兄妹
セレスティン・レッドフォードは、両手で私の髪の先をそっとつかんだ。ツインテールのゆるく波打った毛先をつかむと、にゅーんと伸ばして笑った。
「ユリアはおませさんだなぁ」
にゅーん、にゅーん、と引っ張っている。
え?
ちょっとまって?
このひともしやはぐらかすつもりでは?
「おませじゃないもん。もう十歳だもん」
つい口をついて出た言葉に後悔する。しまった、矛先が変な方へいくかもしれない。
「お隣の男の子と兄弟同然に暮らしてきた女の子の口からそんなこといわれるとは思わなかったよ」
声をあげて笑いはじめた。まずい、まずいぞ。
「だってお兄さますごくお綺麗でしょう? いい人、いらっしゃるのか気になるでしょう?」
ちょっと早口になってしまった。彼はにやりと笑って髪で遊んでいた手を離すと、私の背と膝裏に手をまわした。
え?
「ちょ、まって、お兄さま!!」
急に視界が高くなりぎゅっと近くにあるものにつかまった。近くにあるのは金髪の髪の持ち主の首筋で、私はそれに両腕でまきついてさらにシャツの後ろをぎゅっとつかんだ。前世の身長より高くまで、さらりと抱きあげられてしまったのだった。
「ユリアの背がこれくらいまで伸びたら教えてあげる。これくらいの目線になったらね」
あの、それって、身長170くらいじゃない? 一生かけても伸びないかもしれなくない?
セレスティン・レッドフォードはおそらく175㎝から180㎝の間くらいだ。その彼が抱き上げた目線なのだから、やっぱり170㎝は必要ですよね。
「大人になってもこんなに伸びない人もいるよ。だから今教えて」
「じゃあ、せめてこのくらいかなぁ?」
一瞬腕を離され、のどから悲鳴をあげそうになる。1秒もせずにもう一度抱き留められる。今たぶん、160㎝くらいの人の目線。いや、でもそんなことより。
「~~~~~お兄さま?」
怖かったんですけど?
めちゃくちゃ怖かったんですけど?
最大限力を入れて彼をにらむ。睨むけれど、その顔が面白かったのか、彼は噴き出してしまった。
「はは。そんな顔もするんだねユリア」
本当はこのひとに気に入られないといけないのだけど、そんなことか待っていられずポカポカ背中をたたいて地面におろしてもらう。
もう、怖かった。子供の身長だけど、高い高いなんてずっとやってないんだから、急に持ち上げられたらこわいんだってば!
腰に両手をあててじっとにらんでいたら、今度はぽんと頭に手をのせられる。この人、このしぐさ多いなぁ。子供の扱いに慣れているんだろうか?
「ごめん、そんな顔しないで。バラ園のほうに戻ろう?さっき通ったのはほんの一角なんだ」
ぎゅっと手をつながれ、もとい引っ張られ、私たちは高台を後にする。