔力の気配を感じた。ミラの魔力は母親のマールの魔力と瓜二つの性質を持っていた。
(マールも優しかったし、ミラも愛とか人に優しくする事が好きなのね。でもまだ若いし、ステキな恋愛を経験してるのかしら? 不安だわ。)
静かにルピアナが見守っていると、すっとミラの魔力が消えた。もう集中力が切れて別の事を考え始めていた。
「こらこら、ちゃんと集中してください。」
「あ!! 私ったらつい・・・。ルピアナ様、こんな事で、本当に魔力が目覚めるんですか?」
「うーん。理屈ではその筈なんだけど、意外と難しいですねぇ。」
笑顔で困った顔をしたルピアナは、水晶玉の近くに立った。
「そのペンダントを貸してもらえますか?」
「え・・・はい。」
ミラはペンダントを首から外すと、ルピアナに渡した。するとペンダントが光り輝き、七色の光が割れた水晶玉を包んだ。しかし赤い光が強くなり、途中で止まってしまう。
「やっぱりダメですね。私の魔力が混ざってしまいました。この通り、あなたの母親と同じ魔力の波長、つまり、ミラでないと出来ないのです。でも今のでやり方のイメージは沸きましたよね?」
「まぁ、なんとなく・・・」
実はさっぱり分からなかったが、適当に相槌を打った。
突然大きな揺れが起きた!
「なに!? 地震!!?」
「大変! 私とした事が気づきませんでした!」
ルピアナが慌てている。
「ミラ、水晶玉の修復に集中してください! その間、助っ人を呼んであなたを守ってもらいます。」
「はい!」
窓を開けてルピアナが箒に跨り空を駆け抜けると、光の軌跡だけが残った。ミラは突然消えたルピアナに驚きを隠せなかったが、言われるがままに手をかざした。そこで、疑問が湧いた。
(助っ人を呼ぶって、何から私を守るの?)
すると、いきなり空が暗くなり大雨が降り出した。雷鳴が轟き、強風と共に大きな雨粒が部屋に入ってきた。
「なに!? どうなってるの?? ルピアナ様ーーーー!!?」
ミラは混乱して大声でルピアナを呼んだが、返事は返ってこなかった。すごく嫌な予感がした。足元にはしっかりとミラの足にしがみつくレオが、「また来る!!」と震えていた。
開け放たれた窓から暴風雨が入り込み、ミラは急いで窓を閉めようとした。そのとき空に閃光が走るのが見え、窓の外に身を乗り出した。
暗い雨雲が渦を巻くように流れ、吹き荒れる雷雨を呼んでいた。その冷たい雨に打たれながら巨大な青い蛇が海の中から姿を現した。それを魔女が止めようと、魔法を放って爆発を起こしている。それは箒に跨ったエメラルダだった。ルピアナから助けて欲しいと直接頼まれたのだ。
「なかなか手強いじゃないか! さすが海神だ!」
エメラルダは竜の鋭い牙を避けると、魔法で注意を逸らし城から引き離そうとした。再び大きな爆発が起き、竜の前進を妨げる。しかし、竜は長い胴体をうねらせながら真っ直ぐに城へ向かってしまう。
するとまた箒に跨った新たな魔女が現れた。エルドラドの女王であり、魔法学校の校長、そして黄金の魔女と呼ばれるアンラムであった。
アンラムは竜を囲うように魔法で金の壁を作り上げた。竜は一瞬動きを止め、壁を壊そうと体を壁に激突させ始めた。だが金の壁はびくともしない。
「久しぶりだな、アンラム。」
「ご機嫌よう、エメラルダ。あら? 前に会った時と比べて雰囲気が変わったんじゃないかしら。」
「そうか? もしかしたら真実の愛を見つけたからかもな。」
「あの貴女が!? その話、詳しく聞かせてもらえるかしら?」
二人は竜の存在を忘れて雷雨のなか恋バナを始めようとしたが、大波が起き一瞬海水を被るとずぶ濡れになった。二人が竜の方を振り返ると、うねうねと長い胴体を這わせて金の壁を乗り越えようとしていた。このままでは城に向かってしまう。
「まぁ、なんて事!?」
エメラルダとアンラムは箒を飛ばして竜の前に立ちはだかった。




