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ブレススタンド

ここは銀座のブレススタンド。金持ち達が珍しい息を買いに来る。


「はぁ……これが最高級のブレスかい?」


株で大儲けした金持ち老人の田中が、高いスーツに身を包んでやってきた。私は商品説明をした。


「はい、左様でございます、田中様。こちらはエヴェレスト登頂の成功した登山家が、山頂で吐いたブレスとなっております。山に登らなくても、聖なる息が味わえます」


 青い袋を手に取りそれらしく説明をすると、彼は納得したようだった。


「なるほどなあ。それでこっちは?」


「そちらは生まれたての赤子が吐いたブレスを集めたものとなっております。フレッシュな二酸化炭素が味わえます。細胞の若返りに持ってこいですよ」


 私は赤い袋を手に取り説明する。


「生命誕生の瞬間って訳か。素晴らしい! それでこれは?」


「こちらは不慮の事故で若くして亡くなった男性が最期に吐いたブレスとなっております。こちらを吸えば一人生いちじんせい分のパワーが得られますよ」


 紫の袋を手に取ると、宙に投げて見せた。ふわりと浮き上がる。


「ほら浮き上がったでしょう? これが魂の証です。若くして亡くなっていますから、まだまだエネルギーがある。寿命を1.5倍は延ばせるでしょう」


 彼は瞳を輝かせていた。


「有難い魂だなあ。青と紫の袋を貰おう。いくらになるかな?」


「150万円となります」


「そんなにするのか?」


「はい。珍しいブレスは世界中こちらでしか買えませんからね! 人の感情が高ぶる瞬間のブレスは凄く貴重ですから、必然的に値が上がるんですよ」


私は営業スマイルを貫く。


「これで寿命が延びるなら安いもんだ! はい、これで頼むよ」


 彼は札束を差し出した。


「ありがとうございます! またお願い致します!」




透明で無味無臭の気体なんて、何が入っているかわかりっこない。こんなのはただ部屋の空気を閉じ込めただけのものだ。これを150万で買うだなんてなんて馬鹿な奴らなんだ。有名大学を卒業してすぐ起業したが、うまくいってよかった。こんなものに騙される奴らが、まさかいるだなんて。


 彼はブレスにはまったようで、その後も店のほとんどのブレスを買い漁った。




「すみません」


ある朝、一人の婦人がやってきた。


「今度、ブレスを売りたいんですけど」


 買い取り希望者は初めてだった。


「すみません、うちは買い取りはやっていないんです」


 人が吐いた息を買い取って欲しいだなんてどうかしている。


「そこをなんとかお願いできませんか? 老人が殺され息絶えた瞬間吐いたブレスなんです。人の感情が高ぶるときのブレスは貴重だから、値が上がるんですよね? 明日には出来上がるんですが」


 何を言っているんだこの女は。


「ですから買い取りはやってないんですが」




翌日、ブレスを売りに来たのは田中だった。


「昨日採りたてのブレスを持ってきたから、譲ろうと思って持ってきたよ」


「田中様、またのご来店ありがとうございます。どんなブレスでしょう?」


「年老いた女が、殺され息絶えた瞬間に吐いたブレスなんだ。沢山取れたからおすそわけさ」


 昨日やってきた婦人がふっと頭によぎる。


「でも駄目だ、やっぱり若く賢い人間じゃないと力がみなぎらなくてなあ」


 彼は私の首を絞める。


「た、田中様!?」


「お前が死ぬときのブレスはどんなだ? 吸わせてくれ」



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