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聖凛能力学園  作者: ゆっきー
始まり
19/47

幹部"春"

 午前9時、俺は目を覚ました。久しぶりに家で寝たのでぐっすり寝れた。起きてすぐに俺はキッチンに向かい朝食を作る。そして朝食を食べ終わった後、パジャマから着替えて外に出る。そこから俺は適当に歩き出した。近くの繁華街に行ったときだった。何かから逃げている女性がいた。その女性の後ろにはスライムのような人間5人分サイズの生物が女性を追ってた。女性は途中でつまずいて倒れてしまう。

 「いや!こっちに来ないで!」

女性はそう叫んでいるがスライムのような生物はそんな言葉を無視して襲い掛かる。俺は瞬時に能力を使いスライムのような生物への重力を上げる。だが、その生物は伸びるだけでダメージがなさそうだった。めんどくさいな。俺がそんなことを思ってその生物を観察していると、体内に小さな核のようなものが見えた。俺はその核に能力を使う。するとその核は壊れる。そしてスライムのような生物はドロドロに溶けて消えていった。消えたのを確認した後に倒れていた女性に声をかける。

 「おい、あんた。大丈夫か?」

俺が女性の安否確認をするために近づいた瞬間、女性の気配が変わる。俺は咄嗟に後ろに跳ぶ。その瞬間俺がさっきまでいたところが爆発する。

 「あら、確実にやったと思ったのだけれど、私としたことが少し気配を出してしまったわね。」

女性はこちらを振り向く。最初は遠くで見えなかった顔を俺は確認する。その顔は俺の知っている人物だった。

 「お前か。春。」

その女性は俺の片腕を奪った張本人、春だったのだ。俺はすぐに能力を発動。春をミンチにするつもりで能力を使う。

 「はは、凄いわね。前戦った時より威力が格段に上がっているわね。でも私には効かない。」

春は何ともないかのように立ち上がる。

 「まさかお前の方から来てくれるとはな。この腕のつけ払ってもらうぜ?」

 「たかが腕一本でうるさいわね。いつまでも過去を引きずる男は嫌われるわよ?」

 「あいにく好かれたいとは思ってないんでな。特にお前にはな。」

 「ははは、酷いわね。」

俺は地を蹴り春に近づき蹴りを放つ。だが黒い物体に防がれる。

 「もう!話してる途中でしょ?話してる途中に攻撃なんて礼儀がなってないわよ?」

 「殺し合いに礼儀もくそもないだろ!」

俺はさらに力を加えるが黒い物体は壊れる気配がない。能力も使うが能力も効かない。

 「私の能力は影よ。あなたの重力は効かないわ。」

 「そうかい。そんなこと言ってもいいのか?」

 「ええ、どうせもう終わりだから。」

春がそう言うと俺は後ろからナイフで刺される。後ろには誰もいない。

 「私の能力を使えばナイフを作り出しあなたを攻撃することだって可能なのよ。」

俺は瞬時にナイフを抜き投げ捨てる。そして俺は後ろに下がる。

 「あなたにはここで死んでもらわないといけないのよ!」

春はそう言って俺に攻撃を仕掛けてくる。近くの物は爆発する。ナイフも至る所から飛んでくる。俺はその全てを避ける。そして俺はあることに気づいた。

 「お前の能力、自分以外の生物の影は操れないんだな。」

 「!!」

図星だ。まあ少し考えたらわかるものだ。俺の影が操れるのなら俺はとっくに爆散しててもおかしくない。だがそれが行われない。それは出来ないと言っているようなものだ。

 「私の能力の弱点が分かったからってあなたに何ができるの?あなたの能力は私には効かない!」

 「そう、そこだ。俺はそこがずっと気になっていた。そのことをずっと考えていた。いくら影を操っても重力はかかっているはずなんだ。じゃあ何故効かないのか。そして俺は一つの結論に行きついた。お前がもし影なら?」

 「!!」

春はさっきと同じぐらい驚いていた。

 「その反応が答えとみていいんだろ?」

 「なんで気づいたのかしら?」

 「まず、さっきも言ったがお前に能力が効かなかったからだ。ただ単純にお前の能力を使っただけなら俺の能力を無効化するのは不可能なはずだからな。そこでお前は影なのでは?と思った。次にお前は自分自身の影を操っていないことに気づいた。だがお前自身には影がない。普通なら影を使っているからだろうと思うがお前は未だに自分の影は使ってきていない。ここで確信した。お前が影なら能力が効かなくてもわかるし、影がないのも影の影は出来ないからだと言える。」

 「凄いわね。でもわかったからどうだっていうの?」

 「なあ、影はその物のすべてを映し出しているのだと思っている。だからこそ影が変われば物体自体が変わるのも納得だ。爆発するのもその物の性質が変わったのなら納得がいく。逆に言うならお前の本体の動きにお前は連動しているはずだ。そして影には五感はない。視覚がない以上お前を通して本体が見ることは出来ない。性質を変えるのは物質だけだ。影の性質は変わらない。お前の能力で変えたものは物質が爆発するだけで影が爆発するわけじゃない。なら影であるお前に五感をつけるなんてことは出来ないはずだ。じゃあお前はどうやって動いている?」

