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3.旅のはじまり


 ロビンが外に出ると、逃げる子豹をミラが捕まえようと必死になって追いかけていた。ロビンの前まで走って来たので足で通せんぼをすると子豹が止まった。その背後にミラがゆっくり近づき、やっと捕まえる事ができた。


「ロビンのお陰で捕まえられたわ。ありがとう。この子、ふわふわで可愛い!」


 子豹は可愛いと言われ機嫌を良くしたのか、ミラの頬に頭を擦り付けた。


「さぁ、私達を案内して頂戴・・・レオ!」

「名前を付けたのか? コンパスに??」

「だって可愛いんだもの。それにその方が呼びやすいでしょ。」


 レオは青いサファイアのような瞳でミラの顔を見つめた。それから神経を研ぎ澄ませて進むべき方角をキャッチした。そのままミラの腕から抜け出して平原を歩き始める。


「どこに向かってるのかしら?」

「・・・西だな。このまま進むと中央の国に着く。そのまま北上して魔女の城まで行くつもりなんだろ。」


 つまらなそうに呟くロビンの横で、ミラは目を輝かせていた。


「私ほとんど街を出た事がないから、他の国に行ったことってあんまりないの。なんだか楽しみだわ! 早く行ってみたい!」


 ミラは元気一杯に歩き始めたが、1時間ほど歩くと疲れて立ち止まってしまった。今まで薬を作ってばかりいたから体力が無かったのだ。


「疲れた。もう歩けない。お腹も空いてきちゃった・・・。」

「これ食えよ。」


 ロビンはミラにジャーキーを渡した。受け取るとガジガジ食べながら、また歩き始めた。

 しかし30分ほどすると再び足を止めた。


「ふぅ・・・休憩しない?」

「あぁ!? お腹空いたの次は休憩しないだと? まだ全然歩いてないんだぞ。これじゃ次の街に着くのにひと月はかかる。もっと歩いてから休むぞ。」

「でも、もう疲れたのよ。仕方ないじゃない。」


 ミラは広大な平原の真ん中にストンと腰を下ろした。ロビンは大きなため息をつくと、「ちょっと待ってろ」と言ってどこかに消えてしまった。ミラがレオと遊ぶのに飽きた頃に、小型の動物を手にして戻って来た。捌き終わる頃には日が暮れて辺りがオレンジ色に染まり始めていた。

 ロビンは手際良く焚き火を起こし、先ほどの動物の肉を焼き、美味しそうな焦げ目がつくとミラに渡した。


「ありがとう。わぁ、美味しそうじゃない!」


 レオにも分けようとしたが、レオは匂いを嗅ぐだけで口はつけなかった。水も飲もうともしない。


「変ねぇ。具合でも悪いのかしら?」

「もともとコンパスなんだから何も食べなくて平気なんだろ。」

「それもそうね。ねぇ、ロビンのおじぃ様もレオを呼び出したりしてたの?」

「見た事ない。俺たちはあてのない旅をしてたから。」

「家はないの?」

「ない。ずっとテント生活だ。たまに宿に泊まったりするけどな。お前は父親とずっとあの家で暮らしてたのか?」

「うん。私はお父さんの手伝いをしながら薬を売ってたの。だから旅なんて想像がつかないわ。今までどんな所に行ったの?」


 ミラは肉を頬張りながら尋ねた。


「中央の国だって行ったし、西の国にも行ったことがある。」

「行ってみたいなぁ。ねぇ、中央の国はどんな感じなの?」

「そうだな・・・大きな街が多いけど、首都のエルドラドは黄金の魔女が住んでる金でできた城がある。街のどこからでも見えるんだ。あとは騎士団の養成学校と魔法学校もある。食い物もうまい。」

「金のお城かぁ。見てみたいわ! それに美味しい物も食べたい!」


 ミラが喜んで相槌を打つと、ロビンは上機嫌になったのか、旅で見つけた面白い物や珍しい物の話をし始めた。ミラはロビンの話を聞きながら、ふと気づいた。


「そんなに旅してたなら、なんで北の国に行かなかったの?」

「行ったぞ。そのまま呪いを解いて貰おうと思ったけど、魔女の城に行く途中にドラゴンの住む山を越えなきゃいけないんだ。あそこのドラゴンは魔女の手下で、人間を追い返すって噂があるから諦めた。」

「えぇ〜!? 私達通り抜けられるかしら。」

「駄目でも行くしかないだろ。」

「そりゃそうだけど・・・。まぁ、まだ先の事だし、考えてもしょうがないか。」


 食べ終わると2人は片付けを始めた。ミラも手伝いながら空を見上げた。濃い群青が広がり始めており、一番星が見えた。冷たくなった夜風がひゅうっと吹くと、ミラの赤い長い髪を揺らした。


(綺麗だなぁ。)


 片付けをしながら時々空を見上げては、その美しさにため息をついた。ミラの茶色い瞳の中に、細かくて小さな星がいくつも輝き始めていた。


「そろそろ風が冷たくなってきたから、テントに戻れよ。」

「いいの? ありがとう。」


 殆ど片付けも終わっていたためテントに戻ると、レオが丸くなって寝ていた。

 周りを見回すとロビンの背負っていた荷物の横に、丸めてある毛布を見つけた。広げると端にはボタンがついていて、留めると寝袋になった。

 寝袋を2枚敷き、レオをそっと抱き上げて片方に潜り込んだ。


(ふふっ。なんだか楽しい。)


 もしロビンの申し出を断っていたら、ミラは今日も薬を売り、夜は自分の部屋の天井を眺めて寝ていただろう。そう思うと口の端が綻んだ。


 ミラがじっとしていると、ロビンがテントに入ってきた。ロビンも寝袋に入り、そのまま寝てしまった。


(そっか、これからは寝る時もロビンが隣に居るんだ。なんだか緊張するなぁ。)


 ミラは疲労を感じていたが、寝付けないまま午前0時を迎えてしまった。体が光り、猫の姿に変わる。


(うーん、困った。眠れないわ。)


 寝袋から抜け出してロビンの方を見ると、茶トラの猫に変わっていた。


(本当にあの茶トラなのね。私の憧れの茶トラ王子・・・)


 その瞬間、ロビンが猫ババしたことや泥棒した事を思い出し、理想の茶トラ王子像はガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。ミラは首をふるふると振り、ため息をついた。


(暇だわ。暇すぎる。外に出たいけど、1人だと怖いしなぁ。)


 顔を上げると、いつの間に起きていたのか茶トラがミラの方を見ていた。目が合うとクルッと後ろを向き、そのままテントの外に出ていった。


(どこに行くのかしら?)


 ミラは後をついて行くか迷ったが、好奇心が勝ちテントの外に出ることにした。


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