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モブになると消滅する世界に転生しました  作者: アオガスキー
レッドフォード伯爵家
23/46

王都へ

 白く薄い雲がひと捌け流れているだけの快晴。その青空と緑豊かなブドウ畑の強いコントラストの中を馬車で駆け抜ける。 

 八月に入りレミリア国レッドフォード領も直射日光を浴びると汗ばむくらいだが、そよ風と屋根のおかげで馬車の中は快適な居眠り空間だった。家紋が大きく刻まれ、金色で縁取りされた黒を基調とした上品な馬車には兄であるセレスティン・レッドフォード、そのフットマンのキヨナガ・クジョー、それから私ユリア・レッドフォードとメイド長ポリーナが正装して乗り込んでいる。もう一台に衣装係と家令のランドルフが乗っているはずだ。朝が早かったこともあって私はうとうと微睡んでいるうちに王都についてしまった。

がやがやと人の声がするようになって目を開けたら、もうそこは王都アルトナだったのだ。


「これが東西に走るメインストリート。さっき通った門が城下町の入り口で、もう少しすると凱旋門が見えてくるはずだ。ほら、見える?」


 何回か来たことがあるという腹違いの兄が案内してくれる。言われて顔を窓の外に乗り出そうとすると、隣に座った兄の腕が私のお腹にまわってきた。


「落ちるなよ」

「わかってるし」


 強く引っ張られたわけじゃないので、そのまま顔を乗り出す。


「わぁ」


 平凡な声がもれた。青空によく映える白く大きな門は、前世でみた日本のオフィスビルでいうところの5階か6階くらいの高さがあり、パリの凱旋門にもどこか似ている。門の両脇を飾る巨大な彫刻はライオンと鷹か何か、それをさらに楕円形に囲うように楽器や蔦、天使、羽、鳥、花、豪華な彫り物で飾られている。上のバルコニーには衛兵が数人いるようだ。車が四車線は通れそうな大きなこの道にそびえ立つその門は、たしかに凱旋門の名にふさわしい気がした。王様が帰ってきたときにはあのバルコニーに兵がいっぱい並んで旗を振るのかもしれない。壮大な景色を想像した。


 アルエの街より品の良いレンガ造りの建物が並び、何区画かごとに花の咲いた公園があり、緑と商業、農業、工業、うまく設計された都市みたいだ。またしばらく走ると、ひときわ巨大で豪華な建物が見えてきた。あれがきっと王宮だろう。鋼鉄と金でできた高い門と、高校のグラウンドよりずっと広い庭園と巨大な噴水の向こうに、シンデレラ城みたいな、紺色の三角屋根に白壁のお城が見えた。

 

 兄が招待状らしい手紙を門番に見せると、うやうやしく両開きの鋼鉄門が開いた。再び馬車は庭園の真ん中の通りを走り、王宮の前で止まる。衛兵が左に二十人、右に二十人程、飾りのついた槍をもって整列している。うち一人がドアを開閉してくれて、キヨナガがまず先に降りてお兄さまを介錯し、続いて私、最後にポリーナが下りた。本来メイドが来るような場ではないが、ポリーナは十歳の妹である私に付き添う立場だそう。後ろに続いてきたもう1台の馬車から家令のランドルフらが下りている。


 三十畳はありそうな広めの控えの間に通され、兄も私たちも身支度を整える。移動中に気崩れなどしてはいけないということだろう。

 ただ問題は、レッドフォード家で一部屋しかないこと。間に衝立(といっても保健室にあるようなのではなく、金箔で1枚1枚縁取られ、花が描かれた派手な屏風なようなもの)があるけれど、逆を言えばそれだけしかなくて、着替えるにも化粧をするにも少し変な感じがする。


「叙爵式の日程が組まれた時点でユリア様はまだ見つかっていませんでしたので…女性用の部屋がなく申し訳ありません」とランドルフが言っていた。中身の実年齢はともかく、まだ十歳なのだからそんなに気にしなくてもいいのに、とは思う。

 

「準備は出来た?」


 衝立の向こうから正装を整えたセレスティン・レッドフォードが顔を出した。

 彼の髪色に近い明るい金糸で丁寧に刺しゅうの施された紺色のジャケットの上に肩章を付け、同じ色合いのマントを羽織っている。マントは左胸のみ前まで留められ、右半分は背中に流して着るものらしい。しっかり磨かれた黒い革靴、黒地の細身のパンツ、と表側の色使いは派手ではないが、マントの裏地は原色の赤のベルベットで、彼が貴族であることを示している。帽子は被らず杖を持っている。両耳には小さくダイヤのピアスが光る。

 私ユリア・レッドフォードは先日試しに着た通りの白地に青い刺しゅうのドレスで、同じくプラチナブロンドの髪を高めのツインテールに結い上げ、真珠の髪飾りとともに兄が選んだリボンを結んでいる。その上から兄と同じ生地のマントを羽織らせてくれるのはポリーナだ。少し口唇にリップグロスものせられ、高価なアクセサリーも相まってちょっと前まで港町を走り回っていた町人には到底見えない仕上がりになった。 


「式はユリアには退屈かもしれないけどたぶんすぐに終わるから。王はお忙しくていらっしゃるからね」

 

 言いながら兄が左肘を差し出し、私はそこに右手を通す。175㎝はありそうな彼と十歳の私なので手を伸ばすしかないのだけれど、なんとか形にはなっている。鏡の前で二人でちょっと照れ笑いをした。


「行ってらっしゃいませ」


 家令とメイドはここまでで、ランドルフとポリーナが深く頭を下げた。兄と私、その後ろからフットマンのキヨナガが続いて控えの間を出た。


 

長くなりそうなので一旦ここまでに。次で新キャラをかけるか…!?

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