幹部”夏”
俺は適当に歩き回っていた。どこに行ってもやはりクレーターばかり。そしてもう一つ気づいたことは外を誰も歩いていないのだ。まあ外がこんなことになっているんだ。地下シェルターにでも隠れているのだろう。俺がそんなことを考えながら歩いていると、目の前から異様な雰囲気を放つ男が歩いてきた。そして俺はその雰囲気を知っていた。それは春と名乗った女と同じ雰囲気だった。俺はすぐさま戦闘態勢を取った。
「はは、急に戦闘態勢を取るとは。悲しいねぇ。」
「お前の味方に春という女がいるはずだ。そいつが味方ならお前は俺の敵だ。」
「ああ、春が片腕を奪った能力者って君のことかい?それでも僕と戦うつもりなのかい?」
「お前がいると戦況が怪しくなる可能性があるからな。ここで死んでもらう。」
「死んでもらうなんて怖いねぇ。」
男がそう言った瞬間俺は地を蹴り相手に近づき蹴りを放つ。その蹴りを男は軽々受け止める。俺はすぐに能力を使う。すると男は俺の足を離し地面に膝をつく。
「はは、凄い能力だね。これで再覚醒者じゃない。しかも片腕なのに。能力は重力を操る能力かな?」
「さあ、どうだろうな?」
「まあ、どんな能力でも関係ないけどね。」
男がそう言うと男は普通に立ってきた。
「は?なんで立てるんだ?」
「さあ、どうしてでしょう?」
俺は能力を解除していない。なのにこいつは平然と立っている。さっきまで膝をついていたのにだ。
「それがお前の能力か。いったいどんな能力なのかは教えてくれないんだろ?」
「いや、教えてもいいよ?君を殺せば済む話だし。」
「はは、じゃあ教えてもらおうか。」
「まず僕の名前は夏、能力は自分にかかるすべてを無効化する能力ですよ。あなたの能力はもちろん、衝撃やダメージなんかも対象内ですよ。」
「ふん。わざわざありがとうな。」
「あなたは教えてくれないんですか?」
「相手に教えるとでも?」
「まあ、それが普通だよね。」
男がそう言った瞬間俺は地を蹴り男に近づき蹴りを放つ。だがまたもや受け止められる。衝撃なんかを無効化できるなら受け止めるなんて造作もないのだろう。
「これでチェックメイトかな?」
「何を言っているんだ?チェックメイトなのはお前だぜ?」
「何を…ッ!?」
男は急にしゃべらなくなり、その場に倒れこむ。そして男は息絶えた。
「俺とあった時点でお前はチェックが入ってたんだよ。それなのに能力を教えたらこうなるだろうな。」
俺は夏と名乗った男に能力を使ったわけではない。使っても無効化されるからだ。だから俺が能力を使ったのは男にではなく、空気に対して使った。
「まあ、勝てたのは俺の"本来の能力"が強いからだがな。」
俺はそんなことをつぶやいた後にある人に電話をかける。
「はい。妖夢だけど、雪さんですか?何かありましたか?」
「いや、夏って名乗ってた男を殺したんだがこいつについてなんか情報ないかなって思って連絡した。」
俺がそう言うと妖夢は電話越しでもわかるぐらい驚いていた。
「その男性は本当に夏と名乗ったんですか?」
「ああ、間違いない」
「それが本当なら、その男性は今回の異変を起こした組織の幹部ですよ。」
「幹部?」
「はい。敵組織のトップクラスの能力者です。雪さんを倒した春と名乗った女性も幹部の1人ですよ。」
「そうなのか。」
道理でこの男が春のことを知っていたわけだ。同じ幹部なら少しぐらい話してもおかしくないしな。
「凄いですね。幹部はここ二か月で倒すことはおろか殺せてもいません。それぐらいの実力の持ち主の集まりなのにそれを殺せるなんて。」
「ま、こいつが油断していたのもあるだろ。油断してなかったら少しは手こずっていただろうな。」
「それでも手こずる程度なんですね。と、このことはこちらの司令官に伝えてもいいですか?」
「ああ、構わない。死体が欲しかったら鋼駅の前で死体持って待ってるから。」
「ありがとうございます。司令官に報告し終わった向かいますね。」
「ああ、分かった。」
「それじゃあまた後で。」
そう言うと電話は切れた。そして俺は男の死体を抱えて鋼駅に向かうのだった。
……
私はまた再び司令官の部屋に来ていた。
「今度は何かな?伝え忘れかな?」
「いえ、さっき雪さんから連絡が来まして。」
「さっきの報告の子だね。なんという連絡だったんだい?」
「それが…幹部の1人、夏を殺したとの連絡で…」
私がそう言うと司令官は驚いたように立ち上がる。
「それは本当かい!?」
「はい、多分本当です。この後に死体確認をしに行く予定です。」
「そうか。だが、妖夢君一人で行かせるのでは不安だな。那奈も連れて行ってくれ。」
「わかりました。では失礼します。」
私はそう言って部屋を出た。そして私は小声でつぶやく。
「あなたは片腕がなくなっても最強能力者なんですね。」
と
……
「ねえ、夏が殺されたんだって。」
「それ、本当ですか?」
「ええ、本当よ。私の能力で確かめたんだから。」
「そいつは何者なのかしら?」
私はその質問に対してニヤニヤしながら答えた。
「私が片腕を消し飛ばした男よ。」
「え、つまりは片腕の状態で夏を殺したってことですか?」
「そうよ。凄いわよね。私も驚いたわ。」
「で、夏の死体はどうなったの?」
「今はその彼が持っているわ。なんでも軍に渡すとか。まあ、いいんじゃないかしら。どうせ何も出てこないんだから。」
「そうね。彼は幹部の中で唯一再覚醒をしなかった人物だし。再覚醒をしていたら彼は死ななかったかもね。」
「まあ、そんなもしもを話していても何も変わらないわね。ここからは気を引き締めないと。そろそろ作戦開始なんだから。」
「そうですね。でもうまくいくのでしょうか?もし夏を倒した人が止めに来たらどうするんですか?」
「そこは私に任せなさい。これは私の不始末のせいなんだから。私が彼を殺すわ。」
「そう。せいぜい死なないでよ?あなたまで死んだら、めんどくさいことになるんだから。」
「わかっているわよ。それじゃあ私は戦う準備をして明日にでも仕掛けるから、あなたたちも自分の仕事はこなしなさいよ?」
「わかりました。」
「じゃあまたね。」
私はそう言ってその場を後にした。
「作戦開始、夏を倒すほどの実力者の出現、"最強能力者美咲の失踪"、この国はどうなるのかしらね?楽しみになってきたわ。」
私はそんなことをつぶやきながら自室に戻って準備を始めるのだった。




