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10.薬作り


 魔女と連絡を取って村に来るまでに、最低でも3日はかかるとの事だった。


「3日も!? その間にロビンが死んじゃうかもしれないじゃない! もっと早く呼べないんですか!?」

「私もやってはみるが、あまり期待しない方がいい・・・」


 医者が帰ると、ミラはロビンの熱を確かめた。まだ熱は高そうだった。


(私に出来ることはないかしら・・・)


 ミラは考えた末、自分で薬を作る事にした。幸いにも家から携帯用のすり鉢やすりこぎ等の道具を持って来ていた為、材料を調達すれば作る事はできそうだった。


 レオを連れて外に出るとよく言い聞かせた。


「ロビンの熱を下げる薬を作るから、今から言う材料を探してちょうだい。」


 レオは頷くと、村の中に生えてるハーブの場所を次々と見つけ出した。殆どは調達できたが、残り2種類は外に出ないと無いようだった。


(仕方ないわね。夜に村の外を歩くのは怖いけど、レオが一緒だから大丈夫・・・!)


 ミラはレオと暗い平原に出てハーブを探した。レオの後を歩きながら、この数週間ロビンと平原をたくさん歩いた事を思い出した。




「ロビンお腹すいた。」

「またかよ。これ食っとけ!」


「疲れたから休みましょ。」

「そんなんじゃ何処にも辿り着けないぞ!」


 文句を言いながら固いジャーキーをくれたり、立ち止まると一緒に休んでくれたなぁと思い出していた。デリカシーの無い守銭奴だったが、今思うとルシウスのようにミラに意地悪をした事は無かったように思った。むしろ、ミラが勝手にロビンに期待して怒っている事の方が多かったような気さえしてきた。




 ため息をひとつつくと、そういえばペンダントを取り返してくれたお礼をまだしていないと気づいた。


(熱が下がって落ち着いたら、言わないと。)


 レオが足を止めた。レオの青い瞳は背の高い丸い葉のハーブを見つめていた。


「これよ、これ! ありがとう、レオ。」


 ミラは茎ごと切り取ると、残りの一つを探すようにレオに頼んだ。レオは頷くと、また歩き出した。ミラも後に続く。そうやって歩いていると、またロビンの事を思い出した。


(もしこのまま死んじゃったら、私1人で北の魔女を探す事になるのね。それは嫌だわ・・・かといってこのまま夜中に猫になると、気味悪がって誰もお嫁さんに貰ってくれないかもしれないし。)


 ミラは結婚したいという願望があったため、早めに呪いを解かないとマズイと本気で焦っていた。


(猫かぁ・・・正直、時々自分が本当は人間なのか猫なのか分からなくなる時があるのよね。本当は私は猫で、人間に化けてるって可能性だってあるかもしれないし。うーん・・・これを考えるとキリがなくなるのよねぇ。)


 ミラは空を見上げて星を眺めた。


(ロビンも、こんな風に思った事あるのかなぁ。)


 レオが二つ目のハーブを見つけた。鋭い緑の葉を持つ小さな白い花をつけたハーブだった。

ミラはこれを多めに摘み、手に下げていたカゴに入れた。


 ミラとレオが宿に戻る時には、時計の針は10時を指していた。


「レオ、案内お疲れ様。本当に助かったわ。今日はもう休んでいいわよ。」


 ミラがレオのふわふわの頭を撫でると、青い瞳をゆっくり瞬きさせて、ミラのベッドに飛び乗ると丸くなった。

 それからミラは大きな欠伸をひとつすると、桶に汲んでいた水にタオルをくぐらせ、程よく絞るとロビンの額に乗せた。


「早く元気になってよ。じゃないとこっちの調子が狂うんだから。」


 ベッドの傍を離れると、テーブルに移動し、蝋燭に火をつけた。それから先ほど採ってきたハーブをすりこぎで擦り始め、薬作りを開始した。集中して数回分の薬を作り終わる頃には、時計の針はあと10分で日付が変わる頃になっていた。薬を紙に包みながら、ミラは心の中でそっと祈った。


(ロビンの熱と呪いが解けますように。)


