お悩み相談
俺が部室に入って十数分経ったとき、誰かがノックをしてきた。
「入っていいぞ。」
俺がそう言うと扉が開きある男が入ってきた。
「失礼します。お悩み相談ができると聞いてきたんですが本当ですか?」
「ああ、本当だぞ。」
「あの、僕の悩みも聞いてもらえますか?」
「いいぞ。言ってみろ。」
俺がそう答えると男は話し出した。
「えっとまず、僕の名前は斎藤智也です。1年生でランクはEです。悩みは他ランクとの関わり方なんです。」
「他ランクとの関わり方というと?」
「はい、僕のランクはさっきも言いましたがEなんです。それのせいで他ランクの人から見下されることも多いんです。でもそういう人ばかりじゃないことも知ってるんです。他ランクの人とも関わりたいんですが見下されるのが怖くて中々話しかけられないんです。どうしたらいいのでしょうか…」
「そうだな。まずは見下してこない人と仲良くしていくべきだ。それが見抜けないのならお悩み解決部の人たちと話せばいい。この部活にはランクで決めつけて見下す奴はいない。」
そりゃそうだ。そんな人間じゃなければこんな仕事は務まらない。それにこの前の異変はEランクの恋歌のおかげで解決できたのだ。Eランクだと見下していたらいつかきっと足元をすくわれる。
「でも、僕はほかにもいろんな人と話していたいんです。」
「うーん。結局ランク制度がある限り見下す奴はいなくならない。だがランク制度を消すことは出来ない。こうなるとお前の願いは叶いにくいだろうな。」
「…やっぱりあきらめるしかないんでしょうか?」
「そうとも言い切れない。いくつか方法はある。」
「どんな方法でしょうか?」
「一つは決闘でランクを上げる方法だ。手っ取り早いしすぐに見下されなくなる。だがEランクからとなると難しいし勝てるかもわからない。もう一つは人助けをしまくる。人助けをしまくれば助けた人からの好感度は確実に上がる。そうしたら見下されなくはなる。仲良くなれるかは分からないがな。俺がお前なら人助けをする。」
「でも僕にそんなことができるでしょうか…」
「できるできないじゃないだろ?自分が叶えたいことのためならできないことでもやり遂げろ。そうでもしないと何も叶わない。お前は目の前に助けたい人がいるとき今みたいにできないからとあきらめるのか?やってもいないのにあきらめるのは損だと思わないか?」
「それもそうですね…ありがとうございました。なにか吹っ切れた気がします。」
「ああ、いつでもまた来いよ。」
「はい!失礼しました。」
智也はそういって部室を出て行った。
「意外と俺でもやって行けるもんだな。」
俺がそんなことをつぶやいているとまたノック音がする。
「入っていいぞ。」
俺がそう言うと次は女が入ってきた。
「ここがお悩み相談ができる場所で間違いないか?」
「ああ、合っているぞ。」
「そうか。当たり前だが悩みがあって来た。」
「言ってみろ。」
「私は1年Aクラス藤原妹紅だ。で本題の悩みなんだが、Sクラスの蓬莱山輝夜と訓練場で戦っているのだが中々勝てないんだ。どうしたら勝てるのかを知りたい。」
「そういう悩みか。まず俺はその具体的な答えを知らない。輝夜の能力も妹紅の能力も知らないのと戦い方も知らないからだ。だが多分妹紅が輝夜に負けている理由は戦い方に何かしらの隙があるからだ。」
「隙ができるのは普通だろ?どんな人間でも隙は出来る。隙があるから負けるなら私は一生輝夜には勝てないって言っているようなものじゃないか。」
「そうは言っていない。じゃあ質問だが誰にでも隙があるのなら何故妹紅は輝夜の隙を突けない。何故負ける?」
「それが聞きたくてここに来たんだよ!」
「わからない間はお前は輝夜には勝てないだろうな。敗北とは勝利への必要経費だ。敗北から学び勝利を知る。敗北は勝利より得られるものは多い。妹紅、お前は敗北から何も学んでいない。だから負けているんじゃないか?」
「そんなことはない!私だって敗北したことを受け止めている!」
「受け止めるだけじゃだめだ。何故あの場面で攻撃を食らったのか。相手は何故あの時あんな行動をとったのか。私はどのように立ち回れば勝てたのか。その他いろいろを考えろ。そして次にそれを実践に活かせ。それでも負けたら、その敗北も分析しろ。勝利とは敗北を知り、敗北を受け止め、敗北を分析し、それを実践する、それを繰り返すことでやっと手に入れられるものだ。初めから勝利できる人間はかなりの才能があるか、かなりの敗北を知っている人間だ。お前に才能がないのなら敗北を知っている強者になれ。そう知れば自然と勝てるようになっていく。」
「…」
「ま、勝ったからって油断したらダメだがな。勝利からも得られるものはあるからな。」
「…」
妹紅は黙ってしまっていた。さっきまでの勢いは消え去っていた。
「大丈夫か?」
「あ…ああ、大丈夫だ。」
妹紅は涙をこぼしていた。そんな妹紅に俺は手を伸ばし、頭を撫でる。
「泣くな。この程度で泣いてたら輝夜に勝つのは無理だぞ。お前には勝利を手に入れようとしてここに来たんだろ?普通の人間なら負けてあきらめる。勝てる人間は諦めない人間だ。お前は勝てるよ。俺が保障してやる。Sクラスのツートップの1人でありお悩み解決部の部長が言ってるんだぜ?これ以上に信用できる言葉はないだろ?」
気づくと妹紅は泣き止んでいた。そして頬が赤くなっていた。
「ありがとう。なんか勝てる気がしてきた。」
「ああ、それならよかった。勝って来いよ?そしていつか俺とも互角に戦えるレベルになってこい。」
「はは、それは難しそうだ。でも頑張ってみるよ。じゃあ今日はありがとうな。」
「ああ、じゃあな」
そう言って妹紅は部室を出て行った。
「はあ、柄でもないことしたなあ。」
俺は誰もいない部室でそんなことをつぶやくのだった。




