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31.北の国の魔女


 針葉樹の生い茂る山の坂道を登っていると、蝙蝠や大きなトカゲが寄ってきた。先頭を歩いていたレオが怯えたが、ミラの付けている髪飾りの魔除け効果のおかげで、ある程度近づくと皆逃げてしまった。レオは安心して2人の前を歩いた。


「ちゃんとした髪飾りを買って正解だったな。」

「本当ね。ありがとう、ロビン。」


 ミラがお礼を言うと、ロビンは何も言わなかったが耳を赤くしていた。それを見たミラがクスッと笑い、曇り空を見上げた。すると上空を大きな影が横切った。


「きゃあ! なにあれ!!」


 叫び声と同時に、大きな生き物が空から舞い降りて2人の前に立ち塞がった。鱗で覆われた体に、大きな翼、そして金色に光る鋭い目・・・ドラゴンだった!


『この先を通る事は許さん。』


 ドラゴンが地を這う様な低い声で言った。ミラとロビンとレオはその迫力に震え上がったが、魔法の巾着から北の魔女との友人の証であるルビーの付いたブローチをドラゴンに見せた。


「これがあれば通れるんでしょ!?」


 ミラが大声で叫ぶと、ドラゴンは大きな顔を近づけてブローチを確認した。


『本物のようだ。それはルピアナ様の大切な友人の証。ルピアナ様の元へ送ってやろう。さぁ、ここに乗るんだ。』


 ドラゴンは大きな右手を開いてミラ達の前に差し出した。


(えっ。手の平に乗れって事?)


 ミラは怖いので嫌だった。すかさずロビンを見ると、ロビンも青い顔をして固まっていた。

 2人を見たレオが首を振ると、ぴょんとドラゴンの手の平に乗ってしまった。


「危ないわ、レオ!!」

「食われるぞ、レオ!!」


 ドラゴンは2人を睨みつけると、とても大きなため息をついた。


『私が案内する者は、必ずその様な反応を見せる。ルピアナ様の元へは、1週間かけて山を越えた後、船に乗ってルビーの城まで行かなければならない。私が案内すれば1時間程で着く。どちらが良い?』


 2人は顔を見合わすと、黙ってドラゴンの手の平に乗った。ミラがレオを抱き締め、ロビンがミラとレオを抱き締めると、ドラゴンが鋭い爪の光る指をゆっくり曲げて手の平を閉じた。

 次の瞬間、ドラゴンの手が大きく動き、それから上下に振動した。羽ばたき始めたのだ。2人と1匹は暗くなった手の平の中で揺られながら、早く城に着くことを祈った。


 ドラゴンの言う通り、1時間程で空の旅は終わった。陸に着くとドラゴンは手の平を開いた。レオを抱いたミラと、空酔いしたロビンがフラフラとした足取りで陸地に降りた。


『さらばだ。』


 ドラゴンは大きな翼を広げて山へ戻って行った。


「怖かった〜・・・ロビン、大丈夫? ずっと揺れてて気持ち悪かったわよね。」

「お前はよく平気だな。・・・うっ。」


 ロビンは口を抑えると近くの森の中に消えて行った。暫くすると戻って来た。


「あれがルビーの城か。」


 振り向くと、赤いレンガで出来た大きな城があった。城の所々が煌めいている。幾つものルビーを城壁に埋め込み、花や蔦の模様を描いていた。


「美しいお城ね。こんなお城、見たことない。行ってみましょう。」


 これが最後の旅になる。そう思うと、ミラの胸はどんどん高鳴っていった。それはロビンもレオも同じだった。



* * *



 城に近づくと町があった。町の中は至る所がルビーで出来ていた。黄金の魔女がいるエルドラドとは、また違うテイストである。


「ここが北の魔女の町『ルビーの城下町』か。何でもかんでもルビーで出来てるな。魔女に会う前に、できる限りの宝石を袋に詰め込むぞ。街の外で売って、俺たち大金持ちだ!」

