初耳ですよ
暖かい風に暖かい日差しがあたり季節はしっかり春だった。
周りの人々がティータイムを嗜む中、私シンシーリアも紅茶を飲む。
前世の高橋 果奈の時も紅茶はよく飲んでいたがミルクを入れるのが好きだった。
しかしこの時代でミルクは臭いや賞味期限の早さからあまり出回っていないとのことだ。
侍女にミルクの話をするとそのようなものを紅茶に入れるのかと驚かれた。
侍女のティナが入れるストレートティーは薄くもなく渋くもなくちょうどいい香りのするとても美味しい紅茶だった。
ちなみにメイドと思っていたティナは私の侍女であった。
身の回りの世話をする仕事らしいがメイドと何が違うのだろうか、過度な奉仕はしないところだろうか。
昔の時代のメイドのイメージを思い出したがやはり違いはそこぐらいしか思い浮かばなかった。
ただ紅茶を飲んでいるわけでもなく、私はずっと人を待っていた。言うまでもない、婚約者のカイニス・アルファランスだ。
私直筆の「宜しければお茶をしませんか」という手紙を送りこの学校のテラスで待っている。
(2週間もね!!!)
言葉を逐一変えお茶のお誘いを毎日しているが彼は全てを無視している。
「忙しい」の一言ぐらいくれれば良いのにそれさえもない。
(ゲームの時から主人公以外には心を開いていなく会う人会う人にそっけない態度をしているのは分かっていたがこれはクールではなくただの非常識な男なんじゃないか?)
カイニスを攻略している最中は自分と他の人との扱いの差に優越感を抱いていたが、いざ自分がそちらでない立場になると腹が立つ。
私はティナに本日5杯目の紅茶をお願いする。
ティナも私が毎回カイニス宛に出してる手紙を知っているためこの2週間心配そうに私の様子を見ている。
目の前を過ぎる人々をじっくり見ているがカイニスらしき後ろ姿さえもない。
時折貴族令嬢が私に「カイニスとお茶もできない仲なのね」というのを曲げに曲げ、屈折したようなセリフをかけてくる。
私も彼女達に優しく微笑み「忙しいからですね」と一言だけ告げて紅茶を飲む。
正直皮肉な事を言ってくる彼女たちよりカイニスに苛立ちを覚えてる。
貴族令嬢達も私のつまらない反応に興味を失いそそくさとこの場を去る。
うるさい人たちが消えふぅと一息つき背もたれに背中をつける。
ふと遠くにいる1人の少女に目がいく。
「ティナ、あの子は誰?」
ティナも私と同じ方向を見て少女を見つける。
「リリアン・バルトラ様ですね」
「あの子はどうしてあの様な格好なの?」
リリアンは長い髪を一つにまとめ、真っ白いブレザーにパンツのスーツのようなのを履いている。膝下まであるブーツはヒールがあり彼女のスタイルの良さを引き立てる。
この時代で女性がパンツを履くことなど珍しい。
貴族などもっての外。騎乗する時ぐらいだ。
「彼女はホワイトローズ聖騎士団から推薦をいただいておりますので。今年はきっと見習い騎士だったと思います」
「ホワイトローズ聖騎士団?」
この国では王家に仕えている騎士団が4つある。
一つは王城を守り、二つ目は国の中を守り、三つ目は外から国を守る騎士団だ。
そして4つ目が騎士団全て女性で形成されているホワイトローズ騎士団だ。
主に祭事をメインに取り締まっているが選ばれた女性達はとても強く、男性騎士団にも引けを取らない。
その他にもティナが色々説明してくれていたが私は耳に入っていない。
(そんな素敵な騎士団があるなんて……!!)
アプリゲームをしている際はそんな説明なんてなかった(と思う。)
騎士団というセリフは何回か聞いたことが女性だけの騎士団があるなんてのは初耳だ。(と思う)
私は乙女ゲームをそんな好んでやっていない、というかやった事あるのはこのゲームぐらいだ。昔からアクションゲームの方が好きなぐらいだ。
モンスターを退治したり闘うゲームばかりやっていた。
子供の頃から動くことが好きでかけっこは学校1早かった。中学校では陸上部に入り長距離走の選手としていくつもの賞をとった。高校では靭帯を痛め、陸上は卒業したがそれでもたまに川辺で走っていた。
(カイニスと婚約した後どうしようかと思ってたけどこれがあるじゃない!そうと決まれば善は急げね!)
ティナに片づけのお願いをして私はリリアンの元に向かった。
レディが走るなんてはしたない思われていると思うがそんなこと知ったこっちゃない。