洞察
俺は妹紅に連れられて妖夢の部屋に向かっていた。
「あ、目を覚ましたんだね。」
「はい。で、僕の合否は…」
「合格だよ。私に勝ったのに不合格はないよ。」
「ありがとうございます!」
「あ、妹紅さん。少し席を外してもらえませんか?二人で話したいことがあって…」
「ん?いいぞ。」
そして妹紅は席を外した。
「で、どんな話でしょうか?」
「ふぅ…そんな話し方をしなくていいですよ。雪さん。」
「え?」
「隠しているのはわかりますが、ここでは普通にしていいですよ。」
俺は心の底から驚愕していた。完璧とまでは行かないが隠し通したと思っていた。
「私がいままでどれだけ雪さんの動きを思い出して空想上で戦ったと思っているんですか。すぐわかりましたよ。それにいくら能力で魂を下したとしてもあの強さを急に出せるとは思えないです。なので本当のことを言ってください。雪さんですよね?」
ここで嘘をつくのは難しくない。だが妖夢は雪弥が雪だとほぼ確信している。そこからさらに隠し通すのは難しいだろう。ならここで事情を話した方がいいのかもしれない。
「はあ…まさかバレるとはな。太刀筋は変えたつもりだったんだがな。」
「これでも成長しているんですよ。洞察力なら今の時代ならトップクラスですよ。」
「なるほどな。この調子だとレミリアや美咲先生にはバレるな。」
「そうでしょうね。でもなんで隠すんですか?」
「そりゃ、めんどくさいことが嫌いだからだよ。死んでいた人物が生き返ったその事実だけで世界はいくらでも変貌する。それぐらいあり得ないことなんだよ。」
「なるほど…ではこうしましょう、レミリアさんと靈華さん、美咲先生には話しておきましょう。」
「なんでそこで靈華が出てくるんだ?」
「靈華さんは多分一瞬で気づきますよ。雪さんも靈華さんの能力は知っているでしょう?」
「ああ…あれか…」
靈華の能力はかなり特殊だ。前世の俺の能力《引力と斥力を操る能力》も特殊だったが靈華の能力はそれ以上だ。故に俺がホンモノの雪であることもすぐに見破られるだろう。
「この先どうしたものか…」
「まずは雪さんは藤原雪弥ではなく、魂魄雪と名乗ってもらいます。」
「いきなりだな…なんでだ?」
「その方が私が雪さんのために動きやすいからですよ…〈あと、魂魄雪ってなんか結婚したみたいになりますし…〉」
「ん?最後の方が聞き取れなかったが…」
「大丈夫です。妹紅さんには私の方から言っておきます。そして雪さんは私の右腕ポジションで働いてもらいます。仕事が入ったらそこの携帯で連絡します。」
「ああ」
「それと雪さんは今から靈華さんとレミリアさん、美咲先生のところに挨拶をしに行ってください。後回しにするとめんどくさいことになりそうなので…」
「わかった。それじゃあ行ってくる。」
「はい。」
そして俺はその場を後にした。
・・・
俺が最初に向かったのはレミリアの家だった。レミリアはいわゆるライバル的な奴だった。強さではその頃のままなら今の俺より少し強い程度だ。
「ここがレミリアの家か…デカいし紅いな。」
紅魔館、レミリアの家的な場所だ。かなりデカく、レミリアの趣味なのか紅く染められている。そしてその館の前には門番らしき人物が立っていた・・・
『立っているというより寝てるな。どうしたものか…』
俺は少し考えてから横を通りすぎることにした。そして真横に言った瞬間背筋が凍るような感覚に陥った。俺はすぐさま回避行動をとる。すると強風が吹いた。
「はは、まさか拳だけであそこまで強い強風を出せるとはな…」
能力を使った気配はなかった。つまりその門番は拳だけで強風を起こしたのだ。いくら俺やレミリアでも能力なしの拳では風は起こせても強風とまでは行かないだろう。それほどまでに極められていた。
『俺が死んでから数年で変わりすぎだろ…』
心の中で俺はそうつぶやくのだった。




