29.噛み合わない
ロビンとミラは猫になる前にテントに戻ることができた。2人とも着替えをしたが、くしゃみをすると悪寒がした。レオが心配そうに2人の間を行ったり来たりしている。
「風邪を引いたかもな・・・めちゃくちゃ寒い。」
「私もよ。ゾクゾクする。そういえば、前に作った風邪薬があるから飲む? 解熱剤もあるわよ。」
「あのクソ苦い薬、また作ったのか・・・」
ロビンが味を思い出してげんなりしていると、ミラが薬包と水を2人分用意した。
「作った人を前にして、よくそんな文句が言えるわね。さぁ、早く飲んで。」
ミラが薬包をロビンに手渡すと、意を決してロビンが薬を口に含んで水を飲んだ。
「うぉぇぇぇぇぇぇ〜・・・クッッッソ苦っっ!!」
「もうっ! 大袈裟なんだから・・・」
ミラは不愉快そうに呟くと、自分も薬を含んで水を飲んだ。
「うううううぅっっっっ!!!!!!」
ミラはあまりの苦さに悪態すらつく事ができなかった。ロビンがその姿を見て「だから言っただろ」と勝ち誇ったように笑うと、ミラは殺気を放って睨みつけた。しかし、本当の本当に苦かった。
薬の苦味のダメージでミラはふらついたが、なんとかレオを抱くと、ゆっくりと寝袋に入った。ロビンは咳をしながらもう一方の寝袋に入り、そのまま2人は眠ってしまった。
翌朝は晴天だった。夜が冷やした空気を、温かい日差しが時間を掛けてあたため始めていた。
ミラとロビンは咳をしながらテントから出てくると、朝食を済ませて薬を飲み、テントを畳んだ。
山頂まで登ると昨夜の湖の水面に陽の光が照らされ、その輝きは旅人達の疲れを癒していた。
ロビンは湖をじろーっと睨みながら、珍しく自分から休憩しようとミラに持ち掛けた。
「だるい。」
「そんなに? ロビンがそんな事言うなんて珍しいわね。大丈夫?」
「熱がある気がする。」
「困ったわね。調子が悪い中、結構歩いたせいかしら。私は熱がある感じはしないんだけどな。」
少し下ったところに東屋があり、そこでロビンのために解熱剤を用意して飲ませた。ベンチに座り、低く呻きながら薬を流し込んだロビンは、余程疲れていたのか座ったまま寝ようとしている。
ミラがその様子を見ていると、コックリコックリしては時々起きており、眠りにくそうだった。
東屋を使っているのはミラ達だけだったため、ミラはロビンをつつくと、恥ずかしそうに伝えた。
「ベンチに横になって休んだら? ・・・よければ、膝枕してあげるわよ。」
「あぁ!!!?」
ロビンは眠い目をこすりながら、酷い頭痛がするのが原因でおかしな事を聞いたのだと思った。あの怒りっぽいミラが自分に対して優しい言葉を掛けるはずがないので、これは幻覚だとすぐに悟った。
だが、しばらくミラの顔を眺めると、朦朧とする意識の中、幻覚に甘えてみようと思った。
「じゃあ頼む。」
そう言うと、ロビンは横になってミラの膝に頭を乗せた。そのまま、ずーっとミラの顔を見ているのに気づき、ミラが恥ずかしそうに口を開いた。
「なによ?」
「お前・・・」
ミラは慣れない事をして緊張していた。
ロビンが膝枕について何か言うのかと思って身構えた。
「下から見ると、少し二重顎になってるな。」
「・・・は?」
容赦なくロビンの頭を殴ると、力づくで眠らせる事に成功した。
1時間程経った頃だろうか。ミラがロビンの額を触ると、熱が引いている気がした。そろそろ起こして様子を見ようと思い、ロビンの肩を揺さぶった。
「んっ? なんだ?」
ビクッとして体を起こすと、心配そうな顔をしたミラと目が合った。
「具合はどう?」
「さっきより良い。ミラの薬はやっぱりすごいな。」
そう言うと、ロビンは立ち上がった。ベンチの足元で丸くなって寝ていたレオも目を覚ました。
下山を始めると、ロビンはミラに先程見た幻覚の話をしていた。
「俺もおかしいよな。お前が俺に膝枕するなんて、あり得ないのにな。なんであんな幻覚を見たんだろう。」
「あ、あぁ・・・そうなの。」
ミラはロビンが幻覚を見たと言っているのを聞くと恥ずかしくて、本当の事は言えないと思った。
「でも良かったじゃない。少し休んだら元気になったんだし。」
「まぁな。でもな、幻覚にしては妙にリアルだったんだよ。普通、膝枕って柔らかくて寝心地が良いと思うだろ。それが固いし全然良くなくてさ・・・それにお前の顎が二重顎になっ」
ミラはロビンの胸を思い切り突き飛ばした! ロビンはバランスを崩して崖から落ちそうになったが、なんとか堪えた。
「危ねぇな!! 俺を殺す気か!!?」
「うっさいわねぇ!!! 黙って歩きなさいよ! 私があんたに膝を貸す訳ないでしょ! いつまでそんな妄想話してるのよ! 馬鹿じゃないの!?」
ミラがぷりぷりしながら先を歩き、レオを追い越した。レオは後ろを振り返り、ロビンを気遣わしげに見ていた。
今度はミラが口を開いた。
「そういえば、私もね、寝ている時に不思議な夢を見たの。ロビンが前に会った僧侶の女の人と結婚したから旅をやめたり、かと思ったら茶トラが私にキスしてくれたり・・・変な夢だったなぁ。」
ロビンは驚いて話を聞いていた。
「俺が結婚? あり得ないな。俺がそんなことする訳ない。それにお前の嫌いな茶トラとキスなんて、嫌だっただろ。」
「え? なんで?? 茶トラは好きよ。」
「お前、俺が好きなのか?」
ロビンが目を見開いて尋ねると、ミラは大笑いした。
「だから茶トラとロビンは別だって!」
「同じだよ。」
「だって茶トラは猫だもん。人間じゃないし。」
「お前なぁ。茶トラは俺だって分かってるのに、なんで完璧にただの猫扱いするんだよ。」
いまいましげに言いうと、ロビンは小さく呟いた。
「茶トラがキスしたって思い込んでる方が、お前のためなんだろうな。」
ミラには聞こえなかったが、レオの耳にロビンの声が届いた。気の毒に思ったレオがロビンを励ますために足元に行き、じゃれついた。
「危ねぇな、レオ。山を降りたら遊んでやるから、今は我慢しろ。」
レオの気遣いはロビンには届かなかった。
尻尾を下げてレオは悲しそうにロビンの後ろを歩いた。
そんな事をしながら2人と1匹は翌日には無事下山をし、麓にある街に辿り着いたのだった。




