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婚約破棄しましょう


 ここにきて一か月が過ぎようとしている。


 リリィとの稽古は初めはシンシーリアの身体は全く運動をしていなかったため軽い運動でさえ体が悲鳴を上げていた。

 だが毎日毎日筋トレを続けたおかげで前世の時の体の感覚は掴めるようになった。

 リリィは教えるのが上手で剣の技術はそれなりに上手くなり、その習得度に驚いていたほどだ。

しかし魔法の方は全くダメだ。

 人間にはそれぞれ精神の色がついておりその色によって使える魔法が違う。

 大きく分けて火、水、風、光、闇と分かれており魔力が高いほど特殊な魔法も使えるとのことだ。

精神の色は皆それぞれあるが魔力が小さければ魔法は使えない。

 シンシーリアは火魔法を使えるが魔力が少ないた魔法が下手だ。

 リリィ曰く、精神を高めたり、放つ魔法をイメージするなどで魔力を高めることができると言うことだがどうにも上手くできなかった。


 そしてもう一つ問題点がある。

 授業に全くついていけないのだ。

 シンシーリアとしての記憶は全くなく、授業は前世の世界と異なる箇所が多い。

 魔法の授業、こちらの歴史の授業、マナー、ダンスに他は少し似たようなこともあるがやることが様々だ。

 こちらの世界に来てまだ一か月の私はベイビー同然だ。ベイビーが中学3年生の授業を受けてるものだ、わかる訳がない。

 焦りつつ毎回必死に授業についていくのだがその隣でリリィはいつも固まっている。

 このような関係になった後知ったのだがリリィとは同じクラスだったのだ。

 貴族も平民も等しく学校で授業を学ぶのだがやはり暗黙のルールと言うものがあるらしい。

 クラスの席の前は貴族、後ろは平民が使うというふうになっておりいつも前の席にいた私はいつも後ろにいるリリィに気づかなかったのだ。

 また平民は学校指定の制服を着ているが貴族はドレスやスーツを着ることができる。

 決して貴族が制服を着れないことはないのだが見栄というものだろう、服装で自分の価値を見せつけたい者が多く、制服を着ている人を見たことがない。


 ティナにはすごく反対されたが毎日ドレスを着るのがめんどくさく、制服を新たに購入しそれを着て学校にむかい、教室でリリィの姿を見つけるとその隣に座った私を周りがジロジロと見てきたのをよく覚えている。

 きっと今頃貴族の間で私の気でも狂ったというような話題で持ちきりだろう。


 私は最近貴族の集まる場所になど行かずずっとリリィといる。

 リリィもそれを特に嫌がっていることもなく最近はお互いを呼び捨てで呼び合い、タメ口で話すようになった。

 その中の気づいたことの一つだがリリィの脳みそは筋肉で出来ているということだ。

 剣術などを教えるのは上手いのだが座学となると頭がちんぷんかんとなるらしい。

 真面目に授業は聞くのだが段々と訳が分からなくなり途中でショートしてしまうのだ。

 魔法の授業は比較的ついていけているのだが今は歴史の授業。絶賛ショート中である。

 助けたいのは山々だが私もそんな余裕はない。

 姿勢だけは綺麗な彼女を横目で見つつ必死に教科書を読む。


「はぁー、やっと終わった」

 

