04 スーパーの彼女
親から連絡が入ったとき、長い信号待ちに引っかかったばかりで暇だったので、帰り道だとメッセージを返信したら、カレーのルーを頼まれた。
なんだろうこの、冷静に考えれば大して苦労でもないけど、行く予定ではなかった場所に立ち寄らなければならないときの面倒くささというやつは。すごく嫌だと言うほどでもないけど嫌だと言いたい、この、ボーダーライン上にいるやつは。
やつは!
俺は帰り道から一本横の道を通って、スーパーの駐輪場に自転車をとめた。
面倒なことはなにも考えずに終わらせる。それが人生のコツである。
カレールーはどこだ。
俺は、もう一度携帯に送られてきた画像を確認してから、店内を歩いた。
スーパーといえば、ちょっとお菓子を安く手に入れたいときに立ち寄るくらいのものだ。それ以外の商品の配置はあまり把握していない。
店内の外周にそって歩いていくと、野菜、肉、魚、と商品が移り変わっていく。
しかしそれらしい棚はなく、だんだん、このままだと店外まで行ってしまいそうだ。
内側に切り込んで、カップラーメンなどを見ていくと。
「っと」
三田がいた。
俺は反射的に、入りかけた棚の間をもどって隠れる。
三田はそんな俺の動きなど気にせず、棚を見ていた。肩にかばん、左肘に買い物かごを持っている。
カップラーメンの先の、お菓子が置いてある棚の前にいるようだ。チョコレートの商品らしいものが、なんとなく見える。
ブラックサンダーの、小袋がたくさん入っている袋を手にとった。
そうだろう。
三田といえば、そうだ。
しかし、その状態でしばらく止まってしまった。
それから、はっとしたように携帯を出すと、すいすいと左手の親指で操作したと思ったら、また止まった。
俺が、他の客に邪魔そうな目で見られて、何度か立ち位置を変えたり軽く行き来したりしていても、やはり三田はブラックサンダーの大袋を持ったままだった。
いったい……?
……待てよ。
俺は携帯を取り出し、ブラウザを開いた。
そしてブラックサンダーを検索する。
どうやら、あの大袋の商品はブラックサンダーミニバーというらしい。
容量は173グラム。ひとつあたりの重さは13グラムで……。
やはりだ。
3の倍数でない。
全体のグラム数も、ひとつあたりのグラム数もそうだ。
ただ、3がつく数字、という条件は満たしている。
しかし俺の考えでは、3のつく数字というのはあくまでおまけの要素というか、王道ではないように思う。
三田にとって、ブラックサンダーが王道なのだとしたら。
あまり、受け入れてはならないこと、と感じても不思議ではない。
……。
もしかして、自分で買ったことはなかったのか?
たまには買ってきてもらうんじゃなくて、自分で買おうとして、初めて気づいたのか?
まあ、それはいいとして。
どうするんだろうか。
「あっ」
ちょっとよそ見をしていたら、三田が歩きだした。
買い物かごにはブラックサンダーの袋が見える。
決心したのか。
ん?
なにかがおかしい。
俺は、こっそり三田のあとをついていった。
無人レジに入った。そこで、買い物かごから出したのは。
三袋のブラックサンダーだった。
なるほど。
3倍はすべてを解決する。
俺は納得して、スーパーを出た。
カレールーは忘れた。