24 嫁さんと映画館
「空いてて良かったですね」
ドリンクを買ってから2人で席に座る。今回観るのは純愛映画のようだが……かなりマイナーなのか他にお客さんもおらず実質2人での貸し切り状態になっていた。
「清隆さんは映画は観ます?」
「いえ、実はあんまり……何度か誘われたんですが、結局行けなかったので」
「じゃあ、楽しみましょうね」
隣の席でそう微笑む美星さん。なんだかその横顔にドキドキしていると丁度電気が消えてお馴染みのカメラのパントマイムと他の映画の予告が流れる。パントマイムを生で観るのは初めてなので地味に感動しているとそれを美星さんは微笑ましそうに見ていたのだった。
物語はよくある恋愛映画の定番のようなストーリーで、内容としてはまあまあという感じだったが、なんだか隣に好きな人がいるからか、それなりに面白く感じた。
ふと、飲み物に手を伸ばすと美星さんの手と軽く接触してしまった。俺は申し訳なく思い謝ろうとすると美星さんは微笑んで言った。
「ふふ、当たっちゃいましたね」
……暗がりでも俺が軽く赤くなっていたのは多分バレてるよね。本当に自分でもチョロいとは思うけど……それだけ美星さんが好きなのだろうと思う。
後半になってくると、少し切ないシーンが出てきて少しうるっとしてしまったが……また、美星さんの前で泣くのも恥ずかしいので我慢する。と、隣で軽く美星さんも涙ぐんでいるのが見えたので俺は思わずハンカチを美星さんに差し出していた。
「……ありがとうございます」
嬉しそうに受け取ってくれた美星さん。ちゃんと洗濯はしてるし汚くはないだろうけど……俺なんかのハンカチで少し申し訳なくはなる。
初めての映画館が2人きりの映画館というのはなんとも贅沢な感じがして……俺がこんなに幸せでいいのかと不安にもなるけど、隣に美星さんがいるのが本当に嬉しく感じるんだよね。
知らない間に俺は贅沢になってしまったんだろうけど……それでも、この人と一緒にいたいと思った。映画のように切ない恋をしたいとは思わない。でも、俺は美星さんには幸せでいて欲しい。そのために俺が出来ることがあるならなんでもしたいが……心の中で美星さんを独占したいとも思うから本当に贅沢だと思う。
そっと、隣で美星さんが俺の手を握った。映画を観たままだから無意識なのだろうけど……求めてくれたことが嬉しくて控えめに手を握り返していた。
その手の柔らかさを感じながらラストまで映画を観終わったが……多分内容よりも美星さんの手の温もりの方が強かったのは秘密だ。