再会
「いたいた。こんばんはユリア。久しぶりだよね」
木の椅子に座ったまま振り返ると、入口から入ってきたのはマックス…を縦に長く横に少し細くスラっとさせた黒髪に青い瞳の青年だった。白い綿のシャツに深い紺色のスラックスをはいて薄い胸板にサスペンダーで釣っている。記憶の中の寄宿学校の制服に似ているけどちょっと違う。
え、まさか。
「・・・もしかして、ルカ?」
「なんだよもしかしてって」
笑いながらツインテールの片方をちょんと引っ張られる。
「だって久しぶりなんだもん。大人っぽくなったねルカ」
「そりゃ十九歳だからさ。見習いだけど医者になれたしさ。元気にしてた?ユリア」
ルカは私のほっぺたを両手で包んでふるふる揺らした。頬っぺたちょっとに気にしてるのにもう、彼の手首をつかんではがそうとするけど簡単に剥がれない。細いのに記憶の中のルカよりがっしりしてるのかも。綺麗な深い蒼の瞳に自分が映っているのが見えて、なんだか私はちょっと照れてしまった。
ルカは寄宿学校を卒業した後すぐには実家に帰らず、少し遠い街の診療所で修行しているときいていた。たぶん会うのは一年以上ぶりだ。かっこよくなったなルカ。線の細いお兄さん。マックスと似ているのは髪と目の色だけであとは全部全然全く違う。
「おやおや、あんたブラウンさんとこの長男じゃないかい?久しぶりだねぇついに帰ってきたのかい?」
「ええ、実は今さっき」
珈琲を進めるソニアおばさんに丁寧に断りをいれて、ルカは私の二の腕をつかんだ。前世じゃなくてほんとよかった。こんなスラっとしたひとに前世のふよっとした二の腕つかまれたら泣いてしまう。
「ユリア、お出かけしよう」
「え?」
は?今から?この時間から?日没後から?
馬車も動いていないんじゃないかな。
と思ったのが顔に出たらしい。ルカは苦笑いする。ほんと、綺麗な青年になったなぁ。歯並びまで綺麗。矯正なんてないこの時代この街じゃ珍しいくらいに。
「借り馬しよう。俺ひとりじゃ寂しいから付き合ってくれる?」
大人げなく自分の頬が染まるのがわかる。いや、大人げなくって、今世の私は十歳だからいいんだけど、ええと、とにかく十歳の頬はとても素直で血色がよくて、真っ赤に熱くなってしまった。
ランタンの灯りでルカにはあんまり見えていないといい。私は頷いて、ついていくことにする。ルカがソニアおばあちゃんに支払いをすませてくれて、手をつないで喫茶店を出る。本当に外はもう真っ暗だ。でもそこに四輪の馬車がまだあることくらいはよく見えた。
そして馬車の前に座っていた御者と目があったらしいことも、わかった。
ルカが私の手首を強くひく。強くひっぱって走り出した。
「あ、おい!あんた!」
御者が叫んだ。三十代くらいのひょろりとした男のようだった。その声に続いてか、振り返るとうちへ続く路地から杖をもった背の高い男が駆けてきた。
正直に予想外だったのは、その男の人が思ったより若く足がめちゃくちゃ速かったことでした。
私たちは五分ももたずにその人に腕をつかまれたのだ。