俺がそう問うと目の前の春の影は汗をかきだした。そして俺は自分の結論を述べる。

 「俺が思うに、お前本体はここの近くで俺たちのことを見ている。だから影に五感がなくても見えるし、聞こえる。俺の声が聞こえているのは盗聴器などの可能性もあるが視覚はそうもいかない。映像などで見ていると能力を発動する時間に少しだけ誤差ができてくる。だがお前にそれはない。ならお前の本体は近くにいると考えるのが当たり前だと思わないか?」

俺がそう言うと急に目の前の影は消えてしまった。

 「逃げられるとでも?」

俺はそうつぶやくと近くのビルを片っ端から壊していく。春は俺の動きが見えていた。ここはビルに囲まれている。なら俺を見れるのはそのビルだけだ。そして俺はビルを全部壊す。そして一人の女性が姿を現す。

 「まさかこんなことになるとはね。」

その女性は春だった。次は影がある。本物とみていいだろう。そして春は右手と左足が負傷していた。きっと俺がビルを壊したときにギリギリ逃げられずにダメージを負ったのだろう。足を負傷した以上逃げるのは不可能と考えて俺を倒すという賭けに出たのだろう。

 「お前が能力をばらしていなかったらこんなことにはなっていなかっただろうな。油断したのが敗因だ。」

 「あなただって油断しているじゃない。それに私は口が軽いからね。どうしても秘密を隠すのには向いてないのよ。」

 「それなら殺し合いにも向いてねぇよ。」

 「そんなこと私が一番知っているわよ。でもね私にはボスに恩義がある。だからこうしてあなたと戦っているわけ。」

 「そうか…じゃあ、もう死んでくれ。」

 「最後に一つダメかしら?このダメージよ。それに手札は全部切った。1つぐらい話を聞いても損はないんじゃないかしら?」

 「はあ…いいだろう。1つだけだ。」

 「ありがとうね。」

春はそう言うとその場にゆっくりと座った。

 「ねえ、この世界は狂ってると思わない?」

 「狂わせたのはお前らだろ?」

 「私たちが異変が起こす前よ。そこら辺の国も能力者を育成して敵国をつぶそうとしている。戦争だって起きている。狂ってると思わないかしら。」

 「そう言われるとそうだな。きっとこの世界は能力が出てきたせいで狂いだした。だがそれがどうした。」

 「私たちのボスは別の国からこの国を潰すように言われてきたらしいわ。」

 「そんなこと言ってもいいのか?」

 「別にいいわよ。もう私はあなたに殺されるのだから言ったところで変わらないわ。それとも生かしてくれるのかしら?」

 「そんなことはない。お前はここで死ぬ。」

 「はは、ド直球ね。私だってこんなことはしたくなかった。でも私はボスにそれほどに恩義があった。私がまだ能力を使いこなせていなかった時に助けてくれた。命の恩人のようなものよ。そんな人、裏切れないでしょう?だから私はこの運命を辿った。結果がこれなんだけどね。もし、私があなたに救われていたら結末は違ったのかしら?」

 「どうだろうな。だが今よりはマシな結末だったろうな。」

 「そうでしょうね。」

 「なあ、なんで手加減をした?お前の能力なら夜の方が有利だったはずだ。」

夜なら俺ですら本来の能力を使っていただろう。だがこいつは朝から戦いを挑んだのだ。俺はそれがずっと気になっていた。

 「疲れたのよ。人を殺すことに。私の最後は優しい人に殺して欲しかった。そしてわざわざあの失敗作に襲われるふりをしてあなたに近づいた。あの場面であなたが私を見捨てていたら、夜に出直して、あなたを殺していたわ。でもあなたは見ず知らずの女性を助けた。だから私は最期はあなたに殺されたくなったのよ。」

 「じゃあ何故戦ったんだ?」

 「私も組織の幹部、さすがに戦わずに死ぬという選択肢はなかったのよ。それにあなたを信頼していた。私を殺してくれるって。」

 「はあ、どこからその信頼はくるんだかな。それじゃもう殺すぞ。これ以上話すと情が移りそうだ。」

 「はは、じゃあもうちょっと話していたら私は生き延びてたのかしらね?」

 「思ってもいないことを言うな。お前はそんなことしなかっただろ?お前の目的は俺に殺されるためだったんだから。」

 「そうね。ねぇ、私は地獄行きかしら?」

 「そうだろうな。まあ俺もきっと地獄行きだ。その時は楽しくやろうや。」

 「はは、死んだ後の楽しみができたわ。それじゃあまたあの世でね。」

 「ああ」

俺はそう言って春を能力で殺した。一瞬だ。きっと痛みも感じなかっただろう。そして俺は春の顔を見る。どこか幸せそうな顔をしていた。

 「俺は死んだときにそんな幸せそうな顔で死ねるかな?」

俺のその質問に返答する人物はいなかった。

……

 「春からの連絡がない。」

 「死んだのかしらね。」

 「そうかも。」

 「まあ、いいわ。もう少しでこの国は終わる。最強の能力者乱堂美咲がいない今、私たちを止める者はいないわ。さあ準備をしたら作戦開始よ。」

 「うん。」

そしてこの異変はピークを迎えようとしていた。

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