キツネのお面と夏祭り
神社のお祭りがあった。
利子はお小遣いを握りしめて友達の美香とお祭りに行った。
「りんご飴、冷やし飴、綿菓子、たこ焼き、焼きそば」
「食べ物ばっかり!」
「おもちゃは?ヨーヨーとか水鉄砲とか、光るリングとか指輪とか……」
「お面買おう!」
「キューティーハニーがいい!」
「なにそれ?」
「知らないの?アニメの主人公だよ」
「私は、これがいい!」
利子はキツネのお面を指さした。
「おじさん、お面ください」
女の子達はそれぞれのお面を買って、顔につけた。
がやがやわいわい。
人混みに揉まれて、お互いを見失いそうだった。
「利子ちゃん!」
美香はキツネのお面をかぶった女の子の手を握りしめた。
「はぐれちゃいそうだよ」
「……」
利子は黙りこくっている。
美香はだんだん心細くなってきた。
「利子ちゃん、なにか喋って」
「ケーン」
「なにそれ!?」
「私はキツネ様だぞ。今日は祭りを楽しむぞ」
「利子ちゃんたら」
美香は呆れてキツネのお面を見つめた。
本当に利子ちゃんかな?
美香はなんだか自信がなかった。
境内の一画でちょんまげのかつらをかぶった人達が演劇を披露していた。
太鼓と鐘と笛の音。演歌が流れている。
たくさんの人たちが思い思いの方角へ歩いてゆく。
「ねえ、利子ちゃん?」
キツネのお面の女の子は賽銭箱の近くに祀ってあるキツネの像を見ているようだった。
「キツネに油揚げをあげなくちゃ」
見知らぬおばあちゃんがそう言ってキツネの像の前に油揚げを置いた。
「ケーン」
キツネのお面の女の子はそう叫ぶと、微動だにせず、立っていた。
「利子ちゃん!」
美香はキツネのお面をひっぺがした。
「美香ちゃん?」
「どうしたの?変だよ」
「私、何してたっけ?」
「大丈夫?」
「綿菓子食べたい」
「うん。食べよう」
女の子達は綿菓子屋に向かった。
神社のキツネ像はお供えものの油揚げに大満足だった。