「そういう事を考える前に、一言でいいから、『綺麗だね』とか言えない訳?」

「あぁ!? 俺がそんなつまんねー事、言う訳ないだろ。」


 ロビンの一言に、ミラはカチンと来た。


「この旅を早く終わらせて、一刻も早くあんたと別れてやる。」

「なんか言ったか?」

「いいえ、なにも。あっ、あれお城の門じゃない!?」


 ミラは門に向かって走り出そうとした。


「おい、まだ宝石を詰め込んでないぞ。」

「ちょっと! それ冗談じゃなかったの!? そんな事したら面会を断られるかもしれないでしょ!」

「うっ・・・それもそうだな。」


 ロビンががっかりしながら諦めると、城の門まで行き、門番に魔女との面会を申し出た。


「猫になる呪いを解いてもらうために来ました。北の魔女に会わせてください。」


 ロビンは単刀直入に切り出すとルビーのブローチを見せた。門番はピクッと片眉を上げると、2人にこのまま待つように言った。

 暫くすると城の中から召使いと思われる女性が出て来て、2人を中に案内した。レオは周りを見回しながら、「やっと北の魔女の所へミラとロビンを連れていくことが出来そうだ」と安心していた。


 城の中に入り、すぐに玉座の間に案内された。部屋の中に入ると、大きな窓の目の前にルビーの装飾が施された玉座が置かれていた。そこに大きな黒い帽子を被り、真っ赤なドレスを着た、いかにも魔女風の女性が足を組んで座っていた。


「ようこそ、ルビーの城へ。私が北の魔女のルピアナです。」


 優雅に喋るルピアナを前に、ミラは緊張した。


「ミラです。こっちはロビンです。私達は猫になる呪いを掛けられているので、ルピアナ様に解いてもらいたいのです。お願いできるでしょうか?」


 声が震えたが、ミラははっきりとルピアナに伝えた。


「勿論、タダでとは言いません。ロビン、例のものを!!」


 ルピアナの返事を待たずに、畳み掛けるようにミラは言い放った。ロビンはミラの合図と共に魔法の巾着から北の街の名物一式と美しい宝石をルピアナに献上した。


「これで私達の願いを聞いてもらえないでしょうか!?」


 驚いたルピアナは目を見開いて差し出された品物を見つめた。


「あ、このお饅頭、昔から好きなのよ。あとこのクッキーも。宝石もなかなか素敵ねぇ。」


 ミラとロビンは満足そうに笑うルピアナを見て手応えを感じ親指を立て合った。レオは尻尾を振って事の成り行きを見守っている。


「ところであなた達、友人の証を持っていると聞いたわ。見せてくれないかしら?」


 優しく話しかけてくれるルピアナに、ミラは緊張がほぐれるのを感じた。ブローチをルピアナに手渡すと、それを見るなりニッコリと笑った。


「エメラルダにあげたものね。懐かしいわぁ。彼女は元気にしてた? 貴方達、本にされたりしなかったかしら?」


 ミラはエメラルダの城であった出来事を話すと、ルピアナは大喜びした。


「あの気難しいエメラルダに恋人が!? 今度会いに行ってお祝いを渡さないと。」


 ミラがニコニコして見ていると、ロビンが表情を固くして口を挟んだ。


「ところで、猫になる呪いを解いてもらうことは出来るのでしょうか?」


 ルピアナはロビンを見ると、ニッコリ笑った。


「そうでした。楽しくてつい忘れてしまいましたわ。私はあなた達が来るのを、ずっと待っていたのですよ。」


 ミラは驚いた。それと同時にやはり北の魔女が自分達に呪いを掛けた張本人なのだと確信した。でも、優しそうな魔女のルピアナが何故そんなことをしたのか全く分からなかった。


「南の国の魔女『マール』の娘のミラ。」


 ミラは目を見開いて耳を疑った。

 やはりミラの母親は魔女だった。




 それも、南の国の魔女だったのだ!




「それからロビン王子。あなた達の呪いを解いてあげましょう。ただし、条件があります。」


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