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17.優しい魔女


 僧侶と別れた後、ミラとロビンはレオを頼りに北東に向かって進んでいた。

 水溜まりを避けて歩きながら、ミラはロビンの顔を見た。


「ねぇ、さっきの僧侶の女の人、綺麗だったね。」

「そうだな。」

「もしかしてロビンに気があったんじゃないかしら?」

「?」


 ロビンは適当に相槌を打っていたが、そうとは気づかずミラは話を続けた。


「ロビンも珍しく優しかったし、2人はお似合いだったんじゃないかしら。」

「・・・お前、めんどくさいな。」

「なにがよ!? それより、さっき何を貰ったの?」


 暇なので興味本位でミラが尋ねると、ロビンは指輪をミラに渡した。


「エルドラド正教会の指輪だよ。さっきの女は正教会の僧侶だ。祈祷に来た時に信者に渡したり乞食に渡したりしてる指輪が余ったから俺にくれたんだろ。こんなの売っても大した金にならない。欲しいならお前にやるよ。」

「ふ〜ん。そうなんだ。」


 ミラは指輪をつまむと、細かい彫刻の施されている銀色の指輪をしげしげと見つめた。


 そのあと、降ったり止んだりする雨に行く手を阻まれながら4日間歩き続け、5日目の昼頃のこと。ロビンとミラは崖の上にある古城を見つけた。


「あそこにお城があるわ。」

「周りに何も無いのに、誰がこんな所に住んでるんだ?」

「エルドラドの金色のお城を見た時、もしお城に入れたらいいなぁって思ってたのよね。泊まる所もないし、少しの間だけお城で休ませて貰えないかなぁ。」

「城か・・・」

「ロビン、まさか何か盗むつもりじゃないわよね?」


 ロビンが顔を真っ赤にした。


「そんな訳ないだろ! ほら、行こうぜ。」


 ミラが「怪しい」とロビンを睨むと、ポタッと鼻に何かあたった。雨粒だった。一気に雨足が強くなる。ミラは城に向かって走るレオとロビンの後を追った。




「こんにちはー。誰かいませんか?」


 ミラが城の大きな戸を開いて中に声を掛けたが、返事はなかった。城内は暗い。灯りがついていなかった。


「普通は召使いとか誰かいるだろ。変な城だな。」


 少し考えた後、ロビンがポツリと言った。


「もしかしたら、もう誰も住んでないのかもな。外壁に蔦が生えててボロいし。」

「ボロいとは失礼な。貴様ら、人の城に勝手に入って来るとは・・・一体何者だ?」

「!?」


 城のホールに女性の声が響いた。ミラは焦って返事をした。


「あの、勝手に入ってすみません! 私達旅をしているんですが、少しの間だけ休ませて頂けませんか?」


 しばらく沈黙が続いたと思ったら、ホールの2階部分から女性が姿を表した。紫色の長い髪を三つ編みにしており、黒いドレスを着ている。女性はゆっくり瞬きをして、ミラとロビン、そしてレオを見つめた。


「久々に人に会うんだ。歓迎しよう。」


 女性はそう言うと片手を振った。するとミラ達の入ってきた扉がひとりでに閉まり、壁に備え付けられていた燭台全てに火が灯った。女性は魔女だった。


「あ、ありがとうございます。」


 ミラは驚きながら濡れた頭や服をタオルで拭き、レオの湿った体もゴシゴシと拭きあげた。

ロビンはじっくりと城の中を見ている。


「こっちへ来るんだ。」


 魔女は階段を降りると、そのまま向かいの扉を魔法で開けて入って行った。

 ミラ達も後ろに続いて歩くと、廊下を渡った。壁には飾り棚があり、所々に本が立て掛けられている。「のっぽの料理人」「お菓子の好きな魔女」「小太りの王様」様々な本が飾られていた。


 廊下の突き当たりの扉がひとりでに開くと、中には長いテーブルとたくさんの椅子が並んでいた。床には豪華な絨毯が敷かれ、壁の煉瓦の色と良く合っている。


「今、調理器具達に料理を作らせている。君達は好きな所に掛けて待っていてくれ。」


 魔女に言われ、2人は椅子に座った。魔女も近くの席に座ると口角を上げて話し始めた。


「時々人が訪ねてきては、今みたいに雨宿りさせてくれと言われるんだ。この間は料理人が来て、お礼にと私のために料理を作ってくれてな。」


 親切な魔女なのだとミラは思った。ニコニコしながら話を聞いていると、魔女の目がほんのり赤くなっている事に気づいた。


「でも私の大嫌いな人参を料理に入れてしまってな。ついつい怒ってしまったら・・・いつものようになっていた。」

「いつものように、ですか?」

「そうだ。」


 ミラは何のことだろうと思ったが、魔女は話を続けた。


「その前には、友人の魔女が来てな。私はエルドラドの魔法学校の出身で、旧友が久々に来て嬉しかった。だが、あいつときたらお菓子が大好きで、私が大事にしていたアイスボックスクッキーまで食べてしまったから、ついつい怒ってしまって・・・またいつものようにやってしまった。」

「いつものように・・・」


 ミラが首を傾げていると、座っていたロビンが立ち上がり、書棚に陳列されている本を眺め始めた。レオもその後をついて行く。


「さらにその前には、どこかの国の王が来てな。私を見下したように話すものだから、いつものように変えてやったんだ。」

「いつものように・・・変える?」


 ミラがいつものように何をしているのかと聞こうとした時、突然魔女が目を見開いて椅子から立ち上がった!


「貴様!! それに触るな!!!」


 ミラが魔女の視線の先を見ようとした瞬間、魔女の手から光線が飛び出て本を開こうとしていたロビンに直撃した。



 すると、ロビンの姿は消えてしまった。



「ロビン!?」



 驚いたミラがロビンのいたあたりに行くと、大量の本が乱雑に散らばり山のようになっていた。



「これは一体・・・!?」



 ミラが震えながら本の山を見ていると、後ろから魔女の声がした。



「ついついまたやってしまった。いけない癖だな。直さないといけないが、なかなかやめられない。」



 魔女は笑いながらミラに席に戻るように言った。ロビンがどこに消えたのか不安に思い戸惑ったが、魔女の言う事に素直に従った。


(この魔女がロビンを消しちゃったに違いないわ。)


 恐怖と震えのため、ぎこちない動きで席に着くが、魔女はそれに気がついていないのか流暢に話し始めた。


「お前の連れを本に変えてしまった。すまない。でも私は本が好きなんだ。許してくれ。」


 ミラは驚いて魔女の顔を見た。魔女は笑いながら話を続けた。


「私はエメラルダ。かつては北の国の魔女になれとよく言われたが、私には一つ問題があってルピアナにその座を譲ったんだ。というのも、私はどうにも感情が落ち着かなくて困っていてな。少しでも変化があると駄目なんだ。今みたいに人を本に変えてしまう。だが心配するな。何もしなければ、君を歓迎するよ。勿論、君の魔法のコンパスもね。」


 エメラルダはレオの正体を見抜いていた。

 ミラは膝の上に置いている拳をぎゅっと握りしめた。そしてどうにか足が震えるのを止めようと、必死に心の中で自分を励ましていた。足元には、いつの間にか来ていたレオが不安そうにぴったりとくっついていた。


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