12.ひと休み
ミラとロビンは宿の支払いを済ませる時にエリーとイワンに魔女に呪いを解いてもらった事を伝えた。
「ロビンさんがお元気になって良かったです。」
「ありがとう! 2人ともお幸せにね!」
幸せそうに手を取り合っているエリーとイワンはにっこり笑うと手を振った。宿を出たミラは甘いため息をついた。
「いいなぁ。お互いを想い合ってるし、幸せそうだし・・・私にもいつか運命の人が現れないかなぁ。」
「もっと現実を見ろよ。夜中に猫になるんだぜ、お前。呪われてるのを知ったらみんな逃げ出すだろ。」
「なんですって!!」
ミラはロビンを睨みつけた。前を歩いていたレオが振り返り、早速喧嘩する2人を呆れて見ていた。
「運命の相手だったら、そんなの気にするはずないわ! ロビンこそ、その性格を直さないと大事な人ができても逃げられちゃうんじゃない? 気遣いできない上に守銭奴とか最悪よ。それこそ運命の相手に呆れられちゃうわよ!」
「残念だったな。俺はずっと1人でいるから関係ない。」
ロビンは自信満々に言った。せっかく命を助けたのに、ふてぶてしい態度を見てミラは腹が立ってきた。
(少しは可哀想と思って同情したけど、ルシウスの呪いなんか放っておけば良かったわ!)
ミラがぷりぷりして怒っていると、ロビンが何かを見つけた。
「ミラ、あれ見ろよ!」
「・・・なによ?」
「あそこの木の枝に青い鳥がいるだろ。」
「うん。小さくてかわいい!」
「あれは稀少な種類の鳥で、売ると高いんだ・・・レオに頼めば捕まえてくれると思うか?」
ミラは頭を抱えた。そうそう、ロビンは見るもの全てをお金に換算して生きてるんだった。そういう奴なのだ。しかし、無欲なロビンを目にしたミラはゾッとするほど違和感を感じたから、ロビンはこれでいいのかもしれないと自分に言い聞かせた。
「さぁね。レオに頼んでみたら?」
返事をするとロビンの姿はなく、既にレオと一緒に青い鳥を捕まえようとしていた。青い鳥の背後に回り隠れていたレオがパクッと鳥を口に入れると、ロビンが大喜びしていた。ミラは笑った。
「ちゃんと売っていいのか確認しなさいよ! また捕まるのはご免だからね!!」
2人と1匹は森の中を歩いていた。ルシウスのいた森とは違い、青い木々の葉の間を気持ちの良い風が吹き抜ける森だった。風がひゅうっと吹く度に、先が5つに分かれた葉がひらひらと舞い落ちる。
「ロビン、そういえば私のペンダントのこと、前に聞きそびれちゃったわよね。」
「そうだったな。」
ロビンはミラの前を歩いていたが、ペンダントと聞くと足を止めてミラを振り返った。
「じぃから聞いたんだけど、そのペンダントは南の国の魔女の宝だ。海の神様の娘の病気を魔女が治した時に、神様から褒美として貰ったものらしい。」
「えぇ!? 南の国の魔女!? 海の神様!? そんなすごいペンダントをどうして私のお母さんが持ってたんだろ??」
「そこまで知るかよ。」
ミラは南の国と聞いて心がざわついた。南の国は数十年前に突然なくなってしまったのだ。今も城の姿は残っているらしいが、廃墟となっており、人間はもう誰も住んでいないと噂されている。
「ミラの親父からは、母親の話は聞いた事ないのか?」
「あるにはあるけど、綺麗で優しい女性だったってお父さんがよく言ってたわよ。でもそれだけ。このペンダントの事を、お父さんは知らなかったのかしら。」
「さぁな。会った時に聞いてみるしかないんじゃないか。」
ミラは首に下げて服の中に隠していたペンダントを取り出した。ミラの手のひらの中で、ペンダントは七色に輝いていた。
(そういえば、アデルさんが私に魔女の才能があるって言ってたっけ。もしかして、お母さんは南の国の有名な魔女だったりして・・・って、そんな訳ないか!)