 ミラはベッドに入る前にもう一度ロビンのタオルを替え、それから自分のベッドに入ると眠るレオを抱きしめて目を閉じた。


 体に違和感を覚えると、猫になっていた。レオはコンパスに戻っていて、冷たい青いコンパスがミラの腕の中に残った。


 翌朝目が覚めると、ロビンの熱はやはりまだ下がっていなかった。ミラがタオルを替えていると、ロビンの目が覚めた。


「なにしてるんだ?」

「あ、起こしちゃった? おはよう、ロビン。具合はどう?」

「気分が悪いだけだ。」

「そう・・・」


 ミラは何か食べるか尋ねたが、断られてしまった。仕方なく、昨夜作った薬を飲んで欲しいと頼んだ。


「ロビンの右手首の黒い模様は、ルシウスのかけた呪いなんだって。詳しい事はまだ分からなくて、魔女を呼んで診てもらう事になってるの。それまでの間だけ、私の作った薬を飲まない? 一応店でも作ってたから品質は保証するし、結構評判だったのよ。」

「・・・知ってる。前にじぃが調子悪い時に飲ませて、びっくりするぐらい効いた。」


 ミラは驚いた。初めて聞く話だった。まさかロビンのじぃが自分の作った薬を飲んでいたとは思ってもみなかったので、感動した。ミラの喜んでいる姿をロビンはじっと見つめていた。


「そうだったんだ! 早く言ってくれれば良かったのに。頑張って作ったんだから、一粒も残さず飲んでよ!」

「・・・」


 ロビンの衰弱は思っていたよりも酷かった。顔色も悪く、体を起こせるかは分からなかった。そこでミラが肩を支えながら、ロビンはどうにか自分の力で薬を飲んだ。


「うぐっ!!! くっそ苦い・・・!!!!」

「がんばって!! 急いで水で流し込んで!!」


 ロビンはごくごくと水を飲むと、更にのたうち回った。ミラの作った薬は水に溶けて更に苦味を増していた。


「うぇぇぇぇぇ!!! 本当にクソ苦い!!!」

「よく頑張ったわね。ほら、もう休んで。きっと薬が効いて楽になるから。」

「・・・本当かよ。」

「多分ね。」


 ロビンはシーツを被ると笑顔のミラをじーっと睨んだ。そのままいつの間にか寝てしまった。長い時間眠ったロビンは、次に目が覚めると気分が少しだけ良くなっていた。相変わらず熱は出ていた為、昼と夜も続けて薬を飲んだ。毎回その苦さにのたうち回ったが、体調は少しずつ良くなり、高かった熱は下がり汗も引いた。


「お前のおかげで、だいぶ楽になってきた。気分も最悪だったのに、やっとまともになってきた気がする・・・」

「そう。良かった! 私ったらお医者さまよりも腕が良いのかしら!」


 ミラが冗談を言いながら喜んでいると、ロビンもほんの少し笑う事ができた。ミラは突然「あっ」と声を上げると、ロビンの方に向き直った。


「あのさ、ロビン・・・命懸けでペンダントを取り返してくれて、ありがとう。ロビンのお陰で、お母さんの形見を取り返せたわ。」

「・・・礼なんていい。面と向かってそんな事言われると、照れるし。でも、もう二度と誰にも取られるなよ。」

「分かってるわよ。じゃあ、そろそろ遅いし、もう寝ましょう。レオなんか私のベッドでいびきをかいてるわよ。」


 ミラのベッドからレオの大きな寝息が聞こえてくるとロビンは笑い声をあげた。


「なぁ、ミラ。俺ずっと寝てたから、まだ眠くないんだ。もう少し話さないか?」

「えぇ? そうねぇ・・・まだ時間はあるし、少しくらいなら良いわよ。」


 2人はルシウスのナルシスト具合を茶化したり、猫になった時の悩みを話したりした。それからエリーとイワンの結婚式が明後日ある事や、ミラの薬の知識を披露したりもした。

 そんな話をしているうちに、日付が変わって猫になってしまった。

 ミラはロビンのベッドに飛び乗ると、ふわふわの茶トラ猫の額に頭を擦りつけてから、自分のベッドに戻り眠りについた。眠くなるまで、ロビンの具合が良くなるよう心の中で祈り続けた。


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