 本日最後の授業が終わり一息つく。

 いまだに固まってるリリィに「終わったよ」と肩を叩くとやっと気づいたのか机の上を片付け始める。


「早く着替えて稽古つけてよ」

「分かった。」


 2人で教室を出て廊下を歩くと顔を赤らめてキャッキャと騒いでる女生徒を何人か見かける。

 彼女たちの視線の元を辿ると原因が分かった。

 私の一番の悩みの種、カイニス・アルファランスが廊下を通り過ぎていった。


「カイニス様よ、いつ見ても素敵だわ」

「私一度だけお話ししたことがあるのよ」

「婚約者であるシンシーリア様が羨ましい」

「でもあの2人が一緒にいるところ見たことない。

「政略結婚だもの、シンシーリア様の片想いで相手にもされてないわ」

「えぇ、じゃあ私にもチャンスがあるかも!」

「んんっ!」


 リリィがわざとらしく咳をすると私に気づいたのか気まずそうに女生徒達が逃げていく。

 私としては他人の話を聞かされているようなものだったから特に気にしていなかった。

 実際に相手にされていないし。


「ありがとう、リリィ。でも気にしないで」

「気にしないわけないじゃない!大事な友人があんなこと言われて…」


 友人と言われて少し嬉しくなる。


「心配してくれてありがとう。でも彼、本当に人気者なのね」

「そりゃそうでしょう。あのルックスで頭もいいし運動もできるし生徒会会長も務めてるしね」

「え?生徒会長やってるの?」

「何今更そんなこと聞くの?みんな知ってることでしょ」

「え?まぁそうね、そうだったわね、、」


 高等部三年生の時、カイニスは高等部の生徒会長を務めたのは知っているが中等部でも生徒会長だったのは知らなかった。


「リリィはどう思う?カイニス様のこと」

「婚約者であるシンシアに冷たい男に良い印象持てるわけないじゃない」


 友人思いのリリィに胸がときめいた。

 リリィとは一生友達でいよう。


「そういえばシンシア」

「なに?」

「出会った時に言ってたけどあれって本当なの?」

「あれって?」


 リリィは周りに人がいないことを確かめ小さな声でしゃべる。


「カイニス・アルファランス様と婚約を解消するって」

「うん、本当よ」


またも私はさらっという。


「どうして!?」

「彼と結婚する気ないし、なによりホワイトローズ聖騎士団に入りたいから」

「シンシア…あなた貴族令嬢として変わってるよ……」

「褒め言葉として受け取っとくよ」


 しかしそろそろカイニスとの問題も決着をつけなくては。


 私は久々に学校のテラスに来た。

 一つのテーブルに着き、ティナが淹れてくれた美味しい紅茶を飲んでいる。

 リリィには本日の稽古をなしにしてくれと言い、分かれた後だ。

 ここにも暗黙のルールがあったらしくこのテラスは貴族しか使えないため、周りは貴族のみで今日も相変わらず足の引っ張り合いのような会話が所々聞こえてくる。

 私も今日は制服を着るのをやめ黄色のパステルカラーのドレスを着ている。

 久々にやりがいがあるとティナは大喜びでドレスを選び髪もセットしてくれた。

 コルセットだけは着けたくないとティナを説得して渋々納得してくれた。

 少し待っていると周りの、特に女性貴族が騒がしくなった。


(やっと来たか。)


 優雅に紅茶を飲んでる私の前に1人の男性が立ち止る。

 私はその男にニコッと笑う。


「お久しぶりです。カイニス・アルファランス様」


 彼、カイニスは私をじっと私を見つめる。

 相変わらずの無表情だが整ったルックスのためどのアングルからみても格好いい。


「どうぞお座りになってください」

 

 私は空いてるいるもう一つの椅子をすすめる。

 カイニスは黙って椅子に座る。


(なに?喋ることすら嫌だってこと?)


 カイニスの態度を目の当たりにして笑顔が崩れそうになったがどうにか元に戻す。

 周りが興味津々にこちらをチラチラと見てくる。

 ティナがカイニスの分の紅茶を出そうとするが私はそれを手で止める。


(そっちがその気ならこっちだって優しくしないわよ!!)


「アルファランス様は日々忙しい中の合間をとってやっとの事でお時間を取ってくださったのよ。

本来は私とお話しする余裕さえないのですよね。

紅茶を出して長居させるような事はいたしません。単刀直入に言います。」


 あれからも永遠にカイニスに手紙を送っていたが返ってきたことは一度もなく私は最後の賭けに出た。


『一度だけ私と話す機会をください。そしたら私はもう二度とお茶に誘うことも手紙を送ることも致しません。』


 きっと毎日くる手紙にカイニスもうんざりしていただろう。

 一度来ればこのストーカーじみた行為が止まると思ったのだろう予想通りカイニスはここに来た。


(来なかったら彼のクラスにまで行ってみんなの前で婚約破棄を伝えることになるところだった)


 いくらなんでも私だってそんな恥ずかしいことしたくない。彼が意外と素直でよかった。

 マイナスのイメージの人間がすこしでも良いところがあると好感度が普通の人よりアップするとは本当だ。

 まぁそれでも彼の好感度は今マイナスだけど。


「私と婚約を解消しましょう」


 カイニスの表情が少しながら動いた気がする。


「今までアルファランス様の婚約者としていられるよう頑張ってきましたが私ではアルファランス様の横を並ぶ資格がないと思いいたりました。

アルファランス様は公爵家の跡取り。

すぐにアルファランス様とお似合いの素敵な女性が現れます。こちらの都合を押し付けるようで申し訳ありません。今週末に私は一度家に帰りお父様とお母様に婚約破棄の事をお伝えしようと思います。

あ、婚約破棄はカイニス様からした、と言うことにいたしましょう。こちらが勝手に決めました事ですから噂は私に問題があるようにいたしましょう。」


 長々とはなした後、私は紅茶を全て飲み干す。

 その間もカイニスは一言も話さない。


「こちらのお話は終わりましたのでもう戻りましょう。特にアルファランス様からお話しすることはないようですね。確かにアルファランス様はお忙しいですからこのような時間が無駄ですよね。2人で話すのはこれで最後になりますが今までありがとうございました。」

 

 そういい私はカイニスを置いテラスを去った。

 立ち去る時いろいろな貴族たちと目が合うと貴族たちはささっと視線を外す。

 みんなから見えないところで私はベーと舌を出した。




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