7 嫁さんの手作り
「さぁ、どうぞ」
軽く室内を見て回ってから、美星さんはお昼ご飯を作ってくれた。メニューはご飯、味噌、肉じゃがとオーソドックスなメニューだが…思わず感動してしまう。
「美味しそう…手作りのご飯なんて初めてです…」
「え…あの、まさかお義母さんは料理は…」
「あ、えっと。作れると思いますよ。ただ、俺には作ってくれなかったので。幼い頃から適当にお金渡されて終わりだったので」
まあ、外食する程のお金ではなく本当に少量なのでパンとかおにぎりが精々だったが。
「……私が彼女になったからには、もっといっぱい美味しいもの作ります」
「ありがとうございます。でも、美星さんの手作りってだけで俺は幸せですよ」
そう微笑むと彼女は手で顔を覆って何かを抑えるような仕草をした。なんだろう、可愛いけど。
「ーーーと、ところで、さっき友人の経営するマンションって言ってましたけど、その方は大丈夫なんですか?」
「ああ、えっと、高校時代からの数少ない友人なんですが、多分兄貴に絆されてない貴重な友人ですね」
まあ、というか、多分ほとんど唯一の友人かもしれない。
「……私が初めてじゃないんだ」
「え?」
「な、なんでもありません。えっと男性ですよね?」
「はい。俺には異性の友達なんていませんから」
「そ、そうですか」
ホッとする彼女。俺なんかに友人はほとんどいないから余計な心配かけちゃったかな?でも、本当に優しい人だなぁ。
「あ、あの、そういえば、琴音ちゃんには話したんですか?」
「……まだです。でも、多分清隆さんなら琴音は受け入れると思います」
恋人関係だけでも、そのうち琴音ちゃんには話すべきだとは思う。まあ、俺から言い出せるかはわからないけど。
「俺、正直、まだ自分なんかが美星さんみたいな素敵な人の恋人でいいのか不安ですが……それでも、美星さんのこと好きですし、叶うなら琴音ちゃんとも家族になりたいです。だから、えっと…俺に出来ることならなんでも言ってください」
そう言うと彼女はまたしても何かを抑えるように身悶えしてから、微笑んで言った。
「そんなあなただからこそ、私も好きになったんですよ」
「……あ、ありがとうございます」
なんか照れる。そうして微笑みあってから、人生初の手作りのご飯を食べて感動してしまう。温かいご飯というのもなかなか食べられないし、それに何より、誰かと一緒の食卓がこうも楽しいものだとは予想してなかった。
兄貴と両親が外食に出て1人で冷たいおにぎりを食べてた頃からの憧れが叶ったのだ。まあ、普段俺以外の皆でご飯を食べてたのも羨ましかったしね。
でも、何より幸せなのは、好きな人が目の前にいるってことだと思う。こんなに幸せにでいいのだろうか?この分の不幸がこの先起こらないか少し不安になってくる。
まあ、その不幸が俺単体なら構わないんだ。それが美星さんや琴音ちゃんに及ぶなら俺は絶対に運命を許せないだろう。だってこんなに優しい人達が幸せにならないなんておかしい。だからこそ願う。神様、俺はどうなっても構いません。だから、絶対に2人には幸せをわけてください。
これから先の2人の不幸を俺が引き受けてもいいからと全力で祈りつつ、翌日からの仕事に備えるのだった。