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02 昼休みの彼女

 昼休み、俺はひとり、図書室の貸し出しカウンターの中でパンを食べていた。

 最初は、図書委員なんて面倒くさいばかりだと思って、そんなものになったことを後悔した。

 しかし、昼休みの時間を正当な理由で消費するのにぴったりだときづいてからは、むしろ、図書委員を選んだ幸運に感謝していたのである。完。



 戸が開いた。

 三田と、その友達だ。高橋だっただろうか。

 ちらりと三田がこっちを見て、おどろいたように目を大きくした。目が巨大化したわけではなく、大きく開いたのだ。


 二人はそのまま本棚の方に向かっていった。

 すぐ見えなくなる。俺はそのまま、パンを食べながら読書を再開した。

 顔を上げるといつも数行忘れてしまう。

 ちょっともどって読み直し。


「おいおい」

 奥の方で高橋の声がした。

 いまは、俺と、あとは三田たちしかいないはずだ。なにを?


 それからくすくす笑う声がする。

 もしかして俺を笑っている?

 そういうこともあるけれど、いまはそのときではない気がする。


 また数行もどって読み始めると、また笑い声がした。

 なんだろう。


 小さな笑い声を出している生徒の中には、本を、おかしな置き方をして喜んでいる人もいる。悪である。

 だとしたら、図書委員としては、注意をしなければならない。

 あるいはこの場だけは本の置き方だけちゃんと直して、注意は、別の図書委員が見つけたときにやってもらう。

 俺は後者が得意だ。


 本を置き、音を立てないように席を立った。

 そうっと彼女たちに近づいていく。


 本棚の横から見えたのは。


「……っ」

「ふふっ」

 無言で、3の倍数でアホになっている三田と、それを見て笑う高橋だった。


 にーじゅしち! 28、29。

 口の動きでわかる。

 いよいよ30台に向かっていく。

 

 さーんじゅいち! さーんじゅに! さーんじゅさん!

 腰を落とした三田が、手を腕をゆらゆらさせながら数を数えると、高橋が口をおさえながら肩を震わせている。


 さーんじゅきゅう! ……40!

 三田がポーズを決めると、高橋が音を立てないように手をたたく動きをした。


 そのとき、三田と目が合った。


 俺は急いで顔をひっこめて、音を立てない早足でカウンターにもどった。

 着席して、さっきの本を開いた。

 しおりをはさんでおいたページのどこを読んでも見覚えがなく、1ページ、2ページともどっていたが、やはり記憶にない。


 視界の端でなにか動いた。

 カウンターに文庫本が置かれていて、三田が立っていた。

「貸し出しお願いします」

「あ、はい。学生証を」

 俺は受け取った学生証のコードを機械で読み取って、本のコードを読み取る。


「返却は二週間後です」

「はい」

 本を受け取った三田は、まだその場に残っていた。


「……ええと?」

「1、2」

 それだけ言って、三田は俺を見た。


「え?」

「1、2」

 三田がじっと俺を見る。


「……」

「1、2」


 言わなきゃいけないのか?

 言わなきゃいけないのか!?


「……さん」

 俺が言うと、三田はカウンターに近づいた。


「え?」

 ちょっと顔を傾けて、右耳をこっちに向ける。


 俺がなにも言わずにいると。

「1、2」

 三田が言う。

 言わなきゃいけないのか……?


「さーん」

 俺は、頭をななめにして、ちょっと上を向きながら、小さい声で言った。

 三田を見る。


 三田は、うーん、と一回腕を組んだ。

 それから俺を見た。

 しょうがないなあ、というような顔で、一回うなずく。

「いいでしょう」


「終わった?」

 高橋がやってくる。

「あ、うん」

「行こう」

 三田は本を取ると、俺をちらっと見て、高橋と一緒に図書室を出ていった。


 ……なんなんだ!

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