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モブになると消滅する世界に転生しました  作者: アオガスキー
序章
1/46

転生案内人


 古びた街灯のひとつがチカチカ点滅している。もう、サボってるな行政め。行政って、私も一応微力ながら、その一端だけど。


 貴重な梅雨の晴れ間とはいえジットリと重い六月の湿度は健在で、自転車を漕いでいるとシャツの内側が熱ってくる。


 新宿区某所の勤務先まで電車で三十分、駅から自転車で五分の低層住宅街。原付が一台停まっている小さな庭先に私のも並べて停める。二階建ての玄関とリビングの電気はついている。


「ただいまー」

「おかえり沙優。ごはん買ってきたー?」

「買ってきた!半額お値打ち品四人分!」


 スーパーの袋をガサガサならすと、ソファの向こうから姉二人と母が顔を出す。うちは女4人世帯である。

 だからというわけじゃないが、お味噌汁だけつくって具材はお惣菜ですますのが平日の常で、食べたら二階に上がる。奥の東側の五畳が私の部屋で、通販で買ったイームズチェア、机、ベッド、クローゼット、本棚いっぱいの漫画と小説と画集、そして目覚まし時計。これが私の部屋にある全部。


 学生時代から長年愛用しているジャージに着替え、やわらかいシングルベッドに背中から倒れ込んだ。それからいつも通りスマホで家計簿をつける。読書のほかは最近の趣味は貯金である。いたって平凡な趣味でしょう?理由もよくあるやつで、毎月通帳の数字が増えていくのを見るとゲームみたいで楽しいから。守銭奴と呼びたい奴には呼ばせておけばいい。


 日課を終えて半分眠りかけたところで、そういえば電気コンロがスイッチ入りっぱなしだったかもしれないと気づく。


 やばい、火事にはならないけど電気代もったいないじゃん!


 ベッドから飛び上がって階段に向かう。手すりをつかんだところで頭がぐらぐらして、あっと思った時には階段を踏み外していた。






 そこから先の記憶はやんわりしている。





 ここは、ベッド?


 病院?


 それにしては背中が硬いような…





 重たいまぶたを開くと、教会のようなところにいた。薔薇窓のステンドグラスから入る紅い光がすごく綺麗で、白い石造りの床も染まっている。


 巨大な木のような有機的なデザインの柱に、鮮やかなステンドグラス。この教会はどこだったっけ。写真か何かで見たことがあるような気がした。


「お目覚めになりましたか?」


 初老の神父さんのようだった。真っ白な髭を蓄えているけれど肌と目は綺麗で、五十前後とみえる小綺麗な人だ。知らない人だ。私とこの神父の他に、同じような真っ白な服をきた女性が二人いる。ひとりは何か箱を手にしている。上に手首が入るほどの丸い穴が空いた正立方体で、いわゆる抽選箱のような銀の箱だ。


「あの、ここは?病院ではなさそうですけど、私階段から落ちたような覚えがあって」


 頭がまだガンガンする。痛いというより脈打ってぼーっとするかんじ。

 私は着替えたばかりだったはずのジャージではなく白いワンピースをきていた。

 こんな服もっていたっけ?


「ここは転生先の案内所ですよ、沙優さん」


 にこやかに神父はいう。



 え?転生先?


「あなたはお亡くなりになったのです。突然死だそうですよ。最近二十代三十代の方でもときどきあるようです」


「ええ?亡くなった!?」


 叫ぶ私に、ひとりの女性が白くあたたかなローブをそっと羽織らせてくれる。この人は四十代くらいだろうか。人の良さがすけた優しい顔をしている。


「まぁただちょっとね、あなたの場合寿命より少し早かったので、どんな人に転生したいか希望はきこうと思うのです。どんな人になりたいですかね?」


 白髭は頬をひっかいている。


「ほら沙優さん、転生したらハイスペックなスーパーダーリンをはりきって見つけなくちゃ。美人になりたいでしょ?どんな美人が良いですか?」

 若い方の女性が弾んだ声でのせてくるけど、正直に「考えるのめんどくさいので今のままで良いです」と答えてしまった。


 これには神父も女性二人もびっくりして口を開いている。こういう驚き方するひとほんとにいるんだな、と思っていると二人がかりでユサユサ体を揺らされる。


「え、あこがれないのですか?前世で独身だったのに?本当に?」


 だって、姉妹で支え合ってたしとくに困ってなかったし…


 昔の元カレはストーカー化してトラウマになったし…


 ごにょごにょ言っていたら神父らは盛大にため息をついた。少しの間彼らは三人で顔を見あわせたあと、神父が咳払いをした。



「本当にスペックはなんでも良いのですか?

