君は幽霊が見える?
投げかけられた先輩からの質問。
「君は幽霊が見える?」
急な質問になんて返せばいいか戸惑う。
僕の答えを聞くこともなく先輩が続ける。
「見えるなんて言い方したらまるでそれが能力のようだね。」
先輩が「あちゃー」と言うかのように額に手を当て、ケラケラと楽しそうに笑う。
「?」が浮かぶ。自分が思ったことをそのまま伝える。
「能力ではないんですか?」
「ん?」
彼女の笑いがピタと止まる。
僕はなにか言っちゃいけないことを言っちゃったのではないか、とそんな気持ちになる。
「面白いことを言うね。」
静かにぽつり放たれた言葉にはまるで獲物を見つけたかのような視線を感じた。
「君は、能力とはどういうものを指す言葉だと思う?」
試すような聞き方をされるとドキリとする。
人間日頃からよく親しんだ言葉こそニュアンスで理解している。急にそんなことを聞かれても少し考えてしまう。英単語の意味でも聞かれた方がきっぱり即答できるだろう。
「何かを出来る力とかですか?」
「そうだね。」
「では、宿題を出さないのは宿題を出さない能力だと言うべきなのだろうか?」
「自殺してしまう人を自死する能力と言うのだろうか?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
要点の見えない質問ではあるが、
「言わないです。宿題を出さない人は宿題をする能力がない人だし、自殺をしてしまう人は人生に希望を見つけられない人、生きる能力がない人です。」
「その通りだよ。我々は何かを出来ないことを能力とは言わない。そして、求められているかどうかによって、出来るとするか出来ないとするかが変わる。」
「今の質問に先の話題との繋がりがあまり見えません。」
「できないことを能力とは言わない」
まるで、幽霊が見える人が何かを出来ていないみたいな言い草ではないか。
そして、幽霊を見ない能力があるみたいではないかとそう思った。
「幽霊を見ない力はある。」
僕が考えていることを察したかのようにそう言った。
「は?」
「あるんだったら幽霊やら怪異やらに悩まされている人に教えてあげればいいじゃないですか!それとも見える人は修行なりなんなりしてその力を身につけるってことですか?」
なんでこんなに引き込まれているのか。先輩は結局聞いていないが僕は幽霊が見えないし、見えなくなる方法も別に知る必要はないのに。
彼女の話には吸い込まれていく。
「まるで私だけが知っているみたいな言い方をするじゃないか。」
先輩はにやにやしている。まるで手品の種明かしにでも入ったみたいだ。
「僕はそんなこと知っている人先輩以外に知りませんよ。僕はホラー映画が好きなんです。みんなが知っていたらホラー映画が廃れてしまいます。」
「いいや、幽霊を見ない方法は他でもない君も知っている。知っているというよりはできているになるのかな。というか、世界中ほとんどの人ができている。できない人が多い方がホラー映画は廃れるだろうね。」
もうわけがわからない。
「君は、立ち上がる方法を、歩く方法を、知っているかね?」
「そしてそれを的確に人に教えることはできるかね?」
「立ち上がれるし、歩けるけど教えれるかといわれると。」
「そう、それは私たちにあまりに自然に備え付けられた能力、機能とも言えるね。」
「それと一緒だよ。」
「我々は意識して見えないようにしているわけではない。ゆえに教えることもできない。それほどまでに当たり前に備え付けられたものなんだ、幽霊を見ないっていうのは。」
「幽霊を見える人はどういうイメージだね。困っているだろう。大抵はね。」
「でもそれはホラー映画とかの影響でそうおもっているだけなのでは。もしかしたら見えることを有意義に活用している人もいるのでは?」
「それこそ映画やらなんやらの作品で焼き付けられたイメージだよ。だいたい、幽霊に悩まされている話と仲良くなる話とでは話の母数が全然違うだろうに。」
「たしかに幽霊という存在をしっているうえでそれを好む者もいる。ただあれは特殊性癖みたいなものだ。変態だ。」
「とにかく、あれは見えない方がいいものなんだよ。」
「見えない奴だけが憧れを覚え、スリルに浸りたく心霊スポットだかに行くんだ。そんで見えたり何らかの影響があってから言うんだ。お祓いしなきゃ~とか。気持ち悪い。」
変に生々しく、そして寂しそうであった。彼女は何を知っているのだあろうか。
「見えない方が我々は心の平穏を保っていられる。」
「幽霊が見えないっていうのは自己防衛機能みたいなもんさ。つまり、幽霊が見えるというのは私が思うに自己防衛機能が欠陥している。」
「じゃあ霊能力者は能力者じゃないということですか?」
「彼らはもともと欠陥があったかもしれないが自己防衛の方法を既に知っている。加えて、それを利用して誰かに平穏をもたらしたり、自分で稼げるようになっているだろ。
「あそこまでいけば能力だよ。能力へと昇華させたんだ。」
「背の高いやつはしゃがみかたを知らなければ生きづらい。握力がめちゃくちゃ強いやつもMaxのパワーしか出せないなら不便だ。それは能力じゃない。」
「持つ力を調整出来てはじめて能力になると思うよ、私は。」
空気が、表情が緩む。
「ところで先輩は霊能力者なんですか?」
彼女は何を思ってここまで考えたのだろうか。先輩は霊能力者なのではないだろうか。そう思うのは自然なことだった。
「私は違うよ。」
「じゃあ見えてしまう人?」
見えることが能力じゃないと言われたからには言葉にも気を遣う。
「それとも全く見えない人?」
僕の聞き方が変わったことに気づいたのか、彼女はニヤッと笑う。なにかにつけ彼女はそうなのだ。楽しいことがあるとニヤッと笑う。
「どっちだと思う?」
別に幽霊が見える人に喧嘩を売りたいわけではありません。
見えない人視点での一つの考え方だと思っていただけたら幸いです。