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21.ある村


 村の中には騎士や魔法使い、魔女が多く居た。橋が壊れているせいで足止めされた旅人達がこの村に滞在しているようだったが、どうも様子がおかしい。


「背の高い水色の髪の魔女を見ませんでしたか?」

「失礼、レディ。君と同じくらいの背格好の女の子を探してるんだが、ここに来る途中見かけなかったかな?」

「うちの剣士が行方不明なの。赤髪の、顔に傷がついてる大男を見なかった?」


 村に入っただけで3人に声を掛けられ、ミラとロビンは顔をしかめた。


「この村おかしくない?」

「3人とも人攫いにでもあったみたいだな。」


 2人は村に漂う妙な雰囲気に居心地の悪さを感じつつも、宿に行き部屋を取ることにした。しかし、満室で泊まる事が出来なかった。

 ミラは大きなため息をつくと宿から出た。


「今日は野宿かぁ。ベッドで休みたかったなぁ。」

「仕方ないだろ。でもここの村人達はウハウハしてるだろうな。宿屋も儲かるし、飲食店も客でいっぱいだろ。」

「そうかもね。でも、どんなに混雑してても美味しい夕食が食べたいわ! ロビン、この辺りで有名な美味しい食べ物は何?」

「肉が入ってる油で揚げたパン。」

「それご飯じゃなくて、おやつじゃない! でもお腹が空いちゃったし、混み始める前に買いに行きましょ!」


 ミラはパン屋を探してキョロキョロしながら走り始めた。


(あいつ危ないな。)


 ロビンはミラを呆れて見ながらレオと歩いた。その様子を草の陰から何者かが覗いていた。



* * *

 


「おいし〜い! 油で揚げたものって最高! 旅に出て良かった!」


 外は暗くなり始め、ミラとロビンは近くの森にテントを設置すると、適当に買った夕飯を食べた。夜になり寝袋に入ると、ロビンがミラに話しかけた。


「ミラ、村の広場の看板を見たか? あの村の近くに妖精が住んでるって伝説があるらしいぜ。」

「妖精?」


 ミラは胸がときめいた。妖精といえば、手のひらに乗るくらいの小さな女の子の姿をしていて、4枚の羽がついているイメージだ。さぞ可愛らしいに違いない。


「本当にいるなら会ってみたいわ。」

「じぃから聞いた話だと、凄く臆病で人間を見たらすぐに姿を消すらしい。だから猫になってから探しに行ってみないか?」


 ミラの目が輝いて即答した。


「行く! 一度でいいから妖精を見てみたいと思ってたのよね!」

「じゃあ決まりだな。今のうちに少し眠っておけよ。」


 ロビンの言う通りにミラは眠ろうとした。ふわふわのレオを抱いてじっとしていると、いつもならすぐに眠くなるはずなのだが・・・楽しみにしているせいか、なかなか眠れなかった。結局一睡もせずに猫に変わってしまった。


 茶トラ猫になったロビンが寝袋から出ると、赤毛猫になったミラの目を見た。ミラが頷くのを確認すると、茶トラはテントから出た。


 淡く光る満月が夜空をほんのりと照らしている。月明かりのせいで星はそれほどよく見えない。その下には霧の掛かった暗い森が広がっており、2匹は村の裏手から森に近づいて行った。


(この森のどこかに妖精がいるのかな。)


 ミラはわくわくしながら茶トラと森に入り、奥に進んでいく。夜の空気は湿っており、息を吸う度に肺の中まで湿った空気で満たされる。昼間とは違う暗い森の姿に恐怖を覚えたが、月明かりのお陰で少しだけ道が見えるのが救いだった。と言っても、猫目なので人間の時よりも夜道は見えやすいのだが。時折りミラの方を振り向く茶トラの目が光っていて、ミラは飛び上がって驚いた。


 どんどん奥に進むにつれて、ミラは帰りたくなった。だが言葉を話せないので茶トラに伝える術がない。そう考えている間にも、茶トラは奥へ奥へと進んでしまう。ミラははぐれないように必死で茶トラの後を追いかけた。


 すると、突然月明かりの差すひらけた空間に出て、茶トラが立ち止まった。

 そこには物置であろう木造の小屋と、4,5本程の切り株、そして夜行虫のように淡く光る何かが幾つも飛び交っているのが見えた。どこからかヒソヒソと話し声が聞こえる。


「今日もいろんな人間がいたね。」

「私、あの大きな剣を持った人がいいなぁ。」

「赤毛の女の子も可愛かったよね。」

「次はどの人間がいいかしら。」


 茶トラの隣にミラが並んで座り、目を凝らしてよく見てみると・・・光っているのは、手の平ほどの大きさの可愛らしい女の子達だった。噂通り4枚の羽を羽ばたかせて、淡く光り空を飛んでいる。


(すっごぉ〜〜い!! 本物の妖精だ!!)


 ミラは目をキラキラさせて妖精を凝視した。すると視線に気付いたのか妖精達がミラのいる方を見た!


「きゃっ! ・・・なぁーんだ、猫かぁ。人間かと思った!」


 妖精達は猫だと分かると警戒を解き、それからヒソヒソ話を再開した。

 ミラと茶トラは目を見合わせると、妖精達をよく観察しようと広場の中に足を踏み入れた。


「レナがまだ戻らないね。人間に見つかっちゃったかな。」

「まさか。赤毛の女の子を気に入ったから観察するって言ってたわ。村長から私達の話を聞けば、明日にでもここに来るわよ。」

「ふふっ、楽しみ。またコレクションが増えるね。」


 切り株に座り妖精を観察していたミラの心臓が、どきりとした。


(赤毛の女の子って・・・まさか、私じゃないわよね。それに、コレクションって・・・?)


 ミラの心臓がドクンドクンと大きな音を立てていると・・・


「ニャァァァァァァ!!!!」


 茶トラの叫び声がした! ミラが慌てて声の方へ走ると、その先には毛を逆立てた茶トラがいた。そしてその目線の先には・・・何人もの人間が横たわっていた。


(なにこれ!? なんで人がたくさん寝ているの!?)


 ミラも「ミァアアァァ」と悲鳴をあげた時には周りに妖精達が集まっていた。


「大声を出しちゃダメ! 人間達が起きちゃうじゃない!」


 妖精が怒鳴っている。どうやら妖精がここに人間を集めて眠らせているらしい。だがなぜそんな事をしているのだろうか。

 すると後ろからまた妖精の声がした。


「大変よー!! その猫、ただの猫じゃないわ!」


 ミラと茶トラが飛び上がった!


「その猫は人間よ!! みんな、捕まえてー!!」


 2匹が全力で逃げ出そうとすると、すかさず妖精達が2匹の上を飛び回り始めた。目の前にキラキラしたものが見えたと思った瞬間、いきなり瞼が重くなり、いい気持ちになってきた。2匹はそのままその場に崩れ落ち、眠ってしまった。


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