ミラがペンダントをじっと見つめていると、ぐぅと腹の虫が鳴った。
「腹が減ってきたな。この森なら食べられそうな物がありそうだから、探して来る。」
「待って、私も一緒に探す!」
「へぇ・・・珍しいな。」
ロビンはにやっと笑うと、レオも連れて森の中を歩いた。
森にはキノコが生えており、ミラはたくさん採ると袋に詰めた。ロビンはきのみや果物を幾つか採り、砂地になっている場所を見つけて火を起こした。レオは焚き火の傍で丸くなった。きのこを焼きながら、ミラは焚き火の炎を見つめていた。
「ねぇ、南の国には行ったことある?」
「・・・うん。」
「ロビンはどこへでも旅してるのね。どんな所だった?」
「・・・じぃと俺は南の国の出身だ。住んでたんだ、あの国に。」
ミラはドキッとした。その瞬間、聞いてはいけない事を聞いてしまったかもしれないと思いロビンの横顔を見た。きのこを焼いていて、何を思っているのかは顔を見てもよく分からない。
「俺はあの国が嫌いだ。この話はこれ以上したくないから、もう聞くなよ。」
「わ、分かった。・・・話したくない事を聞いちゃって、ごめんね。」
「いいよ。知らなかったんだし。」
暫く沈黙が続いた。火の爆ぜるパチパチという音と共に、きのこのいい香りがしてきた。
「そろそろ良さそうだな。」
「うん。美味しそう!」
ミラは食事を済ますと、ルシウスの宝の中に変なものがあったのを思い出した。
「ねぇ、ロビン。これルシウスの宝箱に入ってたんだけど、何だと思う?」
ミラは袋から紫色の巾着をつまみ上げた。金色の美しい紐で閉じられた巾着だが、宝石などの飾りはついていない。袋の表面に金色の糸で魔法陣の刺繍が施されていた。
「そっ・・・それは!!! ミラ、ちょっと貸してみろ!」
ロビンの反応を見るに、高価な物には違いないようだ。ミラが素直に渡すと、ロビンは巾着の紐をほどき、袋の中を見た。
「うぉぉぉ!! 間違いない! これめちゃくちゃ高いやつだぞ! やったぜ、大当たりだ!!」
「えっ? そうなの? ねぇロビン、その巾着ってなんなの??」
ロビンはニヤニヤすると、背負っていた荷物の中から寝袋を取り出した。そして小さな巾着の中に入れようとした。
「いやいや・・・さすがにそれは無理でしょ!!?」
ミラが「無理でしょ」と口にした瞬間、寝袋は小さな巾着の中に吸い込まれてしまった。
「えぇ!? 嘘!! どうなってるのそれ!?」
「驚いただろ。この魔法の巾着は、どんな大きな物でもしまえるんだよ。便利だからみんな喉から手が出るほど欲しがるけど、目玉が飛び出るほど高いからすんげー金持ちしか買えないんだ。」
「えええ! 信じられない! まさか、それ売らないわよね?」
「これは使えるから売らねぇよ。これのお陰で、これから手ぶらで歩けるぞ!」
ロビンは口笛を吹きながらどんどん荷物を巾着に入れていった。そして全部しまい終わると自分の懐に巾着を忍ばせた。
「ねぇ、それ私の。」
「うん? あぁ、そうだったな。でも俺の荷物が殆ど入ってるし、ミラはすぐ盗まれたり渡したりするから俺が持ってる。」
「うーん・・・まぁ、それでもいいけど。でもその巾着の持ち主は私だからね!?」
「分かってるよ、大丈夫だって!」
上機嫌に笑うロビンに疑いの眼差しを向けるミラだった。