 万一モブキャラになると、寿命を待たずに消えてしまいますけど」


 …え?


 今度は私の口が力なく開く番。

 神父は「恋愛小説」と書かれた籤を開いて私の顔の目の前に仰々しくつきつけた。


「あなたの転生先は恋愛小説の中、物語の中なのです。モブになると寿命を待たずに消えてしまいます。天寿を全うできるのは主役とサブキャラまでです」


「えええええ。まって、なんなのその転生先。公爵令嬢とかモンスターとか勇者とか魔法使いとかに転生するんじゃないの?ていうか、モブにだって人生があるでしょ?」


 立ち上がって神父に詰め寄る。あれ?体温がない、このひと体温がないぞ。


 近寄りすぎた私をさりげなく離しながら、神父はまたゴホン、とわざとらしく咳払いをした。

 どんな時代に転生するかは転生後のお楽しみですが、小説の中にいくことは確実ですよ、と神父は人差し指をたてる。


 さらに、ずいっと顔をよせてくる。


「沙優さん、これだけは絶対に忘れないでください。最終回の回想シーンにでてこないようなモブを長く生かしておく意味はないでしょう?ページ数の無駄です」


 な、ななな。そんな。そんな、私、全然モブで良いのに。印象に残らない平凡な女子で良いのに、ページ数の無駄?モブになったら消える?


「消えるって、どんな風に?」

「消えるだけですよ。ポンッとね。ほら、よく死後の世界は無だっていうでしょう?」


 ポンッてなんだ軽そうにいうな。


 おだやかに微笑む白髭に腹がたってくる。短命なんて絶対嫌だ!あぁもう、ゆっくり本を読んで、毎晩家計簿つけてウフフって笑ってだらだら生きていきたいのに。


「じゃあ、どうすればモブにならずにすむんですか?」

 回避策があるならぜひ知りたい。しかし神父はあからさまに目を横に逸らし、女性二人は白々しくにっこり微笑んだ。嫌な予感。


「沙優さんは恋愛小説もたくさん読んできたでしょう?主役かサブキャラになったつもりでうまく物語を動かしてください」


 それは、その、いわゆる乙女ゲームの中に転生するより難易度高くないですか。ストーリーが決まっていて最悪のルートを回避するならわかるけど、ストーリーがわからないなかでうまく動かせ?そして主役かサブキャラを目指せ?そんなのできるのは持って生まれたカリスマ性とかスター性とかいうのがある人だけでは?


 私の顔が青くなる。対照的に目の前の女性二人組はにっこりほほ笑みを崩さない。

 ステンドグラスから入る真っ赤な光が私の手足も真っ赤に染めている。


 俯いて膝をついてしまった私を見かねて、神父と女性陣が何か話し合っている。また乾いた咳払いをして、神父はいう。


「わかりました。こうしましょう」

 白髭は続けた。


「あなたには特別に一カ月に1回、ヒントをだしてさしあげます。消滅可能性が何%か毎月教えてさしあげましょう。いかがでしょう?ゲームみたいで楽しいのでは」

 


 私はもう彼らの声をほとんど聞いていなかった。



 考えろ。考えるんだ。

 今まで読んだ本のストーリーを思い出せ。主役かサブキャラになれるポジションはなんだ?どんなひとに転生すれば良い?


 深呼吸をして、顔をあげる。

 よし。これでいこう。


「あの、転生する人物についてなんですけど」


 神父が肯く。先を促されている。


「《実は伯爵令嬢だけど訳あって町娘として暮らしている三歳児》からスタートしたいです。いずれ十代のうちに伯爵家から迎えがきてお嬢様になります。顔は美人より可愛い系で、髪はロシア人みたいな金髪で、目は緑で、色白で、血色よく、健康がとりえの女の子でお願いします。」


「えらく具体的になりましたね?」

 さっきまで黙っていたもうひとりのお付きの女性が口を開いた。


「ええ。恋愛小説ってことなので、おっしゃるようにスパダリを見つけるか、なんかしら王道のストーリーを意識したほうが良いかなと。名前も選べるならユリアでお願いします」


 和物も人気はあるけどもっと多数派は西洋風のファンタジーだ。名前で転生先をある程度コントロールできればなおよし!

 私の中の全腹黒総動員だ。


 神父は「わかりました」と微笑むと祭壇らしき場所へ階段をすすんだ。何かを唱えているうち、私の身体が白く眩しく光り始めた。


「それではユリアさん。新しい人生を楽しんでくださいね。ごきげんよう」



 手を振る三人に見送られ、私は意識を手放した。






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